「投資の知識がなくても大丈夫」「長期投資なら損をしない」「目先の値動きに一喜一憂してはいけない」――。ちまたにあふれるそうした言葉に、あなたは踊らされていないだろうか。『あなたが投資で儲からない理由』の著者・大江英樹さんは、そんな一見「常識」と思われる情報を一刀両断。初心者にこそ知ってほしい投資の心構えを解説してもらった。今回は2回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
「リスク」を正しく理解しよう
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回も、著書 『あなたが投資で儲からない理由』 から、第2章「投資の“常識”に潜む罠」についてお聞きしたいと思います。この章にもあるように、確かに長期投資はリスクが小さいと捉えられがちですが、本当のところはどうなのでしょう。
大江英樹(以下、大江) はい、金融機関やファイナンシャルプランナー、そして金融庁までもが「長期投資は儲かる」というニュアンスの主張をしています。しかし、驚かれるかもしれませんが、厳密に言えば儲かるとは限りません。リスクが下がるということはある程度言えるのですが、必ず儲かるというわけではないのです。
そのとき、「リスク」という言葉の解釈にも誤差があると認識する必要があります。恐らく、世の中のほとんどの人は「リスク=損」と捉えているでしょう。ところが、資産運用に詳しい人や専門家の解釈は異なります。「リスク=結果の不確実さ」。投資の結果が不確実になることが、リスクなのです。
その意味で考えると、長期的に投資をすることによって、儲かるときと儲からないときの差は小さくなっていきますから、収益のブレがなくなっていくということは言えるでしょう。ただしそれは、儲けに直結するわけではありません。
尾上 「リスク」という言葉の意味を、まずは正確に理解することが重要ですね。また長期投資と同様に、分散投資もリスクを軽減できると考えられていますよね。
大江 そうですね。分散投資というと、直感的に「これは良さそうだ」と思う人は多いのではないでしょうか。例えば、大学入試のときに受験先を分散させておけば、進学先がなくなるというリスクを軽減できますよね。分散投資も、それと同じようなメリットがあるだろうと。
しかし投資についていえば、投資先をただ分散するだけでは効果を期待できないことがあります。分散投資の狙いは、収益のばらつきを少なくすることでリスクを軽減すること。そう考えると、値動きの性質が異なるものに分散しなければ意味がないのです。例えばトヨタと日産に分散投資をしても、その2社は同じ自動車業界なので値動きが似ています。円高になれば、いずれも収益はマイナスになりやすいでしょう。
つまり、分かりやすく言えば、円高と円安でそれぞれメリットが出るような企業に分散すればいいのです。そうすれば、為替がどのように変化したとしても、損をするのは一方だけ。残る一方ではうまくいくというわけです。
尾上 投資する業種や分野を分散させたり、株と債券という形で分散させたり。そういった方法でなければ、分散させる意味がないということですね。
大江 そうです。また、世界の株式に分散投資するというのも、一定の効果があると考えていいでしょう。
値動きに一喜一憂した経験が身を助ける
尾上 続いてお伺いしていきますが、「初心者は一喜一憂すべし」とも書かれていますね。これはどういうことでしょう。
大江 これも、多くの専門家とは真逆の主張かもしれません。一般的には「目先の値動きに一喜一憂してはいけません」といわれることが多いです。もちろんそれは、間違いではありません。しかし、頭で理解していても、ついつい一喜一憂してしまうのが人間というもの。
投資した株が値上がりすればうれしくて「もっと儲かるかもしれない」と買い増ししてしまったり、下がれば逃げ出したい気持ちになって売ってしまったり。これはいずれも、投資で儲けるためには正解とはいえない行動です。目先の動きに惑わされず、淡々と投資を続けていく。それこそが適切な方法であるというのは、多くの専門家も言っている通りです。
しかし、だからこそ私がおすすめしたいのは、初めのうちに小さな失敗をしておくこと。一喜一憂する気持ちは止められませんから、その気持ちに動かされて一度は損をしてみる。そうすれば、失敗を通して適切な考え方が身に付くはずですから。
投資信託は今、月々100円ほどの少額からでも始められるようになっています。仮に月1000円で始めたとすれば、3年続けても3万6000円です。何度か飲みに行けば消えるくらいのお金ですから、手を出しやすいのではないでしょうか。
そうして3年積み立てているうちに、1度くらいは暴落や暴騰を経験することでしょう。そのときに一喜一憂して、売ったり買ったりしてみればいい。恐らく損をすると思いますが、その経験こそが大事なのです。
尾上 そうした経験のおかげで、大きな損を避けられるのですね。
大江 そうです。ただ、大き過ぎる失敗は取り返しがつかないこともあります。一番やってはいけないのは、退職金で思い切った投資デビューをすること。初心者なのに、いきなり大金をつぎ込んでしまう。そんな無謀な挑戦をすれば当然失敗もするし、もう取り返しがつきません。まずは少額で練習することから始めたほうがいいですね。
尾上 次に、「投資の原理主義者」についても教えていただけますか。
大江 はい。投資には、さまざまな流派があります。例えば、投資信託であればインデックス派とアクティブ派、株式投資であればファンダメンタルズ派とテクニカル派というように。どの流派もそれぞれ一理あるわけですが、他流派の考えを受け入れず、「この流派こそが正しい」と原理主義に陥るのはよくありません。
「ある局面においてはファンダメンタルズ派だけど、ある局面においてはテクニカル派で考えよう」というように、柔軟な態度で捉えていったほうがいいでしょう。一つの流派に凝り固まると視野が狭くなり、収益の機会を逃すことにもなりかねないからです。
構成/谷和美