成長する会社によき人材あり。ディー・エヌ・エー(DeNA)の創業者であり、26年に社長に復帰した南場智子氏は、優秀な人間を口説き落とすことに心血を注いできた。逸材を呼び込むためにどんな努力をしてきたのか。南場氏の著書『不格好経営 チームDeNAの挑戦』(日本経済新聞出版)から抜粋して再構成。
人材には絶対に妥協しない
創業時から一貫して、どんな人手不足のときでも、人材の質には絶対に妥協しないことをポリシーとしてきた。何か深い考えがあったというより、とにかく優秀な人が純粋に好きだったからではないだろうか。便利だからとか必要だからとかではなく(事実必要だし便利だが)、すごい! と思える人、尊敬できる人と一緒にいると自身の気持ちも高揚し、怠惰な自分も最高に頑張れる。それもあって、黒字化の目処(めど)も立っていない時代からひとりひとり、これでもか、というピカピカの人材を口説き落としてきた。
今でこそ新卒採用だけでも年間数万人の応募があるが、無名のベンチャー時代はとにかく人集めに苦労した。創業期に参加したメンバーで親に反対されなかった人は少ない。反対する母親が会社に押しかけてきたこともあった。2002年ごろのこと。内定を撤回するまで帰らない、と文字通り玄関に座り込んだのだ 。
父親が早くに亡くなり、女手ひとつで育て上げ、立派な大学、立派な企業に入れた自慢のひとり息子が、ある日突然熱病にかかり、訳の分からないベンチャーに転職すると言い出した。何度聞いても事業内容は理解不能。社名も読めない。そのうえ社長が女性という三流感満載の会社(なんだそう)だ。内定を取り消せ、と数時間座り込み、そして「頑固せんべい」という米菓を置いて帰った。
ダメだよ、20歳を過ぎた大人が親を来させたら…と思うより先に、そんなに就職させたくない会社なのか、と愕然(がくぜん)とした気持ちでせんべいをかじった。とても硬くてしょっぱかった。
会社のイケてないところも正直に話す
人材の質にはマッキンゼー時代からこだわっていたが、会社を立ち上げ、「優秀」の定義に幅ができた。コンサルティング会社は皆経営コンサルタント、いわば単能工の組織であり、そこでの優秀さの軸は主にロジカルシンキング(論理的思考力)だ。しかしDeNAを立ち上げてすぐに、会社はロジカルな人間だけでは少しも前に進まないことが分かってくる。
事実、マッキンゼーのエース(自称)3人が1年で黒字化させますと宣言して会社をつくり、実際は4年も赤字を垂れ流したわけだ。コンサルタントの言うことは信用しないほうがいい。というのが本題ではなく、会社には、戦略立案が得意な人、サイトデザインができる人、システムがつくれる人、お客さんがとれる人、お金を守る人、チンピラを追い払える人、安価で斬新なマーケティングが組める人など、いろいろな役者が必要なのである。
多様な人材がいたほうが組織は強くなる。ロジカルシンキング軸だけでなく、多様な軸それぞれでトップレベルの人材が必要だ。どこまでも追いかけていって口説いた。そして今も口説いている。
DeNAが逸材を引っ張り込むのを見て、どうやって口説くのかと聞かれることが多い。が、人を口説くのはノウハウやテクニックではない。「策」の要素を排除し、魂であたらなければならない。きれいごとを言うようで気恥ずかしいが、私が採用にあたって心がけていることは、全力で口説く、誠実に口説く、の2点に尽きる。
全力で口説く、というのは、事業への熱い思いや会社への誇り、それから、その人の力がどれだけ必要かを熱心にストレートに伝えるということにほかならない。それはもう、全力であたる。欲しい人材は何年かかってもずっと追いかける。どの経営者もやっていることだと思う。
そして、相手にとって人生の重大な選択となることを忘れずに、正直に会社の問題や悩み、イケてないところなども話さなければならない。経営者や人事担当者だけではなく、なるべく多くの社員に会ってもらって会社の実態を肌で感じてもらうのもそのためだ。まあ、これも当たり前な話。単純で恐縮だ。
南場智子著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)

