DXを推進しようにも、「何から始めたらいいか分からない」「人材がいない」と頭を悩ませる企業は、今も多いのではないでしょうか。『総務部DX課 岬ましろ』の主人公も、そんな洋菓子店チェーンの会社で突然DX担当に任命され、悪戦苦闘しながらプロジェクトに取り組んでいきます。本書の著者、Kaizen Platformの須藤憲司さんに、DX化の現場で直面する課題や実践的な解決策について話を聞きました。今回は1回目。(聞き手は、担当編集の雨宮百子)
「DX人材がいない」の声に応えたい
担当編集・雨宮百子(以下、雨宮) ビジネス小説 『総務部DX課 岬ましろ』 の著者、Kaizen Platform(カイゼンプラットフォーム)代表取締役の須藤憲司さんにお越しいただきました。
私が須藤さんと本をつくるのは、この『総務部DX課 岬ましろ』で2作目になりますね。1作目は『90日で成果をだす DX入門』で、「DXが初めて」という人に向けてつくった本でした。
須藤憲司・Kaizen Platform代表取締役(以下、須藤) 前作の『DX入門』の読者層は、大企業の部長といったミドル層を想定し、もし今、上から「DXをやれ」と指示が来た場合、「何をやらなきゃいけないか」ということを中心に書きました。非常に喜ばしいことに、ターゲットにちゃんと届き、「すごくよかったです」という反応もいただいています。
ただ、一方で「うちにはDX人材がいないのだけれど、どうしたらいいですか」と相談を受けることも多くて、これは自分の中での課題になりました。
DXを進めるには、その会社のこと、事業のこと、現場のことなどを分かっていないと難しいんです。例えば、僕がその会社に転職してDX担当になっても、まず総務の人への対応も分からないですし、営業現場でみんなに協力してもらうためにはまず誰に話を取り付けるのか、誰がキーマンなのか、経営会議でどうやって協力を仰いだらいいかもすぐには分からない。
つまり、DX人材という魔法使いみたいな人がいて、その人が来てくれればDXをやってくれる──ということは、あり得ないんです。むしろ、社内や現場で頑張っている人たちがDXのことを学んだ方が、DX化は進むのです。『DX入門』でもそのことをメッセージとして書いたつもりでしたが、「実際にどうやってDXを始めたらいいか分からない」という声は、やはりよく聞かれました。
そういったことが、今作の『総務部DX課 岬ましろ』をビジネス小説として書いた背景にあります。中小企業を舞台にDX化をストーリー仕立てで描けば、分かりやすいのではないか、と。
「そんな無茶振り」から始まる物語
雨宮 本作では、「岬ましろ」という若い女性が主人公ですね。
須藤 新卒入社4年目の女性で、なんならちょっとやる気もない(笑)。転職しようかとさえ思っている子が「あなたが今日からDX担当ね」と言われて、「そんな無茶振りありですか?!」というところから物語が始まります。これは現実にも結構あることで、「すごく共感します」「急にDXをやれと言われて、自分が担当することになっちゃったんです」という人が、割といるんですよね。つまり「いきなりDX担当」はリアルな問題ですから、やる気があってもなくても、「DXは頑張ったらできるんだ」と知ってほしいという思いもあります。
雨宮 しかも大企業やIT企業ではなく、洋菓子店という一見DXとはかけ離れたような舞台ですよね。
須藤 そうですね。50店舗くらいの洋菓子店チェーンが舞台です。紙やファクス、電話で注文を受け、紙の伝票を書いてファクスを送るという、デジタルとはほど遠い会社がDXを進めるとはどういうことなのか、リアリティーを持って分かりやすく書いています。
雨宮 アニメっぽいイラストなども使っていますが、「社内でのコミュニケーションをどう取っていくか」というときに「Slack」を導入する描写など、実際の内容はかなり具体的なビジネス書という印象です。そのあたりは意識されたのですか。
須藤 そうですね。その点は現場のリアルな声を参考にした部分もあります。
例えば「自分のスマホを業務に使わせるかどうか」というシーン。本の中では、BYOD(Bring Your Own Device)、つまり自分のスマホを業務に持ち込むことを許可するという選択をします。これについては、実は思い切った選択の方に振っています。
会社でスマホを貸与するところもあると思いますが、やはり自分が使い慣れているデバイスを業務で使えるというのはメリットが大きい。でも、DXでそれをするとリスクもたくさんあります。どうしたらそのリスクを乗り越えられるかということを伝えられるよう意識しましたね。
雨宮 なるほど。ツイッターなどSNSでもいろいろな反響があったと思いますが、印象的だったコメントはありますか。
須藤 まず1つ目は、「めちゃくちゃ分かりやすい」「自分が置かれている境遇もあって、共感できる」という声ですね。こういった感想が一番多かったです。
2つ目は「次に自分たちが何をやらなきゃいけないか、よく分かった」という中小企業の経営者たちからのコメントです。「Slackは一応入っている。SNSはこれからやろうと思っていた」「アプリも考えていた」とか、少しずつSaaSを取り入れて、eコマースをやって、BtoCをやって…という、「次に何をやらなきゃいけないかというテーマが見つかった」という声ですね。
3つ目は「自分たちの会社に置き換えたら、今はどんなステージだろうかと考えた」という声。この3つの反応が多かったですね。
構成/三浦香代子