「投資の知識がなくても大丈夫」「長期投資なら損をしない」「目先の値動きに一喜一憂してはいけない」――。ちまたにあふれるそうした言葉に、あなたは踊らされていないだろうか。『あなたが投資で儲からない理由』の著者・大江英樹さんは、そんな一見「常識」と思われる情報を一刀両断。初心者にこそ知ってほしい投資の心構えを解説してもらった。今回は1回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
周りにつられて投資を始める人が急増
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 『あなたが投資で儲からない理由』 …ドキッとするタイトルですね。著者の大江英樹さんにお越しいただきました。まずは、自己紹介をお願いします。
大江英樹(以下、大江) 私は長く野村證券に勤め、投資の世界で生きてきました。会社を辞めた後は、年金やセカンドライフ、行動経済学といったテーマで本を書いたり講演をしたりしてきたのですが、この本では初めて、かつての本業であった投資にフォーカスして書きました。
尾上 本業だった投資にフォーカスしたとのことですが、何かきっかけがあったのですか。
大江 この本を書いたそもそものきっかけは、ここ数年で投資を始める人が急増したことでした。私の周囲にも、世の中のムードにつられて投資を始めた人が結構いるんです。「みんながやっているし、儲かっているみたいだし」と、軽い気持ちで始めてみるわけですね。
ところが、投資で儲けるためには必要な心構えというものがあります。まずは、当然ですが基本的な勉強をすること。ロボアドバイザーに任せておけば、投資の知識がなくても安心して儲けることができる…といったうたい文句のサービスもあるようですが、実際はそれほど甘いものではありません。きちんと勉強をして、研究をして、自分の頭で考える。それが、投資で儲けるための基本です。
それから、投資にはリスクがつきものですから、リスクを取るという覚悟も必要です。運用を人に任せておきながら、うまくいかなければその人の責任と考えるようだと、いつまでたっても儲けることはできません。
尾上 この本の帯には、「SNS好きの人はなぜ危険なのか」とも書いてありますね。なぜ危険なのでしょう。
大江 SNSに限らずブログでも何でもそうなのですが、インターネット上の情報は正確なものばかりではありません。フェイクニュースなど、いいかげんな情報がいかにも真実であるかのように公開されていたりします。信ぴょう性のない個人の感想がアップされ、それをきちんと検証することもなく引用したりコメントしたりする人もたくさんいます。
このように、何でも安易に信じてしまう人は、投資をやってもなかなかうまくいきません。SNSが好きということ自体に問題はないのですが、そうした場で得た情報をうのみにせず、情報やデータを集めて自分で考える姿勢が求められるのです。
投資の世界では「信じる者は救われる」とは限りません。だから、何事も安易に信じないこと。自分の力で考え抜くということが大切ですね。
投資はそれほど甘くない
尾上 「はじめに」には、投資の本質を知ることが大事だとも書かれていますね。
大江 そうですね。最も重要なのは、「それほど甘くはない」という事実をしっかりと心に刻んでおくこと。投資は常にリスクを伴います。リスクのないところに、リターンはないというのが大原則です。にもかかわらず、ややもすれば「リスクなしで儲ける方法はないのか」と考えがちなんですよね。そういった考えでいると、投資詐欺にも遭いかねません。
尾上 また第1章には、「お金に執着する人ほど投資に失敗する」という項目もあります。
大江 行動経済学の視点から見てみると、人間というのはみな損をするのが嫌なのです。ただ、その気持ちが行き過ぎて、あまりにも損を嫌う人がいる。つまりお金に執着してしまう人です。
良い銘柄であれば、たとえ値下がりしても我慢して持ち続けたほうがいい。しかし、お金に対する執着が強い人にはそれが難しい。下がった状態が続いていると「これからもっと下がるかもしれない」と恐怖に駆られ、慌てて売ってしまうのです。
この文脈での「お金に執着する人」とは、言い換えると、リスクを取るべきときに取れない人ということ。そのような人は、あまり投資に向いていないかもしれませんね。少しくらいうまくいかなくても、「そのうち儲けられたらいいよね」くらいの気持ちでいたほうがいいと思いますよ。
構成/谷和美