経済的に自立し早期リタイアをするFIREが注目されています。FIREを実現するためにはどうすればいいのか? 日本に合った現実的な方法は? FP(ファイナンシャルプランナー)として数多くの人に資産運用のアドバイスを行い、 『普通の会社員でもできる日本版FIRE超入門』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著書がある山崎俊輔さんが、お薦めの本を紹介します。
FIRE第一人者のメソッド
「FIREに興味はあるけれども、どこから手を着けていいか分からない。本当に実現可能なのか」と思う人もいるでしょう。今回はFIREチャレンジに役立つ本を紹介します。
最初は、全米で話題となり、FIREの第一人者とも言われる著者の 『FIRE 最強の早期リタイア術 最速でお金から自由になれる究極メソッド』 (クリスティー・シェン、ブライス・リャン著/岩本正明訳/ダイヤモンド社)です。
著者のクリスティー・シェンは元エンジニア、31歳でミリオネア(資産額100万ドル以上)となり、今は世界中を旅しながら作家として文章を書いています。こう聞くと、「特別な才能があったから」「よっぽど恵まれた環境だったに違いない」と思いがちですよね。
ところが、彼女が幼少期に一番楽しかった思い出の1つは「医療廃棄物の山をあさっていたこと」だとか。初めて豊かさを感じたのは「コカ・コーラを飲んだ日」、一家は1日44セントで過ごす日もあったそうです。そうした貧しい状況でつちかった「欠乏マインド」をもとに、彼女は稼ぐ努力をし、節約を重ね、投資で資産を築きました。
本書は、FIREチャレンジの大前提はしっかり稼ぐことと節約だ、と指摘しているところに面白みがあります。アメリカの高度消費社会に対するアンチテーゼでもあるわけです。
また、本書では「資産を運用するならインデックス投資(日経平均株価やNYダウ平均など市場の平均を表す指数に連動する商品への投資)がいい」と薦めています。下手にアクティブ投資(個別銘柄を選別する投資)の投資信託を買うと、高い運用コストを投資信託会社に持っていかれる。高い手数料を払って利益がそこそこなら、結局もうかるのは投資信託会社だけ。「ウォール街からお金を奪え」と忠告しています。私も資産運用の軸足はインデックス運用に置いていいと思います。
ただ、アメリカで出版された本なので仕方がないのですが、アメリカの株式マーケットや制度をベースにしているので、投資環境や税制の違う日本にはそのまま当てはまらない部分もあります。そこを理解した上で読めば、バランスよくまとまっている1冊です。
身の丈に合ったFIREの方法
2冊目に紹介するのは、日本版FIREの入門書とも言える 『「経済的自由」を最速で手に入れる! ぴったりの投資プランが最速で見つかる! マンガと図解 はじめてのFIRE』 (頼藤太希、高山一恵著/宝島社)です。
FIREというと、早期に完全リタイアし、以後は資産運用だけで生活する「フルFIRE」のイメージが強いかもしれませんが、この本では資産運用で収入を得つつ、好きな仕事や副業も続けるという「サイドFIRE」を提案しています。海外でもカフェなどで自由度の高い働き方をしつつセミリタイアするスタイルがあり、「バリスタFIRE」と呼ばれています。
資産運用や節約術に加えて、つみたてNISA(積み立て型の少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)、児童手当といった日本ならではの制度についても説明しながら、サイドFIREに必要な資金3000万円を17年間でつくる方法を紹介。漫画と図解がふんだんに使われていますので読みやすいですし、初めてFIREを知りたい人にはお薦めです。
早期に完全リタイアするフルFIREは理想的に思えますが、20歳代でキャリアアップを成功させ、収入の5〜8割を貯蓄に回す覚悟が必要です。年間支出の25倍の資産(400万円×25年=1億円)を築こうという難易度の高い方法です。
でも、サイドFIREなら、資産運用で月に10万円の不労所得を得ることが目標。副収入があるのでガツガツ働かなくてもよく、仕事に縛られることもない。やりがいや趣味を生かした勤労所得で月に15万円稼ぎ、合計月に25万円でストレスなく生活できる方法を考えてみようと提案しています。
みんなが億万長者になれるわけではありません。欧米流のFIRE本も参考にはなりますが、そのまま実現するのは難しい部分もあります。その点でこの本は、身の丈に合った、日本で達成しやすいFIREを提案していて好感が持てます。
投資しやすさは大きく進歩
今は、FIREに必須の投資を行う環境が整ってきています。
一昔前は投資信託の販売手数料も信託報酬も割高でしたが、今はネット証券(かつてはネット証券もありませんでした!)が普及し、販売手数料0円で信託報酬も低い投資信託が珍しくなくなりました。世界中に分散投資ができる投資信託を手軽に買えるようになったことは、ものすごい進歩です。しかも売買はスマホでできます。つみたてNISAやiDeCoという税制優遇の制度が整備されたことも大きいですね。
この環境を生かさない手はありません。しっかり稼いで上手に節約し、資産運用をすれば、サイドFIREは決して夢物語ではないと思います。
取材・文/三浦香代子 写真/小野さやか