インターネット動画配信は、ウォルト・ディズニーの参入により戦国時代へ突入した。ディズニーは映画やドラマ等を配信する「ディズニープラス」をスタートさせ、ネットフリックスに挑む。対するネットフリックスは、コンテンツ制作スタジオをつくり、事業を強化して迎え撃つ。ストリーミング最前線を『ネットフリックス vs. ディズニー』著者の大原通郎氏が解説。今回は3回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

オリンピックもストリーミング配信が激増

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 東京2020オリンピックも、ストリーミングで視聴する人が非常に多かったそうですね。

大原通郎(以下、大原) オリンピックについては、アメリカ向けがNBC、ヨーロッパ向けはディスカバリーが放映権を持っています。ディスカバリーはドキュメンタリー専門のチャンネルですが、ヨーロッパ最大のスポーツチャンネル、ユーロスポーツを買収し傘下に置いています。そのユーロスポーツがオリンピック放映権を獲得したんですね。

 両社とも東京オリンピックが終わった後に五輪放送結果を発表したのですが、それを見ると、驚くことにストリーミング視聴が非常に多かったのです。

 アメリカのNBCは、地上波放送の視聴率は低かったと発表しました。アメリカと日本は時差があるので、夜8時から11時までのプライムタイムにアメリカでは録画放映されていたんですね。しかし、録画を見る視聴者は少なく、リオデジャネイロオリンピックに比べて半減。具体的には、毎日1560万人くらいしか視聴者がいなかったそうです。これは、オリンピックでは低い数字です。

 ところが、ストリーミング配信では多くの視聴者を獲得しました。NBCは自社のストリーミングサービス「Peacock」で東京オリンピックを配信したのですが、視聴された時間は17日間の期間中で延べ7330万時間、1日平均431万時間。リアルタイムで競技を見られるのはストリーミング配信とあって、視聴者が殺到したんですね。これはリオに比べて25%増、冬の平昌の2倍でした。

 もっとすごかったのはYouTubeです。オリンピック専用チャンネルを立ち上げ、配信しました。これは驚異的な視聴時間で、17日間で延べ2億時間だったそうですよ。

尾上 2億時間!

大原 2億時間突破。これはリオに比べて7倍、過去最高記録です。内訳を見ると、1日平均1億9000万回のアクセスがあったそうです。YouTubeの東京オリンピック専用チャンネルに登録した人は800万人超、人気種目の陸上競技や体操、水泳などの時間帯には多くの人がアクセスしました。アメリカの有力なメディア雑誌『バラエティ』は、「東京オリンピックはストリーミングオリンピックだった」と総括しているほどです。

スポーツが最強コンテンツの一角に

尾上 スポーツのストリーミング配信をめぐる攻防については、 『ネットフリックス vs. ディズニー』 にも詳しくありましたが、アメリカの主要スポーツ配信はアマゾンがキープレーヤーだそうですね。

アマゾンの参入で、ストリーミング配信のメディア勢力図はどう変わっていくのか
アマゾンの参入で、ストリーミング配信のメディア勢力図はどう変わっていくのか
画像のクリックで拡大表示

大原 アマゾンは、NFL(アメリカンフットボール)、NBA(プロバスケットボール)、MLB(メジャーリーグベースボール)などの放映権を次々に獲得しています。特に人気なのはNFLの中継ですが、視聴者の一番多い木曜夜の中継権も獲得しました。

 なぜNFLの放映権を取れるかというと、やはりアマゾンがお金を持っているからです。2020年の売り上げは、日本円にして40兆円超。多額のお金をスポーツ放映権の獲得に使えるわけです。アマゾンはアメリカンフットボールだけではなく、イギリスのサッカーのプレミアリーグの放映権も獲得しました。

 イギリスでは面白いことに、全世帯の半数以上がネットフリックスとアマゾンプライムビデオの両方に加入しているということが最近の調査で分かりました。イギリスは人口6700万~6800万人ですが、世帯数は2500万くらいといわれています。そのうち半数ほどの世帯が両サービスを契約しているのですから、結構な数ですね。

尾上 ユーザーを囲い込める、魅力あるコンテンツが多くあるということですよね。

大原 そうですね。アマゾンプライムは、買い物の配送特典やプライムビデオの見放題など、アマゾンが提供するサービスを定額利用できる非常に便利なサービスです。人気スポーツの中継映像を提供すれば、ますます加入者が増える好循環が生まれるでしょう。

尾上 スポーツ中継はあらゆるメディアにとって大事なコンテンツですが、ストリーミング配信が参入することで、勢力図は様変わりしそうですね。

大原 アメリカでは4大ネットワークのCBS、NBC、ABC、FOXがそれぞれスポーツチャンネルを持っていて、なかでもアメリカンフットボールの中継はキラーコンテンツです。コマーシャルの売り上げも相当なもの。特に、アメリカンフットボールのチャンピオンが決まる2月のスーパーボウルの中継には、何十億円というコマーシャルがつきます。CBS、NBC、FOXなどがスーパーボウルの放映権をめぐってしのぎを削ってきたのですが、今後はアマゾンやアップルなどの企業が参入する可能性もあります。

尾上 スポーツ中継も、これからのメディアやストリーミングサービスを大きく変えていく鍵になるということですね。

大原 そうですね。ストリーミングの人気コンテンツは映画やテレビドラマだといわれてきましたが、今後はスポーツもその1つになっていくでしょう。東京オリンピックでこれだけ成功したわけですから。

尾上 では最後に、読者へメッセージをお願いします。

大原 本書では、アメリカだけでなく、ヨーロッパやアジアで起きているメディアの動きにも触れていますので、世界のメディア動向を俯瞰して見られると思います。

 ストリーミングをめぐる新旧対決や攻防は今もまさに続いているところで、ここ数年で1つの決着を見ると思います。その決着が一体どういう形になるのか? これをフォローして続編を書きたいと思っていますので、ぜひ楽しみにしていてください。

構成/三浦香代子

音声でこの記事を楽しみたい人は…