早期リタイアを実現する「FIRE」がブームになっています。FIREはなぜ注目されているのか? FIREを目指すことでどのようなメリットがあるのか? FP(ファイナンシャルプランナー)として数多くの人に資産運用のアドバイスを行い、 『普通の会社員でもできる日本版FIRE超入門』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著書がある山崎俊輔さんに聞きました。

FIRE 2つのテーマ

 ここ数年、資産運用について調べていて、「FIRE」というキーワードを目にする人も多いのではないでしょうか。FIREはアメリカやヨーロッパから始まったライフスタイルで、「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を取ったもの。FI(経済的自立)を成し遂げ、RE(早期リタイア)するという意味です。

 早ければ30代で早期リタイアを目指しますが、そんなことが可能なのでしょうか。そもそも、なぜFIREが世界で話題となっているのでしょうか。まずはその背景について、説明したいと思います。

 FIREには2つのテーマが内包されています。

 1つは「FI(経済的自立)の状態を確保する」ということ。これはまさに資産形成の目的でもあります。経済的に安心して自立できるからこそ、2つ目のRE(早期リタイア)が可能となるのです。

 「経済的な自立・安心を早期に手に入れる」というのは、FPの私から見ても、決して夢物語ではなく、理想的なことです。

 一昔前の団塊世代に多かったのは、多額のローンを組んで家を買ったり車を買ったりして、「一生ローンと付き合い続ける人生」でした。それでいて「宵越しの金は持たない」主義で、給料が入ったら飲み代に使ってしまうことも。昔、ある会社では、「今日のお酒を我慢して、貯金しよう。それが子どもの学費になる」といった標語を人事部が貼っていたと聞いたこともあります。

 結果的にずっとローンに追われている人生で、自由がない。手元にお金もないから、仕事が嫌でも仕方なく定年まで働く──といった価値観が当たり前でした。

「経済的に自立できるからこそ、早期リタイアが可能になります」と話す山崎俊輔さん
「経済的に自立できるからこそ、早期リタイアが可能になります」と話す山崎俊輔さん
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チャレンジを笑ってはいけない

 一方、Z世代やミレニアル世代など若い世代は、「会社や仕事に縛られたくない」「リタイアの時期は自分で決めたい」と思っている人が増えているようです。また、年金制度への不信感が強い人も多く、早期にFIを手に入れようとして、資産形成に真面目に取り組んでもいます。

 ソニー生命が発表した「社会人1年目と2年目の意識調査2022」(*)では、社会人2年目の500人に「社会人1年目にためた金額」を聞いたところ、平均62万円だったそうです。併せて「30歳時点の目標貯蓄額」を聞いたところ、「500万円~600万円未満」が17.6%、「1000万円〜2000万円未満」が24.4%となり、平均は847万円。家計を健全な状態でやりくりしたいという意志が見て取れます。

*調査期間:2022年3月15日〜23日/調査対象者:2022年春から働き始める社会人1年生、または就職してから1年がたつ社会人2年生/年齢:20~29歳の男女/有効サンプル数:1000人/調査協力会社:ネットエイジア


 2022年4月からは高校生向けの学習指導要領が改訂され、金融経済教育が拡充されました。これからの世代は、若いうちから金融リテラシーを身に付けるでしょう。Z世代以降は歴史上初めて、「自らリタイア時期を選択する世代」となるかもしれません。

 FIREというとイロモノのように捉えがちですが、若い人の真面目なチャレンジを鼻で笑ってはいけない。ちゃんと応援しようと私も気を付けています。

FIRE最大のメリットとは?

 改めて、FIREのメリットとは何でしょうか。

 もちろん、経済的自立や安心、早期リタイアによる時間的な余裕を得られることなどが挙げられますが、それはつまり「自分で自分の人生をデザインできる」という自由度を獲得することだと思います。

 今はリカレント教育(社会人の学び直し)が大事だと言われていますが、経済的に余裕があれば、そうしたチャレンジがしやすくなります。また、会社に見切りをつけて転職したい、実際に転職活動をしてみたがうまくいかない、この際だから資格を取ろう、といったときにも、500万円や1000万円くらい取り崩しても困らないだけの貯蓄があれば、いかようにでも舵(かじ)を切れます。FIREの達成が数年遅れても、働きがいのある仕事ができる方が人生において価値があるはずです。

 FIREを目指すというと、早期リタイアや資産1億円のような非現実的イメージを持つ人が多いかもしれません。しかし「働く自由」と「辞める自由」を手に入れる選択肢でもある、と考えてみてください。

 例えば会社で、パワハラがキツくて健康を損ない、仕事が続けられないと感じたとします。異動願いを出しつつ長期療養に入ることもできますが(健康保険の傷病手当金がもらえる)、会社があまりにも冷淡なら、辞めて職場環境をリセットするのも選択肢の1つです。このとき、「FIREを目指してためてきたお金があるので1年はやっていける」と思えればずいぶん楽になります。「来月のやりくりも苦しいので、胃に穴を開けてでも仕事を休むわけにはいかない」という状態とは大違いです。

「『自分で自分の人生をデザインできる』ことがFIREのメリット」
「『自分で自分の人生をデザインできる』ことがFIREのメリット」
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30代、40代のFIREでなくてもいい

 ただ、そうは言っても、「今から早期リタイアには資産形成が間に合わない」というミドル世代や、「仕事にやりがいを感じているから、働けるうちはずっと働きたい」という人もいるでしょう。

 私は、FIREをするのは何も30代、40代でなくてもいいと考えています。FIREをする年齢を早く設定すればするほど貯蓄に回す金額が大きくなり、厳しい節約を強いられる日々が続き、実現のハードルが高くなります。より現実味のある50代、60代でかまいません。65歳が定年だとして60歳で辞める「プチFIRE」ができれば十分。他の人より5歳も若い状態で自由な時間が増えるのですから。

 今日より若い日はありませんから、決して今から始めても遅くはありません。次回は、FIREチャレンジをするために参考にしたい本を紹介します。

取材・文/三浦香代子 写真/小野さやか