著名な経営者にも愛読者が多い「経営学の父」、ピーター・ドラッカー。数多くの著作の中で最も読まれているものの一つが『マネジメント』。ボストン コンサルティング グループの森健太郎さんが読み解きます。第1回は、本書のメッセージの全体像と、ドラッカーのその他の著作を紹介。 『ビジネスの名著を読む〔マネジメント編〕』 (日本経済新聞社編、日本経済新聞出版)から抜粋してお届けします。
著名経営者が愛読
本連載では、経営学の父、ピーター・ドラッカー(1909〜2005)著の『マネジメント』を取り上げます。ソニー創業者の盛田昭夫氏やユニクロの柳井正会長兼社長をはじめ、ドラッカーの愛読者は数知れません。もし必読の経営書を1冊だけ挙げるとしたら、間違いなくドラッカーの本でしょう。
ドラッカーの著作は多岐に及びますが、その中核を成すのが経営論三部作です。1954年に『現代の経営』(ダイヤモンド社)を発表、企業の中核機能は「マーケティング」と「イノベーション」であると論じます。1964年の『創造する経営者』(ダイヤモンド社)では経営戦略を正面から取り上げ、企業の目的は「顧客の創造」であるとしました。
そして、ドラッカーが万人のための経営学として世に出したのが、今も世界中で広く読まれている1966年の『経営者の条件』(ダイヤモンド社)です。1974年にドラッカー経営学の集大成として書かれた『マネジメント』は、翻訳版は1000ページを超える総合書です。
ドラッカーの言葉は分かりやすく、数式や難解な理論はありません。若い読者が手に取ると、当たり前のことが並んでいて何がすごいのかピンとこないかもしれません。最初はそれでもかまいません。将来、初めて部下を持ったとき、全社プロジェクトに抜擢(ばってき)されたとき、壁にぶち当たったときなどに、ふと本棚のドラッカーを思い出して、また読んでみる。すると、ドラッカーは必ず、新たな気づきを与えてくれ、励ましてくれます。私もそうでした。

『マネジメント』の中でドラッカーは、現代社会を「組織社会」と捉えて、マネジメントこそが「社会の要」であり、社会の中核を担う崇高な存在であると位置付けます。社会の進歩と人の幸せは、企業、政府、NPOなどの様々な組織が、マネジメント層によっていかにして運営され、どれだけの成果を生み出すことができるかにかかっているからです。
そして、マネジメントは「実践と行動」によって誰にでも学べるものであると説き、企業にとって、管理職にとって、そして経営陣にとって、具体的に何が求められているのかを考察します。
なぜ崇高な存在なのか?
Welcome to Management !(経営者の道にようこそ!)
「いつか経営者になりたい」。ピーター・ドラッカーの『マネジメント』を手に取る人の中には、そんな高い志を持つ人が少なくないでしょう。皆さんをドラッカーは温かく迎えてくれるはずです。
ここでは、将来、NPOの経営を目指す若手ビジネスマンAさんに役立つ「ドラッカーの読み方」を考えてみましょう。
ドラッカーは『マネジメント』の中で、マネジメント(マネジャー)こそが「社会の要」であり、社会の中核を担う崇高な存在であると位置付けています。社会の進歩は、企業、政府、NPOなどの様々な組織が、マネジメント層によっていかにして運営され、どれだけの成果を生み出すことができるかにかかっているからです。きれい事に聞こえるかもしれませんが、ドラッカーはそのような社会における使命や位置付けをとても重要視しました。
また、ドラッカーは、マネジメントは誰でも学ぶことができる「万人のための教養」であり、とても普遍的なものだと語っています。Aさんの目標はNPOでの活躍ですが、実際にNPOを見ると、企業経験を積んだ方が数多く活躍されています。組織を率いて、人の強みを生かし、成果をあげて、社会にインパクトを与えるという能力の多くは、営利・非営利を問わず共通なものです。
したがって、将来NPOを目指すとしても、ドラッカーはAさんに、若い頃に企業で経験を積むことをすすめるかもしれません。
ドラッカーが重要だとする6冊
そんなAさんにふさわしいドラッカーの著書はどれでしょう。
ドラッカー自身は、晩年のインタビューで、自身が最も重要だと考える著作として、次の6冊を挙げています(『ドラッカーへの旅 知の巨人の思想と人生をたどる』<ジェフリー・A・クレイムズ著/ 有賀裕子訳/SBクリエイティブ>から)。
『企業とは何か』(1945、ダイヤモンド社)
『現代の経営』(1954、同)
『創造する経営者』(1964、同)
『経営者の条件』(1966、同)
『断絶の時代』(1969、同)
『イノベーションと企業家精神』(1985、同)
若いAさんが、将来NPOのマネジメントを目指して自己成長のヒントを得ることを目的に読むとしたら『経営者の条件』か上田惇生氏編訳の『はじめて読むドラッカー【自己実現編】プロフェッショナルの条件--いかに成果をあげ、成長するか』(ダイヤモンド社)をお薦めします。
前者には原著特有のいい意味での粗削り感とパンチがあり、一方、後者はよくまとまっていて全体感があります。
また、名言集、格言集が好きな読者には、『[英和対訳]決定版 ドラッカー名言集』(上田惇生編訳、ダイヤモンド社)がお薦めです。さすがドラッカー、いくつも心を打つ言葉があります。私が好きな言葉を三つだけご紹介しましょう。
① 自らの強みに集中せよ
不得意なことの改善にあまり時間を使ってはならない。自らの強みに集中すべきである。弱みを平均並みにするよりも、一流を超一流にする方がはるかに容易である
② 自ら変化をつくり出せ
変化をマネジメントする最善の方法は、自ら変化をつくり出すことである
③ 何によって覚えられたいか
私が13歳のとき、先生が生徒一人ひとりに、「何によって覚えられたいかね」と聞いた。誰も答えられなかった。先生は笑いながらこういった。「今答えられるとは思わない。でも、50歳になって答えられないと問題だよ。人生を無駄に過ごしたことになるからね」

多くのビジネスパーソンが読み継ぐ不朽の名著を、第一級の経営学者やコンサルタントが解説。難解な本も大部の本も内容をコンパクトにまとめ、ポイントが短時間で身に付くお得な1冊です。
日本経済新聞社(編)、2640円(税込)