FIREを達成するためには、「稼ぐ、節約する、投資する」というサイクルを回す必要があります。FP(ファイナンシャルプランナー)として数多くの人に資産運用のアドバイスを行い、 『普通の会社員でもできる日本版FIRE超入門』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著書がある山崎俊輔さんが、そのために役立つ本を紹介。FIRE達成後の資産取り崩しと人生の幸せについても考えます。

厚切りジェイソンさんの節約術に脱帽

 FIREを実現するためには、「できるだけ多く稼ぐ」「しっかり節約する」「それを投資に回し続ける」というサイクルを確立する必要があります。

 当然ですが、資産形成を投資だけに頼り過ぎるとリスクが高くなります。例えば、個別株を買っていると、インデックス投資(日経平均株価やNYダウ平均など市場の平均を表す指数に連動する商品への投資)よりも荒れる騰落と向き合わなくてはいけません。また、企業の経営実態と乖離(かいり)した短期的な値動きに踊らされることもしばしばです。結果として仕事に集中できず、プライベートでもストレスを抱えてしまうようではいけません。

 だからこそ、「稼ぐ」「節約する」ことが大事になるのですが、それをまさに体現しているのが、厚切りジェイソンさん。著書の 『ジェイソン流 お金の増やし方』 (厚切りジェイソン著/ぴあ)では、すでに資産運用で家族が一生暮らせる額を手にしているという生活ぶりが詳しく語られています。

 厚切りジェイソンさんはIT企業の取締役であり、お笑い芸人でもあります。人よりも多く稼いでいるはずですが、この本では「交通手段はまず歩く」「洋服は基本買わない、またはお下がり」「ジムは公共施設を活用」「カフェやコンビニでコーヒーは買わず、ペットボトルにインスタントコーヒーを入れて持参」といった徹底した節約術が紹介されています。

徹底した節約術が紹介されている『ジェイソン流 お金の増やし方』
徹底した節約術が紹介されている『ジェイソン流 お金の増やし方』
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 思わず「本当にそこまでやっているの? Why!?」と驚かされますが、そこまでお金に対する意識が徹底しているからFI(経済的自立)を手に入れたのだと納得です。FIREにおける節約の重要性を考えるいい本だと思います。

 厚切りジェイソンさんは投資先としてアメリカ株を推薦しているので、そこは読み手によって好みが分かれるところかもしれませんが、すごく面白い1冊です。

資産は「ほったらかし」でも増える

 厚切りジェイソンさんもインデックス投資をしているそうですが、これを取り上げた 『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』 (山崎元、水瀬ケンイチ著/朝日新書)も紹介しましょう。

 山崎元さんはもともと三菱商事に就職し、金融関連で12回の転職を経て、経済評論家となられた方。山崎さんは「金融機関が暴利をむさぼるのはよくない」というのが基本的なスタンスです。

 水瀬ケンイチさんはIT企業勤務の投資ブロガー。日本ではまだマイナーだったインデックス投資を20年以上前から続け、資産1億円を達成しています。

インデックス投資について解説した『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』
インデックス投資について解説した『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』
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 投資では、「何にどこまで時間を割くか」というのは結構大きな問題です。例えば、個別株を買っていたら、朝イチで株価をチェックし、経済紙を読んで、ファイナンス関連のニューストピックをチェックして……と1日中追われることになりかねませんが、仕事をしながらこれをこなすのは難しい。

 一方、インデックス投資を活用し、人生の貴重な時間を投資に割くことはなるべくやめ、かつパフォーマンスは悪くないものにするという考え方もあります。本のタイトル通り「ほったらかし投資」です。では、具体的にどうすればいいのか? という疑問に答えてくれるのがこの本。証券口座の開設方法から実行マニュアルまで書かれているので親切です。FIREチャレンジしている人の運用方針は、ここですべて学べると思います。

FIRE後に資産をどう取り崩すか

 いよいよ念願のFIREを達成した。さて、めでたしめでたし……となるでしょうか。

 実際にはFIREを達成した途端、「取り崩しの不安」に襲われる人もいるでしょう。理論上は「4%ルール」で、投資資産を毎年4%ほど運用で増やし、その4%を取り崩していけばいいことになります。生活費25年分の資産の4%はちょうど1年分の生活費になり、資産がまったく減らずに済むというロジックです。

 ただ、現実として、マーケットはそんなに単純ではありません。今までの動きを見ても、ITバブルの崩壊、リーマン・ショック、新型コロナウイルスの流行、直近では今年5月のアメリカ株の急落など大きな上下動の波が幾度もやって来ました。マーケットが急落したタイミングでも、資産を取り崩して生活費に充てていいのか悩むことになります。

 そんな不安に応えてくれる本が、 『定年後のお金 寿命までに資産切れにならない方法』 (野尻哲史著/講談社+α新書)です。「定率引き出し」という方法を提唱しており、死ぬまでに資産が尽きてしまわないようにするためのノウハウを具体的に解説しています。基本的には年金生活者向けに書かれていますが、より若い世代のFIRE後の資産の取り崩し方を考える上で参考になるでしょう。

「FIREを達成しても『取り崩しの不安』に襲われる人もいます」と話す山崎さん
「FIREを達成しても『取り崩しの不安』に襲われる人もいます」と話す山崎さん
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リタイア後に何をやるのか

 世の中には、十分な資産があっても、「使いたくない」という人もいます。例えば、亡き夫から莫大な遺産を相続した。それをそのまま子どもに残したい。FPが「相続税もあるし、お子さんに満額が渡ることはない。自分の楽しみのために使ってもいいんですよ」と諭しても、聞く耳を持たない……というケースもあります。

 結局、人は一生お金のことを考えなくてはいけないのか? 何が幸せなのか? と疑問を感じたときに読みたいのが 『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』 (ビル・パーキンス著/児島修訳/ダイヤモンド社)です。

 本の中では「一刻も早く『経験』に金を使う」「子どもには死ぬ『前』に与える」「『死ぬまでにやりたいこと』は時期で考える」といったお金を使いながら幸せに生きるヒントが紹介されています。「45歳から60歳までで資産を取り崩し始めてもいい」とも書かれていて、FIREチャレンジ中だからと人生の楽しみや喜びをすべて封じ込めてしまわなくてもいいのだと気づかされます。

 経済的自立を手に入れることは素晴らしい。ただ一方で、ひたすらお金をためて無味乾燥な人生を送るのはさびしい。「FIREを達成した!」となっても、リタイア後に何もやることがないのでは、もったいないですよね。FIRE達成後もお金を使って趣味や生きがいをエンジョイしていいのです。もちろん計画性は大事ですが。

 連載第2回 「山崎俊輔 月10万円の不労所得でストレスなく働く『サイドFIRE』」 と今回で挙げた本に共通しているのは、「お金と幸せの関係を考える」という挑戦的なテーマです。本当に豊かな生活とは何なのか、ぜひ考えてみてください。

取材・文/三浦香代子 写真/小野さやか