数学女子 智香が教える 「数字に強い人」の仕事の進め方 』(日経ビジネス人文庫)の刊行を記念して著者・深沢真太郎さんのトークイベントが三省堂書店神田神保町本店にて開催されました。すべてが均質化していくのがAI(人工知能)時代の特徴。その中で、存在感を際立たせる数字の使い方と考え方とは? 会場で出た質問にも答えつつ語ります。

人は「血が通ったもの」を求める

  前回 、AI(人工知能)時代になっても、人間が数字を使ってするべき「4つの仕事」があるとお話ししました。その4つの仕事とは、

  1. 計測
  2. 計算と分析
  3. 意味づけ
  4. 伝える

 です。どれだけAIが進化しようと、人間がこの4つの仕事を1 → 4の順番にすることには変わりがありません。

 ちょっと余談ですが、僕に研修などの依頼をくださる企業は、必ずと言っていいほど、僕の前にどなたか別の講師に頼んでいます。それで「どうして、僕に依頼してくださったんですか」とうかがうと、「これまで立派な税理士、会計士の講師が研修してくれたんですが、うまくいかなかったんです」と口をそろえます。

 要するに「数字のプロ」の講師を招いたところ、「数字の話」しかしなかった。血が通っていなかったと。「数字は数字。血が通ったものを求めるな」という意見があるでしょうし、それは僕もよく分かります。
 しかし、人間が求めているのは「血が通ったこと」でもある。やはり数字だけではダメで、血が通ったことをちゃんと伝えられる人が求められます。

 僕は「数字が大事です」と言い続けていますが、一度として「数字だけが大事です」と言ったことはありません。

 本題に戻ると、もし、今の社内の課題が「AIの使い方を覚えたい」のであれば、4つの段階のうち「2 計算と分析」を強化しなくてはいけません。AIの専門家を呼び、研修をする必要があります。
 しかし、「そもそも数字に関する知識がない」のであれば「1 計測」から始めるべきです。
 もしくは「AIは積極的に使うけれども、クリティカルシンキングができなくて危なっかしい」となると「3 意味づけ」の段階ですね。
 AIはほぼ使いこなせているけれども、社内や顧客とのコミュニケーションに問題がある場合は「4 伝える」を磨かなくてはいけません。

 自分や自社の課題はどこにあるか、一度見直してみてください。

「数字を使うことが楽しくなる一冊です」
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物事の前後に注目して、「どうつなぐか」を考える

 そして、1 → 4のステップと併せて、「主役の前後に注目」すると、他の人とは違うアウトプットができます。これは日ごろ、僕が意識している考え方でもあります。

 僕はあまのじゃくなので、今の時代、誰もがAI、AIと言えば言うほど、AIのことをしゃべりたくなくなります(笑)。そこで「AI」の前後に注目する。物事を「AI」の「前」と「後ろ」に分けて、思考をつなぐことができないかを考えます。

 具体的には、「AIを使う前に大事なことは?」「自分にとってのAIは何をするためのツールで、使った後にどうするのか」を考えるのです。これはAIだけではなく、さまざまな場面であてはまります。

 たとえば、書籍の企画で考えてみましょう。「AIをテーマにした本をつくろう」と仮定します。おそらく、今はどの出版社も書き手も、「AIの使い方」という本をまず企画するでしょう。だから、「AIを使う前」「AIを使った後」をコンテンツにできないかと考えるのです。
 AIを使う前に人が困ることは何か。そもそもどう使えばいいのか分からないのでは? 実際に使ってみたけれども、思うように成果が上がらない場合はどうすればいいのか──と深掘りしていくと、ほかとは違った切り口で本がつくれる可能性が出てきます。

 実は僕はプレゼンテーションを見るときも、本編にはあまり興味がなく(もちろん、ちゃんと見てはいます)、「プレゼンターが冒頭に何をするか」「どういう終わり方をするか」に一番着目します。そこにプレゼンのセンスや思想が表現されていると思うからです。

 AIによって、みんながもっともらしいことを言うようになった今、人と差別化を図る際のヒントにしてみてください。

AIネイティブの子どもに「数字の大事さ」を伝えるには

 では、ここからは新刊刊行に際して、読者の皆さんから寄せられた質問に答えたいと思います。

Q 今の子どもたちは当たり前のようにAIを使いますが、「これからは正解のない社会に出るんだよ」「(数字も含め)そのために今の勉強があるんだよ」といったことを、親としてどう伝えればいいでしょうか。

深沢真太郎(以下、深沢) お子さんにしてみれば、「AIで答えが出るのに、日常で人間が数字を使う意味があるの?」と言いたいところでしょうね。
 おすすめは、お子さんに「どうして?」「本当に?」「どのぐらい?」といった質問をたくさんしてあげることです。たとえば、「クラスのみんなが新型のスマホを持っているから買って」と言ってきたなら、「どうして新型が欲しいの?」「本当に必要なの?」「『みんな』ってクラスの何人ぐらい?」と聞いてみてください。

 人材育成でも若手が数字の意識を持っていない場合、上司は「面倒くさい先輩」だと思われてもかまわないので、同じ質問をするといいですね。「なぜ?」は根拠やエビデンス、「本当に?」はファクト、「どのぐらい?」は数字を考えるきっかけになります。
 それから一番大事なのは、質問する本人が「数字を使って楽しそうに仕事をしている姿」を見せることです。

「どうして?」「本当に?」「どのぐらい?」といった質問をたくさんしましょう
「どうして?」「本当に?」「どのぐらい?」といった質問をたくさんしましょう
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取材・文/三浦香代子 構成/酒井圭子(日経BOOKSユニット) 写真/稲垣純也

数字に苦手意識があっても大丈夫!

今、武器となるのが「数字で語れる習慣」。ビジネス数学・教育の第一人者が、会議・報告・提案・営業で役立つ数字の使い方を、業務効率化や損益判断、広告効果、マーケティング、意思決定などを題材にやさしく解説。生成AIを生かす質問力も身につく実践的な一冊です。

深沢真太郎著/日本経済新聞出版/990円(税込み)