2023年11月10日、『日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか?』編集者の黒沢正俊は長崎・出島にいた。「組織の閉塞感に悩む企業人必見のイベントがある」と聞き、取材に訪れたのだ。その名は「出島組織サミット」。他ならぬONEも「出島組織」なのだという。そもそも出島組織とは? 日本型組織の限界を打破する鍵とは? サミットの現場から伝えてもらおう。
「はみ出し者」45組織が長崎・出島に集結
「はみ出し者」集まれ──北は北海道大学オープンエデュケーションセンターから南はシンガポールのオーシャン・ネットワーク・エキスプレス(ONE)まで、企業の子会社・新規事業部門や自治体・大学の外部組織、地域活動や社会起業組織など45の組織が参加した第2回出島組織サミットが11月10日、長崎市の出島メッセ長崎で開催された。
出島組織の概要については、日本郵船、商船三井、川崎汽船の邦船3社のコンテナ事業部門を統合して生まれたONEを描いた『 日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか? 』(幡野武彦、松田琢磨著、日経BP)に詳しい。出島組織の定義は、次の2点。
① 本体組織から何かしらの形ではみ出して
② 新しい価値を生む組織
ONEは、東京から遠く離れたシンガポールに2017年に設立された出島的な新会社だ。本社や霞が関の監督官庁から物理的に離れることで、グローバルな市場を相手にしたスタートアップとして設計された。シンガポールの本社には19カ国のスタッフが勤務し、コロナ禍による世界的な物流の混乱によるコンテナ運賃高騰もあり、2021年度と2022年度の2年連続で2兆円の利益を稼ぎ出した。ONEは出島組織の華々しい成功例といえるだろう。
長崎・出島という江戸時代の対外交易の窓口だった場のイメージから生まれた日本オリジナルの経営概念「出島組織」の可能性について、第2回サミットに参加したユニークな出島組織の具体的な活動をいくつか紹介する。
デジタル世代捉えた「未来を先取る出島」みんなの銀行
参加組織は第1回の1.5倍に増え、ハウス食品、JR東日本スタートアップ、ZIPAIR、東京都庁などから、地域で活動する福山電業、社会福祉法人ながよ光彩会、日本NPOセンターなど大小さまざまな顔ぶれがそろった。
みんなの銀行は、ふくおかフィナンシャルグループの日本初のデジタルバンク、フルクラウドの銀行として2019年に設立され、20年12月に営業免許を取得、翌21年1月から銀行システムが稼働している。
1877年創業の第十七国立銀行が前身の福岡銀行を中核とする同グループの傘下には、同行のほか、みんなの銀行、熊本銀行(熊本)、十八親和銀行(長崎)、今年10月に新たに加わった福岡中央銀行の計5行が並ぶ。
設立の中心メンバーである中原淳一CXOオフィスリーダーによれば、「これだけの数の銀行がグループ内にあるなか、他方で人口減少や『GAFAが銀行をつくったら……』というホラーストーリーも迫っている。未来の銀行を今つくったら?と考えたのが設立の原点」という。
ターゲットをZ世代・ミレニアル世代、いわゆるデジタルネーティブ世代に定め、銀行に足を運ばない、なんでもスマホで済ませたい、というこの世代の行動変容を捉えた仕組みづくりを徹底し、数分で口座開設が可能という便利さが評判となり、すでに80万口座を獲得している。30代以下が7割を占める。「通帳、カード、印鑑は不要、スマホがあれば24時間365日、口座開設が可能」がうたい文句だ。サミット実行委員会の中村直史さんは、みんなの銀行の取り組みを「未来を先取りする出島」と位置付ける。
みんなの銀行の発表で一番会場が沸いたのは、「設立計画に対して総論賛成であるが各論になると疑問を持つ役員もいたが、2年かけて疑問点をすべて解消することができた」という周到な社内調整に触れたときだった。
みんなの銀行はエンジニアが4割を占め、プロジェクトベースのマトリックス組織だ。従来の金融機関のイメージからは想像できない大胆な試みを続けている。
「福岡銀行は、バブル崩壊後には他の金融機関に先駆けて不良債権をすべて処理し、いち早く持ち株会社方式へ移行している。そのときのチームメンバーの1人が当行の永吉健一頭取です」と中原さん。みんなの銀行のDNAに、こうしたチャレンジ精神に富む組織風土があったことが分かる。
日本初のデジタルバンクの挑戦は、みんなの銀行著『 イノベーションのジレンマからの脱出 日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」誕生の軌跡に学ぶ 』(日経BP)に詳しく描かれている。
世界で課題に挑む「出島の協同組合」ボーダレス・ジャパン
「社会起業家のための会社」を標榜するのがボーダレス・ジャパン。『 9割の社会問題はビジネスで解決できる 』(PHP研究所)という著書がある社長の田口一成さんが、持ち時間いっぱいの5分間の見事なプレゼンテーションで会場を圧倒した。
バングラデシュ、ミャンマー、ケニア、フィリピンなど世界13カ国49事業でソーシャルビジネスを展開し、従業員数は1400人を超える。同社が運営する社会起業家が支え合う仕組みの「カンパニオ」は、各社が売り上げの1%を拠出し、その資金を元手として新たな社会起業家が社会課題を解決するビジネスを立ち上げる。立ち上げた後は、売り上げの1%を出す側に回る「恩送り」という仕組みもユニークだ。
「ボーダレス・ジャパンの企業群は、結び付きと助け合いの精神が非常に強い。社長たちがたえずアドバイスしあって、経営をサポートしている。出島家族のようだ」と中村さんは語る。
このほか、従来の製品の枠を超えてカレーパン事業に進出したハウス食品など新規事業の成果を披露した企業や、地域の社会課題に取り組む組織の報告があった。広島県福山市内の休業中のデパートをイベントスペースとして活用する活動に取り組み、1万人以上を集める成功を収めた福山電業なども、売り上げ10億円の企業だが、積極的に社会課題に取り組んでいる。
サミットの仕掛け人は「電通Bチーム」
組織が大きければ大きいほど、伝統があればあるほど、出島組織のような「異物」には抵抗が強い。初参加の大手企業の子会社役員は「本社の社長以外は全役員が敵でした」と発言して、会場を笑わせたが、組織内の抵抗は当たり前の出島組織同士の一体感で会場は熱気に包まれた。
この出島組織サミットの仕掛け人は、電通OBの3人である実行委員会の鳥巣智行会長、倉成英俊副会長と中村直史さん。鳥巣さんと倉成さんは、「本業をA面とした場合、副業や趣味など個人的な側面であるB面を持った社員を集めて新規事業を生む電通Bチーム」、つまり電通の出島組織のメンバーとして、鳥巣さんは長崎市、倉成さんは東京をベースに活動している。中村さんは倉成さんと電通時代の同期で、現在は長崎県五島市にクリエーティブの会社をつくって活動している。
「電通Bチームとして出会った各社の出島組織の人たちが出島に行ったことがないというので、出島の歴史からヒントをもらいながら、出島組織同士の情報共有を図ろうと開いたのが出島組織サミットなんです」と倉成さん。
今回のサミットには、東日本高速道路、凸版印刷、三井不動産といった大手企業の出島組織の参加も目立った。主催者の思惑を大きく超えて、この「はみ出し者サミット」が注目されるのは、本体から離れ、人材と組織のグローバル化を進めて成功した前出ONEの事例が見事に示しているように、既存組織と明確に一線を画した出島組織こそ、「失われた30年」からの脱出の武器になることに多くの組織が気付いたからかもしれない。
今回のサミットを総括して、中村さんは「自発的な参加企業が多く、多様だった。サミットという場を学びにつなげ、価値のある事業をやっていきたいという熱意がすごかった」と語る。鳥巣さんも「社会福祉法人やNPOが初参加した。出島組織の悩みや志で共通するところが多くあり、盛り上がったのではないか」と語る。
参加した30の組織が、長崎市から出島組織の認定証を受けた。出島組織サミットは来年も実施される予定だ。





