ゴルフの歴史は、ゴルフコースの歴史でもある。リンクスにコースを造ったスコットランドの先人は、現場主義、経験主義によって自然の地形を利用し、天然のハザードを活用した。ゴルフが南のイングランドへ広まると、オックスフォード、ケンブリッジ出身のインテリがコース設計に参画し、ここから「戦略型設計」が誕生する。これを踏襲した多くの名設計家が、英国や米国に数々の名コースを残した。
自然と闘い、大地と遊ぶ
ゴルフの本というと上達のための技術書が大半を占め、それにコース攻略法やゴルフギアの本が続く。ゴルフコースの本もあるが、多くがガイドブックである。ゴルフコースそのものにスポットを当て、なぜこのようなコースが生まれたのか、なぜ名コースと呼ばれるようになったのか、そういったことを書いた本はとても少ない。
それは、ゴルフではスコアという明確な数字がゴルファーの腕前を決める指標になっているためである。それだけに技術論や攻略法や道具に注目が集まるわけで、それはトップアマでもプロでも同様である。例えばゴルフの神様といわれる故・中部銀次郎さん(連載第1回 「中部銀次郎 ゴルフを心から楽しむためのバイブル」 参照)でも同様で、ゴルフコースの歴史には興味がなく、どこを回りたいといった欲望もなかった。ただひたすら己のゴルフの上達を求めた人だった。
今回紹介する『 コースが語る世界のゴルフ史 』(大塚和徳著/日本経済新聞出版/2015年6月)はゴルファーの多くが興味を示さないゴルフコースの話である。それもプレーしたことも見たこともない、また将来においてもプレーしないであろう世界のゴルフコースとその設計家たちの話だ。
しかし、ゴルフ好きを自認するのであるなら、ぜひ読んでほしい。ゴルフコースを造った人や改造した人の話はあなたのゴルフの幅を広げ、奥行きを深めてくれるに違いない。そしてそれはあなたのゴルフを向上させてくれるはずで、スコアにおいても顕著に表れてくるとこのコラムを書く筆者は考える。良いコースとはどういうものか、なぜバンカーがそこに置かれているのか、コース設計家の意図が理解できるようになれば、普段回るコースでも、攻略の楽しみが増すだろう。安全なパールートが浮かぶようになるかもしれない。だからこそ、大いに読むに値する本である。
この本を著した大塚和徳氏は1934年に大分県に生まれた。戦前の満州に育ち、日本に戻って東京大学経済学部に入学。卒業後、第一銀行を経て帝人に入社。ペンシルベニア大学に留学し、その後、英国「ターンベリー・ホテル」の経営に参画、「ジ・オックスフォードシャーGC(ゴルフクラブ)」の建設に携わる。こうしたことでゴルフコースの歴史や設計に興味を抱き、研究するようになる。
2021年に亡くなるまで世界450を超える名コースを巡っているが、それも単純なプレー欲からではなく、それぞれのコースの歴史を知るためだ。こうしたことから米国「ゴルフマガジン」誌の「世界ベスト100コース」の選定パネリストにも指名されていた。
ホームコースは英国ロイヤル・ノースデボンGC(イングランド最古のリンクス、ウェストウォード・ホー)であり、ロイヤル・セント・デイビッズGC(ウェールズ随一の名門)の会員である。日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員でもあった。
大塚氏の名がゴルフ界に知れ渡ったのは、1993年に刊行された『ゴルフ 五番目の愉しみ』(文春新書)であろう。筆者もこの本で大塚氏を知った。「五番目の愉しみ」とは、技術、道具、攻略、仲間という4つの愉しみの次に来るコースの歴史を知る愉しみということである。
しかし、この本は、筆者にとってはコースの歴史が論文的な説明文で書かれており、なおかつすでに知っていたことが多かったからだろうか、残念ながら読んで愉しいものではなかった。よって、今回読むことになった『コースが語る世界のゴルフ史』も読んで愉しいものではなかろうという思いがあった。ところがこの本は、筆者の目を開かせ、ゴルフ熱を大いに高めるものだった。その理由を書いていくのが、今回のコラムにはふさわしいように思う。
1000年の歴史を振り返る
大塚氏は本書の「はじめに」で書いている。
スポーツとして、アウトドアのゲームとして、ゴルフが他のスポーツやゲームと違う大きな特徴は「プレーするフィールドであるコースが、すべて個性的で、同じものがない」ことである。ホームコースに飽きれば、別のコースを訪ねれば良い。日本だけでなく、英国、米国に違うタイプのコースがいくつもある。ゴルフの尽きない魅力である。
まったく同感である。テニスならどこの国に行ってもテニスコートは一定の大きさで一緒である。英国ならばサーフェス(表面)が芝であることもないではないが、非常にまれである。ほとんどは土かハードコートの類いである。
ゴルフはコースによって変わる。それも毎ホール、大きさも形状も材質も違う。ティグラウンドもフェアウエーもバンカーもグリーンまで、まったく同じものはない。国々の持つ文化や人間性までも表すわけで、世界中のコースを巡る魅力は果てしない。それらは当然のことながらそのコースの歴史が物語るのである。
そして、その物語は古くからある名コースこそ深淵である。だからこそ、世界中にゴルフの歴史家が輩出されるのだ。ゴルフの歴史を知ることの面白さは、他のスポーツをはるかに凌駕(りょうが)する。それも年齢を重ねて技術やスコアが滞ってしまった筆者のようなゴルファーにおいてはなおさらである。日本中のゴルフコースを巡ってみたい。世界中のゴルフコースを巡ってみたい。それもゴルフの歴史を知ることのできるコースが興味の最先端となってしまうのは致し方ないことである。大塚氏もその一人になってしまったのだ。
大塚氏はこの本を4つの編にまとめた。
コース設計家の設計意図を知れば知るほど、どのようにコースが造られているか、そしてどうすれば自分の技量でうまくコースを攻めていくことができるかが分かってくる。よってスコア至上主義の人でもこの本は面白く読めるはずである。
偉大なコースを築いたコース設計の名匠
それでは大塚氏が4つにまとめた編の一つ一つの面白さを紹介していこう。
第1編「偉大なコースを築いたコース設計の名匠たち」から、筆者は引き込まれた。なぜなら、歴史的なコース設計家が何を考えてコースを造ったかが手に取るように分かったからだ。
まずはゴルフ設計の黎明(れいめい)期に巧みなプレーで活躍した伝説のゴルファー、オールド・トム・モリスの設計論に感服。彼のすごいところは、海岸沿いを行って戻る単純なリンクスの18ホールを、9ホールずつループ型にしたこと。これにより、風の方向が毎ホール変わることになり、プレーに妙味が生まれたのである。
次は「近代コース設計の父」と呼ばれているハリー・コルト。この人は日本でも有名なヒュー・アリソンの先生であり、ロンドン近郊の「ウェントワースGC」や「ミュアフィールドGC」などを設計している。コルトはそれぞれのホールにおいて、いくつかの攻略ルートを用意するという「戦略型設計」を具現化した。これが「近代コース」であり、トッププレーヤーはリスクと報酬を、アベレージゴルファーは安全を得ることができ、誰もが楽しめるコースとなった。
コルトの後は全英オープンで勝利を争った3巨頭がコースも設計。つまり、ジェームス・ブレイド、J.H.テイラー、ハリー・バードンの話である。彼らはプレーヤーの視線でコース設計を行ったことが特徴だ。つまり、スタートから数ホールはやさしく楽しくスムーズに、徐々に難しくしてゴルフの面白さを味わい、ラスト3ホールは厳しく勝敗を分ける設計にするというものである。
第1編の終盤は、紹介する設計家がアメリカに移って、フィラデルフィアの4人が登場。今もなお世界一のコースと評価される「パインバレー」を設計したジョージ・クランプ、超名門メリオンGCを設計したヒュー・ウィルソン、そしてA.W.ティリングハストとジョージ・トーマス・ジュニアである。彼らはハリー・コルトやジョン・ローの「戦略型設計」をアメリカで応用、名コースを作り上げた。
(後編に続く)
ゴルフは歴史を知れば、もっと楽しくなります。本書では、偉大なコースを築いた名匠たち、時代ごとに進化を遂げてきたコース設計理論、ゴルフ史に残る記念碑的な名コースを50のエピソードで振り返ります。貴重な写真も入った豪華保存版。
大塚和徳著/日本経済新聞出版/3520円(税込み)




