最近はインフレが進み、資産が預貯金だけでは目減りしてしまうため、投資に取り組むことが必要になってきています。また、2024年1月からはNISA(少額投資非課税制度)が大改正されて新NISAがスタート、いっそう投資をしやすい環境が整います。では、どのように投資を進めればよいのでしょうか。井出真吾・ニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジストが著書を参考に解説します。井出さんが投資に役立つ本を挙げる連載の最終回。

第1回 「井出真吾『日経平均は史上最高値へ』、株式相場の波を読む本」
第2回 「井出真吾 ウクライナ戦争、台湾有事…投資への影響を測る本」

誰もが「資産形成」必須の時代

 第1回でも述べた通り、世の中はデフレからインフレに向かいつつあります。資産を預貯金だけで持っていては、相対的に目減りします。もちろん預貯金の金利も若干は上がるでしょうが、それで物価の上昇分を補えるかといえば、極めて望みは薄いと思います。

 つまり、自分の資産形成について、いよいよ真剣に考えなければならない時代になったということです。そういうニーズに少しでも役立てばとの思いから、2022年5月に私が上梓したのが『 40代から始める 攻めと守りの資産形成 』(日本経済新聞出版)です。

井出さんの著書『40代から始める 攻めと守りの資産形成』
井出さんの著書『40代から始める 攻めと守りの資産形成』
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 基本的なコンセプトは、「お金のことは人生の総収入で考えましょう」。これからの人生に必要な金額は人それぞれ、また労働収入も年金収入も人それぞれですが、足りない分があれば資産運用、つまり投資で補えばいいというスタンスです。

基本は「長期投資」で

 そう言うと、投資経験のない方から「株を買って損をしたくない」「投資にはリスクがある」と警戒されたりします。しかし、そもそもリスクとは何か整理して考える必要があるでしょう。繰り返しますが、インフレが迫る中で預貯金しか持たないこともリスクなのです。

 それから、基本は長期投資に徹すること。一般に「ハイリスク・ハイリターン」と言われますが、それは短期投資に限った話です。例えば投資信託の場合、投資期間が5年、10年と長くなるほど、複利効果が働いてリターンは大きくなります。一方リスクには「投資期間の平方根に比例して大きくなる」という法則があります。詳しい説明は省きますが、仮に10年運用すればリスクも10倍になるのではなく約3.2倍、20年なら約4.5倍にしかならないのです。

 もちろん価格は毎日変動するので、場合によっては大きく下がることもあります。10年運用しても、元本割れのリスクはゼロではありません。しかし20年以上の運用なら、その可能性はほぼゼロになるのです。リスクにはそういう特性があるということを、覚えておいて損はないでしょう。

 その意味では、投資は若い人ほど有利で、またできるだけ早く始めたほうがいいということでもあります。ただし、シニア層だからといって諦める必要はありません。別に1人で完結する必要はないからです。子供や孫がいるなら、資産を受け継いでもらえばいい。そう考えれば、ずっと長期の運用が可能になります。

 実はこれは、ヨーロッパの貴族の運用法です。彼らにとって資産とは個人のものではなく、家のもの。だから何世代にもわたって長期で運用し、富が富を生んでいるわけです。社会的なショックに見舞われようが不動産バブル崩壊に直面しようが、長期的に見ればいつか回復すると考えているから、株でも土地でもそう簡単には手放さない。なかなか没落しないのはそのためです。

 私がそういう話をすると、ほぼ間違いなく「いや日本の相続税は高いから」という反論をいただきます。しかし、長期投資なら十分にリターンを得られるはずなので、その一部を税金で払ってもバチは当たらないと思うのですが、いかがでしょうか。

投資に回すお金は一部でいい

 また、貯蓄の全額を投資に振り向ける必要はありません。とりあえずインフレリスクで損をしないことを目指すなら、相応の金額で十分です。

 例えば100万円の現金があるとします。仮に1%のインフレがずっと続くとすると、100万円の価値は30年後に74万円程度にまで減ります。しかしインフレに合わせてずっと1%で運用できれば、プラスマイナスはゼロになります。

 では、1%で運用するにはどうすればいいか。例えば、世界の株価指数に連動するインデックス型の投資信託に投資し、5%程度の利回りが得られたとします。すると、100万円のうち20万円だけその投信に振り向けることで、資金の目減りを防ぎ、インフレリスクを回避できるわけです。これは「守りの資産形成」と言えるでしょう。

「貯蓄の全額を投資に振り向ける必要はありません」と話す井出さん
「貯蓄の全額を投資に振り向ける必要はありません」と話す井出さん
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 それを基本として、もう少しチャレンジしたいなら投資金額の割合を増やすとか、プロのファンドマネジャーが銘柄を選別して運用するアクティブ型の投資信託や個別株を買ってより大きなリターンを狙うとか、いろいろ勉強しながらやってみるのも面白いと思います。これが「攻めの資産形成」です。ただし、いずれも投資期間が短いほどリスクが大きくなることは忘れずに。

新NISAが日本経済にもたらす好循環

 さて、2024年1月から新NISA(少額投資非課税制度)がスタートします。NISAは株や投信への投資で得た利益にかかる税金がゼロになる制度ですが、今回、非課税の投資枠が年間360万円(生涯で1800万円)に増えること、しかも非課税保有期間が無期限になることが最大の特徴です。

 この制度が株式市場に与えるプラスのインパクトは絶大です。折からのインフレ警戒もあり、今まで投資に縁のなかった方でも、利用してみようと考えるのではないでしょうか。

 新NISAの購入資金が株式市場に流入すれば、日経平均やTOPIX(東証株価指数)は大きく伸びるでしょう。その様子を見て、ますます新NISAを利用する方が増えると思います。それによって投資家の含み益が膨らめば、日本経済全体にとってプラスです。まさに好循環が生まれるわけです。

 そこで最近よく聞かれるのが、具体的に何を買えばいいのかということです。確かに投資信託にしても約6000本あります。この中から最適なものを選ぶというのは、なかなか至難の業でしょう。投資対象のメインとして考えられるのは、日経平均株価やTOPIX、米S&P500、全世界株式指数といった株価指数に連動するインデックス型の投資信託です。すでに投資をしている多くの人が利用している点も、初心者は安心できるのではないでしょうか。

 ただし注意すべき点は2つ。1つは繰り返しになりますが、あくまでも長期投資を前提にすること。最初の5年や10年の間には、元本割れに直面する場面もあるでしょう。しかし20年持ち続ければ、ほぼ確実にプラスになります。価格が下がっても、途中であわてて売らないことが大事です。

 もう1つは、手数料に留意すること。投信を保有している投資家は、信託報酬という管理手数料を負担する必要があります。投資家が別途支払うのではなく、投信の財産から日々自動的に引かれます。この信託報酬は投信によって年率0.1%程度から2~3%のものまで幅があります。仮に0.1%の差だとしても、20年間運用するとすれば2%。1000万円の投資額なら20万円の差になります。決して小さい額ではないので、事前によく確認したほうがいいでしょう。

ゼロ歳からの積立投資で老後不安解消

 ただし、新NISAにも1つだけ残念な点があります。新制度の発足にともない、18歳未満が利用できるジュニアNISAが2023年末で廃止されることです。新NISAの口座を作れるのは18歳以上なので、18歳未満がNISAを利用する道は閉ざされます。

 これは、時代に逆行する策だと思います。むしろゼロ歳から利用できるようにしたほうがいいというのが、私の考えです。例えば、親やおじいちゃん・おばあちゃんが子どもにお金をあげて、その口座に毎月1万円ずつ積立投資をしたとします。これなら年間12万円なので、贈与税もかかりません。

 毎年の平均リターン4%で生まれたときから30年間継続したとすれば、元本360万円が688万円になります。さらに、途中から本人が受け継いで60歳まで続ければ、2917万円にまで膨らみます(元本720万円)。「年金財政の危機」とか「老後2000万円問題」などがしばしば取り沙汰されますが、個人レベルでそれらの不安を大幅に軽減することができるわけです。

 拙著には、こうした投資の考え方やノウハウをいろいろ盛り込んでいます。新NISAが決まる前に書いた本ですが、応用できる話ばかりです。資産形成の一助になれば幸いです。

「新NISAによって好循環が生まれます」
「新NISAによって好循環が生まれます」
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文/島田栄昭 写真/小野さやか

景気に左右されず、豊かに生きる新ルール

・長期投資は「中リスク・高リターン」
・投資信託のコストはお金だけじゃない
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井出真吾著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)