「投資の知識がなくても大丈夫」「長期投資なら損をしない」「目先の値動きに一喜一憂してはいけない」――。ちまたにあふれるそうした言葉に、あなたは踊らされていないだろうか。『あなたが投資で儲からない理由』の著者・大江英樹さんは、そんな一見「常識」と思われる情報を一刀両断。初心者にこそ知ってほしい投資の心構えを解説してもらった。今回は3回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

「儲けるために投資する」と認めよう

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回は、 『あなたが投資で儲からない理由』 の第6章に書かれている「後悔しないための5つの原則」からお話を伺います。

大江英樹(以下、大江) この章の初めに書いているのが、投資は後ろめたいことではない、つまり後ろめたいからといって「免罪符を求めるな」ということです。

 多くの人にとって、投資の目的は儲けることです。にもかかわらず、そう言い切ってしまうことにためらいを感じる人がいる。そして、つい「好きな会社を応援するため」「世の中のため」というような言葉が口から出てしまうんですね。

 好きな会社を本当に応援したいなら、もっと直接的で適切な方法があるのではないでしょうか。例えば、レストラン経営をしている会社を応援したいなら、その株を買うよりもレストランへ食事に行ったほうがいいはず。ですから、もう堂々と「儲けるために投資をする」と言ってしまいましょう。そうして儲けたお金でレストランに行ってもいいし、寄付をしたっていい。そこに免罪符は必要ないのです。

自分に合うスタイルや勝ちパターンを見つけて、柔軟に取り組もう
自分に合うスタイルや勝ちパターンを見つけて、柔軟に取り組もう
画像のクリックで拡大表示

尾上 免罪符を求めない。これも、投資に当たっての大切な心構えなんですね。

大江 そうですね。そして、2つ目の原則は「自分の勝ちパターンを持て」ということ。これは前回お話しした「原理主義に陥るな」という内容と矛盾するように感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、人には得意不得意というものがあります。例えば、著名な投資家のジョン・テンプルトンは、いわゆる「ぼろ株」の専門家でした。業績が悪くて今にも潰れそうな会社の、安い株を買う。そして、その株が復活していくときに大きく儲ける。そうした得意パターンで勝負を続けていたのですね。

 皆さんのなかにも、短期売買が得意だという人もいれば、長期保有するほうが自分に合っているという人もいるでしょう。いろいろと試していくうちに、自分に合うパターンが見えてくると思います。「この方式しかダメだ」と思い込むのではなく、柔軟に取り組んでみるといいですね。

尾上 続いて、「待つ」ことについても教えてください。

大江 これはどういうことかというと、投資家にとって「待つ」ということも大事な仕事なのです。企業の価値と価格は、最終的には一致していくようになっています。しかし、そこにはタイムラグがあります。インデックス投資にしてもそうですね。

 投資を続ける過程ではリーマンショックのようなことも起こりますし、さまざまな紆余曲折を経るのは当然のこと。ですから、すぐに株価が上がらなくても、諦めたり逃げたりしないでください。慣れないうちは、株価が下がれば手放したくなることもあるかもしれません。しかし、「株ってそういうものだから」と大きく構えて待っていればいいんですよ。

自分で考える姿勢が投資を成功に導く

尾上 「頭を柔らかく」することも大切だと書かれていますね。

大江 世の中には投資に対するさまざまな考え方がありますが、それらを頭を柔らかくして捉えること。そして何事も「なぜだろう」「本当にそうだろうか」と考える姿勢を持ちたいですね。

 例えば、1850年頃のアメリカではゴールドラッシュがありました。このときに最も儲かったのは誰なのかというと、実は、金を掘っていた人よりも、作業着としてジーンズを売り出したリーバイスで、盤石の財産を築くことになりました。

 同じように、2000年代に入ってネット通販が普及するにつれ、電子決済の会社の株価は約100倍になりました。つまり、何かが注目されて大きな動きがあるときには、その中心にあるものよりも、その周辺のものの株価が上がる傾向がある。そうした現象を、頭を柔らかくして捉えていくことが重要です。

尾上 なるほど、面白いですね。そして、最後の原則が「無理をしてはいけない」ですね。

大江 これは、手持ちのお金を目いっぱい使って無理な投資をしないように、ということです。私はこれまで多くの投資家に話を聞いてきましたが、彼らに「一番悔しいことは何か」と尋ねると、口をそろえて言うのが「買い時なのに、お金がなくて買えないこと」ということ。限界まで投資にお金をつぎ込んで無理をしているから、ここぞというときに手を打てなくなるわけです。そうした事態を防ぐためにも、投資用の資金の1~2割はキャッシュでとっておくといいですね。ちなみに私は、常に3割ほどの資金をキャッシュで置いておくようにしています。

尾上 なるほど。それでは最後に改めて、投資で儲けるために大事なことについて教えてください。

大江 いろいろと申し上げましたが、一番大事なことは何かというと、「自分の頭で考える」ことに尽きると思います。

尾上 そのためにも『あなたが投資で儲からない理由』を読んでいただきたいですね。

大江 そうですね。ただし、読んでもそのまま信用してはいけませんよ。私が書いていることだって、正しいのかどうかは分からないのですから。そうやって疑ってかかるというのが、自分の頭で考えるということ。この本を読んだうえで、ぜひ、その内容が正しいのかどうかをご自身で考えていただけたらと思っています。

構成/谷和美

音声でこの記事を楽しみたい人は…