メディアについて理解を深め、情報がどのように伝わるのか知ることはビジネスパーソンにとって必須のリテラシー。3回目はメディアとの向き合い方や本の大切さ、竹下流の読書術などについて聞きました。
2回目 竹下隆一郎 ビジネスパーソンとメディアの「力と役割」を考えた本
3回目 竹下隆一郎 動画が盛り上がる時代こそ「本の価値」は強くなる 今はここ

メディアの基本を体系的に学ぶ、新版が出るたびに購入
メディアについて知るための本は片っ端から読んでいるつもりですが、それでも「分かったつもり」になるのは危険だと自覚しています。
丸善・丸の内本店3階にあるメディア関連の棚には定期的に寄って、「知らない本はないかな?」とチェックし、“業界の基本”を体系的に学べる教科書を見かけたら、迷わず買うようにしています。
『 パブリックリレーションズ[第3版] 』(井之上喬著、日本評論社)は、本書は第3版ですが、初版から買っています。「PR」と略されることが多いパブリック・リレーションが、その名の通り「公共の社会との関係性構築」のための手段であることを具体的に示してくれる本です。
おすすめしたい部分はたくさんあるのですが、なかでも本質をよく伝えているのが31ページのイラストです。1人の人物には「生物学的な男性」という属性のほか、「会社員」「父親」「音楽愛好家」「野球ファン」「納税者」などさまざまな側面があることを示す絵が描かれています。個人の多様性を理解すれば、情報の伝え方にも工夫や配慮が自然と加わるでしょう。
27ページにも、すべてのビジネスパーソンが一度は見るべき図が載っています。「企業のステークホルダーとは誰なのか」を示す図です。ステークホルダーというと「株主」をまず思い浮かべ、次に「従業員」や「消費者」まで広げて考える人が多いのではないかと思いますが、それでは全然足りないのだとこの本は教えてくれます。
従業員だけでなく、従業員の家族、工場で働くパートの人やその家族、海外法人のパートナー企業で働く人々、事業所がある街で暮らす近隣の人々、自治体…。一つの企業の周りには幅広く多様な人たちがステークホルダーとして存在している。だから、社会の隅々にまで影響を与える人がいることを意識しながら情報発信をしなければいけないのだと、あらためて気付かされます。
この関係性が常に頭に入っていれば、いわゆる「炎上」のリスクも軽減できるはずです。「こういう発信をした先に、どんな人が何を感じるだろうか」と思いをはせることが大事ですよね。私も意識づけのために、この図をスクショしてスマホに保存しています。
メディアと安全保障のつながり、背筋が伸びる思いをした本
パブリック・リレーションの本質を理解した後に読みたいのが、『
戦略的コミュニケーションと国際政治 新しい安全保障政策の論理
』(青井千由紀著、日本経済新聞出版)です。
国際安全保障や国際政治の研究者である青井千由紀先生によると、国際政治における戦略的コミュケーションとは「外交・安全保障上の政治目的の達成に向けて、言葉、(非)行動、シンボル、イメージなどを包括的に用い、対象とする相手の行動を変更せしめる意図をもって作用を促すこと」(同書「はじめに」より)。
たとえば、「ルールに基づく国際政治」を前提に国際政治を進めようとするならば、さまざまな形で「ルールに基づく国際政治が大事ですよ」という情報発信をして、ナラティブを形成することが重要になる。あるいは、新興国が発展していく過程で、その国が民主主義的な方向へ進むのかそうではないのかは、戦略的コミュニケーションにかかっているということです。
この本を読んだとき、私は背筋が伸びる思いがしました。私の仕事、つまり、メディアの仕事は安全保障とつながっているのだと気づかされたからです。
メディアを通じて私がどんな情報発信をするかは、なんらかの
ナラティブの形成の一端となる
。世界平和につなげることもできるかもしれないが、もしかしたら暴力に加担してしまうリスクもある。その緊張感を忘れず、自らの倫理観を磨かなくてはいけないなと、胸に刻みました。
著者の青井先生が教壇に立ち、さまざまな有識者が参加した東京大学公共政策大学院の講座も受講しました。個人で出す出費としては、それなりの覚悟がいる金額でしたが、それでも受けたいと思ったんです。
話のエッセンスはすでに本に書かれているので、話を聞き、新たな知識をインプットすることが目的ではありません。著者のパッションやオーラを直接浴びたいから行くのです。私自身も本を書いたことがあるので分かるのですが、本を書く行為は身を削るような格闘の連続です。そこまでして書こう、書かねばならないと思って筆を進めたその人の情念を感じたいと思うから、会いに行くのです。たとえ直接会話を交わせなくても、同じ空間に居るだけで、その佇まいから感じ取れるものは必ずあるんです。すると本の内容も、一段と深く染み入ります。
特に本が発売された直後には、出版記念セミナーやイベントが開催されることも多いですし、本気でチャンスを探せば見つかります。心が動かされた本の著者には会いに行くのがおすすめです。
「超スキマ時間」を活用、3分空いたら本を読む
最後に、私なりの読書術を少しだけ。
1日に数本の番組を収録して公開していると、「忙しそうなのに、いつそんなに本を読んでいるのか?」と聞かれることはよくあります。コツは、本を常にかばんに入れて持ち歩くこと。そして、細切れの“超スキマ時間”を活用することです。

朝起きてから夜寝るまで、どんなにスケジュールが詰まっている日でも3分くらいの余白はちょこちょこありますよね。その3分を活用するのです。
「たった3分で何が読めるの?」と思うかもしれませんが、3分あれば目次くらいは読めませんか。目次だけ読むのも十分に読書です。むしろ目次は本全体の骨子を理解するうえで最も重要なパートなので、目次を集中して読むだけでも上質な読書時間になります。
あるいは、何度も読み返している本なら、過去にマーカーを引いた箇所だけを拾い読みする。これも短時間で深いインプットができる読書になります。
「YouTubeが盛り上がれば、活字の文化は廃れるのでは」という声も時々聞かれますが、私はむしろこれからいっそう「本の価値」は高くなると確信しています。
特に“映像をつくる側”に立とうとするなら、本をよく読むか、本を書く人でないと勝負できなくなるでしょう。20~30分ほどの映像でしゃべるには、ものごとを構造化して、分かりやすく伝える技術が不可欠。本はまさに構造化された情報や知恵が詰まった教材です。
また、誰でもYouTubeで簡単に無料の情報にアクセスできる時代だからこそ、身銭を切ることでしか得られない情報を積極的に吸収している人の希少性は増すのではないでしょうか。
私は1人のビジネスパーソンとして、またメディア人として、本という教材から学び続けていきたいと思います。
取材・文/宮本恵理子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/鈴木愛子
![『パブリックリレーションズ[第3版]』(井之上喬著、日本評論社)。「情報の伝え方、発信の仕方について改めて考える機会になります」/画像クリックでAmazonページへ](https://cdn-bookplus.nikkei.com/atcl/column/040400495/040400003/02.jpg?__scale=w:600,h:400&_sh=0680f10150)

