『三国志』好きで知られる「ABEMA Prime」進行アナウンサーの平石直之さん。取材中、『三国志』の話になると途端に目が輝き、「自分を軍師だと思っている」と興奮気味に!ビジネスパーソンの日常に役立つ大人の戦術も学べるという。漫画も小説もゲームもすべて楽しむ、平石流『三国志』の楽しみ方を教えてもらった。

 『三国志』について話し始めるとですね、ウズウズして血湧き肉躍るんです。今も、テンションが上がってきました(笑)。そういうエナジードリンク的な側面があるんですよね、私にとって『三国志』は。

『三国志』の話になると、どんどんヒートアップしていった平石直之さん
『三国志』の話になると、どんどんヒートアップしていった平石直之さん

 好き過ぎて、人生初めての海外旅行は中国でした。ドラマのロケ地巡りならぬ、三国志ゆかりの地巡りをしましたから。読むとスイッチが入って、やる気が出る。調子が上がらないときなど、自分を鼓舞するために読み返しています。

漫画から小説まで堪能するのが平石さん流。写真は『三国志』(吉川英治歴史時代文庫、講談社)
漫画から小説まで堪能するのが平石さん流。写真は『三国志』(吉川英治歴史時代文庫、講談社)

――『三国志』とは、西暦180~280年ごろの中国で、魏・呉・蜀という三国が天下を三分し、多くの英雄や豪傑が活躍した時代の歴史を記した書のこと。後漢時代末期の184年、政治が腐敗して反乱が勃発した。それを境に群雄割拠し、幾多の戦いの末に、曹操、孫権、そして諸葛孔明を擁する劉備が勝ち残り、おのおのが政府を樹立して三国を建国。その三国は時に手を組んだり牙をむき合ったり、世代交代もしながら天下統一を懸けて、長きにわたって激烈な戦いを繰り広げた。小説のほか漫画やアニメ、テレビドラマ、映画、ゲームなど様々な作品があり、世界的な人気を誇るものが多い。

小学生から今もずっと魅了され続ける

 初めて読んだのは小学2、3年生のとき。教室に横山光輝さんの漫画全60巻が置いてあって、何気なく手に取ったのが始まりです。教室に全巻そろっているって、考えてみれば、ぜいたくですよね。高学年になってからは、活字でも読むようになりました。

 『三国志』には演義という史実をベースにした時代小説と、正史という史実をつづった歴史書があります。

 横山光輝さんの漫画や、吉川英治さんの『三国志』は前者の演義を、陳舜臣さんの『秘本三国志』や『諸葛孔明』は正史を元にして書かれています。どれも読んでいて、さらに陳舜臣さんによる中国史の『史記』、吉川英治さんによる中国の伝奇小説『新・水滸伝』や『宮本武蔵』というふうに、『三国志』を起点にして、読書の幅が広がりました。

 登場人物は1000人超。三国それぞれの国や人の立場でのものの見方、考え方が違っていて、善人に悪人、頭脳派や肉体派など千差万別です。

ただ、一見悪人と思われる人も、その人の立場で考えたら、自分たちの国や民が生き残るために必要な選択と行動を取っているだけ。視点を変えると、見えるものが違ってくるんです。おかげで、多角的なものの見方や考え方がかなり養われました。

 内政と外交のバランス、攻守のバランス、国造りなどの要素も網羅されている。「適材適所」の重要性も『三国志』から学びましたね。

不測の事態もシミュレーション

 また、人心掌握(人の心をつかんで意図した方向に向かわせること)や、権謀術数(相手を巧みに欺く策略のこと)といった心理術や、捲土(けんど)重来(一度戦いに負けた者が勢いを盛り返して巻き返すこと)という、苦しみに耐えて成功の機会を待つ必要性も知りました。

 私が好きなのは、諸葛亮孔明や司馬懿仲達などの軍師です。自分が軍師になった気持ちで読むのはもちろん、ゲームをするのもすごく楽しい。

 ゲームは小学校高学年から始めて、今もぼちぼちしますが、もっぱら自分が軍師になって戦いを進めるものばかりです。この戦いには誰を主将にして騎馬隊を何体、弓兵や歩兵はどう編成してどういう陣形で臨むか。敵地まで到達するのに20日ほどかかりそうだから、兵糧はこのぐらい持って行けば足りるか。できるだけ戦闘を避けるために、大軍で包囲したうえで降伏を迫るか、など。

 でも、どんなに緻密に計画しても、相手の応じ方次第で状況は変わります。戦地に行ってみたら、雨が降ってくることもある。そうした不測の事態に直面しても、慌てず焦らず臨機応変に対応していくことが勝利のカギになる。頭の体操として、かなりいい鍛錬になります。

 と、ふと思いましたが、軍師と、日ごろ私が担っているファシリテーターは似ているかもしれません。

毎日、気分は軍師

 担当している報道番組「ABEMA prime」(通称アベプラ)は、複数の識者がグループトークをするスタイルで、台本があってないような世界です。

 予想外に、このテーマに詳しくないと思っていた人がヒートアップして語り出してしまったけれども、面白いからもう少し話してもらおう、ということもあれば、専門家だけど思ったほどキレがよくないから他の人に話を振ったほうがいいな、ということも。常に、状況に応じて軌道修正して、戦略も立て直しながら進めています。

識者のメンツは毎回変わります。それがアベプラのダイナミクスで、“いい戦い”になるように組み立てるのが、ファシリテーターの役割です。常に人数以上の成果が出るように3人いたら1+1+1が3以上になることを目指していますが、うまくいかなくて2以下になることも。

「大いに反省しつつも、気分は軍師なので、楽しく戦っています」
「大いに反省しつつも、気分は軍師なので、楽しく戦っています」

 『三国志』は、軍師としての視点だけではなく、君主や武将、兵士、市民、家族の立場でも多角的なものの見方や考え方、シミュレーション力、中長期的な視点やリーダーシップなど、ビジネスに役立つ力がたくさん養われると思います。

『三国志』ビギナーはこの作品から

 単純に、『三国志』好きの人が集まると話が盛り上がって親しくなりやすいのもメリットですよね。好きな登場人物がその人の性格を占うヒントにもなる。コミュニケーションのきっかけになるいい素材なんですよね。

 まだ『三国志』の世界に踏み入ったことがない人にとっては、いろいろな作品があり過ぎて途方に暮れるかもしれません。

そこで私のお薦めは、まず有名な戦い「赤壁の戦い」がモチーフになった映画『レッドクリフ』を見てから、漫画や小説を読むことです。アニメで全体像をつかんでから、漫画や小説に進むのもいいと思います。

 ちなみに私は今、中国のドラマ「三国志Three Kingdoms」と、「三国志 司馬懿 軍師連盟」も観ています。前者は全95話、後者は全86話。以前はHuluで、今はアマゾンプライムで。

「はい、2周目です(笑)」
「はい、2周目です(笑)」

 どの戦いも、どうなるか分かっているのに、何度見ても面白いんです。2周目で初めて気づくことも多い! 『三国志』は、本当に深いですよ~。

取材・文/茅島奈緒深 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部)
 写真/鈴木愛子(平石さん)、スタジオキャスパー(本)