ボビー・ジョーンズは「ゴルフは耳と耳の間のゲーム」と言い、岡本綾子は「ゴルフは首から上のスポーツ」と言った。頭を使えばスコアは大いに縮まることを物語っている。球聖・中部銀次郎がアマチュアゴルファーに教えたかったことは、まさに頭を使う賢いゴルフ。「読めば読むほどうまくなる『書斎のゴルフ』」第1回後編は、今と同じ技術でもたちまちスコアを10打縮めることができる「ゴルフの神髄」を紹介する。
前編「中部銀次郎 ゴルフを心から楽しむためのバイブル」
少し考えればスコアが10打縮まる
中部銀次郎がゴルフをしていた頃は、学生や社会人たちのアマチュアゴルフが隆盛を極めていた時代で、プロゴルフは試合数も少なくスターも不在だった。故にゴルファーならば誰もが日本一の冠がつく、日本アマチュアゴルフ選手権に照準を合わせていた。そうしたアマチュアゴルフ活況の時代に、中部は日本アマで6度の優勝を成し遂げた。
そうした中部が加齢と共に体力の衰えを感じ出して競技ゴルフから引退、アベレージゴルファーと余暇を楽しむゴルフをやり出して気づいたことがあった。
「私のことを記事にしていた新聞や雑誌の記者が、どうしてというくらい、自身のスコアをまとめられない。私よりも飛距離が出てパットも上手な人でさえ、いつも100を切るのがやっと。その理由は何も考えずにボールを打っているからです。少し考えてゴルフをすれば、今と同じ技術でもたちまちスコアを10打縮めることができる。それを教えたいという気持ちになったのです」
つまり、それが前編で紹介した『 中部銀次郎 ゴルフの神髄 新編 もっと深く、もっと楽しく 』(中部銀次郎著/日経ビジネス人文庫/2003年10月刊)である。だから、その重要なファクターには「ゴルフは考えるもの」ということがある。ボビー・ジョーンズは「ゴルフは耳と耳の間のゲーム」と言い、岡本綾子は「ゴルフは首から上のスポーツ」と言った。頭を使えばスコアは大いに縮まることを物語っている。中部が市井のゴルファーに教えたかったことは、まさに頭を使う賢いゴルフだったのである。
「頭を使う賢いゴルフ」の要諦とは?
賢いゴルフとは「拙い技術であっても、それを使ってコースを上手に攻める」ということだ。ミスを予測し、危険を回避し、危なげなくプレーする。クルマの運転であれば、「法定速度を守り、周囲に注意を払い、安全運転せよ」ということだ。中部に言わせれば、我々のゴルフは技術もないのにトップレーサーのつもりになってF1マシンを運転しているようなもの。事故が起きるのは当然というわけである。無謀なチャレンジャーに他ならない。なぜそんなことをするかと言えば、ゴルフでは命を取られないからである。
「このショットをミスしたら命がない。そう思ってプレーすれば誰でも頭を使った安全なゴルフを行い、結果、シングルハンデにもなれるのです」というわけだ。
では、『中部銀次郎 ゴルフの神髄』から、具体的に「頭を使うゴルフ」の要諦をいくつか書き出してみよう。まずはこの本の冒頭にある「ゲーム設計次第でスコアが変わる」という項目。「目の前にあるボールをどこへ打つべきか。そのことだけに専念することが大崩れを防ぐ」とある。これは「次善を求めて最善を尽くす」という中部語録にもなっている。なかなか100を切れない停滞ゴルファーの多くは、フェアウェイの真ん中目がけて力一杯ボールを飛ばそうとし、闇雲にピンを狙おうとする。しかし、その結果はたいがい取り返しのつかない大ケガをすることになる。
だからそうではなく、次のショットがうまく打てるところに目の前のショットを打つこと。そう考えれば、思い切り飛ばす必要がなくなり、闇雲にピンを狙う必要もない。技量もないのにパーを狙うこともない。ボギーで良しとすればボギーオンを設定する。パー4ならば3回でグリーンに乗せればいいわけで、安全運転ができるのだ。うまくいけばワンパットパーもあり、それだけで90を切ることができる。
本書では「自分自身を知れ」という項もある。ここでは、「自分を知り、自分のショット力を基に、徹底的に確率を重視したゴルフを課す」と説いている。「自分を知る」とは自分の力量を知るということである。力量とは、平均飛距離であり、平均スコアである。
しかし、市井のゴルファーは己の最大飛距離を自分の力量と思ってコースを攻める。つまりマン振りをし、ナイスショットは100に1つしか出ない。それなのに目標スコアは常に自分のベストスコアであり、無謀にもパー72を求めてプレーする輩(やから)もいるほどだ。
中部は「自分の平均スコアを基準にゲームを組み立てなければいけない」と説く。つまり、90が平均スコアだとすれば、最初からボギーゴルフを設計する。平均飛距離となる2割減の力で目標に飛ばし、無理にピンを狙わず、グリーンの手前まで運んでボギーオンを果たせばいい。それが「自分を知ったゴルフ」ということになるのである。こうした安全運転のゴルフをすれば、大叩きをせずに済み、普段の平均スコアよりも良いスコアにできるのだ。
中部語録はビジネスや人生の糧にもなる
本書には他にもいろいろな「頭を使うゴルフ」の要諦が出てくるが、ビジネスパーソンであれば、これら中部の言葉は仕事に通じると感じることも多いだろう。闇雲に全力を傾注するのではなく、自分の技量に応じた目標を立て、慎重に計画を練れば、おのずと目標が達成される。行き当たりばったりではたとえ全力を出し切っても、行き倒れになってしまう。
「ゴルフはまさに人生のようである」とは昔から言われることだが、ゴルフによって己を知れば、人生も明るい未来が待っているということになるのだ。
このように、中部のゴルフ哲学は単にゴルフにおいてだけ役立つというものではない。中部についての最新本は、拙書『 中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考 』(本條強著/日経プレミアシリーズ/2022年3月刊)をご覧いただきたい。
「ミスショットを前提にミスしても安全な所を狙う」「ティショットからパットまで、1本の糸が繋(つな)がっているようにプレーする」「技術を磨くのではなく、感覚を磨き、心を鍛える」――。ここに書かれた中部の数々の「心の鍵」もまた、ゴルフだけでなくビジネスや人生にも大いに役立つものばかりだ。中部の言葉は、誰の前にも壁となって立ちはだかる心の扉を開ける鍵となっている。
ゴルフをやっている人にはスコアアップを必ずや成し遂げるバイブルといってもよい。また、ゴルフをやっていない人にもぜひ読んでほしい1冊だ。読めばビジネスや人生の糧になるだけでなく、ゴルフという深遠なるスポーツを始めてみようという気持ちになるに違いない。
『 中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考 』
「飛ばさない心が、飛ばすことにつながる」「技術を磨くのではなく、感覚を磨き、心を鍛える」――。前人未到の日本アマ6勝、アマチュアの理想といわれた中部銀次郎の箴言(しんげん)に、心のゲームを制する「鍵」を知る。
本條強著/日本経済新聞出版/990円(税込み)