『 数学女子 智香が教える 「数字に強い人」の仕事の進め方 』(日経ビジネス人文庫)の刊行を記念して著者・深沢真太郎さんのトークイベントが三省堂書店神田神保町本店にて開催されました。計算や分析はAI(人工知能)が高速でこなす時代に人間に求められることは何か。その答えは「気持ちよさ」にありました。

AIが出した数字に自分で意味づけできるか

 26年4月、「数学女子 智香シリーズ」の最新刊となる『 数学女子 智香が教える 「数字に強い人」の仕事の進め方 』(日経ビジネス人文庫)を上梓しました。単行本『数学女子 智香が教える こうやって数字を使えば、仕事はもっとうまくいきます。』(2014年、日本実業出版社)を文庫化するにあたって、大幅に加筆修正、改題したものです。

 「数学女子 智香シリーズ」は『数学女子 智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(日本実業出版社)から始まりました。2013年のことです。
 当時は世間で「ビッグデータの活用が重要」だと叫ばれ、「統計学は最強の学問」といった統計学ブームが起きていました。「統計学を勉強しようと思ったけれど、挫折した」という記憶がある人もいるかもしれません。

 その後、「DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代だ」「いや、時代はAI(人工知能)だ」と、いろんなキーワードが出てきましたが、僕としては時代ごとのキーワードを意識しつつも、一貫して同じことを言っています。

 それは、「仕事で数字を使うと、いいことがありますよ」ということです。

 ただ、生成AIが登場し、今は「数字に強い人」の定義が変わってきています。
 では、AI時代の「数字に強い人」とは、どんな人か。それは「AIが示す数字に自分自身で意味づけし、ストーリーで話せる人」です。

 「意味づけ?」「ストーリーで話す?」と、ピンと来ないかもしれません。
 一言で「AI時代」と言ってもいろんな解釈がありますが、僕は「AI時代とは、みんながもっともらしいことを簡単に言える時代」だと考えます。
 そんな中で「数値分析の結果、AIが『左に行け』と言うので、左に行きます」は通用しません。なぜ通用しないかというと、「気持ちよくない」からです。

 AIに分析させた結果、「左に行け」「今はやめたほうがいい」と言われる。しかも、その内容はもっともらしい。
 でも、それを聞いた上司や取引先はどう思うでしょうか。何だかモヤモヤして、ふに落ちませんよね。
 「え? 君はどう考えるの?  私は君に仕事を預けているんだよ」
 「私はAIとではなく、君と仕事をしているんだよ」
 こう思うはずです。

 これからのAI時代、ビジネスパーソンは「もっともらしさ」よりも「相手の気持ちよさ」を大事にして仕事をし、コミュニケーションを取らないと「通用しない人」になってしまいます。

「時代に関係なく、仕事で数字を使うといいことがあります」
「時代に関係なく、仕事で数字を使うといいことがあります」
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AI時代に人間がする仕事は4つ

 AIの時代であっても、ビジネスパーソンが数字を使ってする仕事は4つです。それは、

  1. 計測
  2. 計算と分析
  3. 意味づけ
  4. 伝える

 です。基本的にはこの4つで、1 → 4の順番で進めます。これは時代がどう変わろうとも変わりません。

 「4つの仕事をAIがするのでは?」と思うかもしれませんが、AIができるのは「2 計算と分析」。残りの「1 計測」「3 意味づけ」「4 伝える」は人間の仕事です。
 順番に説明しましょう。

 まず、「1 計測」は、「何を計測するか」「どんな情報を持つか」は人間が決めなくてはいけないということです。
 脳科学者の茂木健一郎さんが「これからのAI時代の知性とは、その人がどういうデータを持っているか」と動画サイトでおっしゃっていました。僕もその通りだと思います。
 これからの「知性」とは「質の高いデータ」と言えるでしょう。

 超優秀なAIという機械が使えるようになった今だからこそ、この1番目のステップが大事なのです。ChatGPTにあれこれ聞くにしても、実は「質問する前」が大事で、そこが「知性」だというわけです。

 「2 計算と分析」はAIの得意分野だから任せるにしても、「3 意味づけ」は人間がしなくてはいけません。AIが「左に行け」と言った。「本当に左に行っていいのか」「左に行くことで生じるリスクは何か」と考えられるか、クリティカルシンキングができるかどうかが大事です。

 人材育成の現場では、生成AIが登場する以前から「クリティカルシンキング」を重視しています。
 たとえば、「顧客満足度90%」と聞いたとき、「すごいな、けっこう高いな」と瞬間的に思ってしまう人は、危険です。これだけでは、その「90%」の定義が明らかにされていないからです。
 すべての顧客からランダムにピックアップした100人の答えなら「おおむね満足してもらっている」と考えていいでしょう。しかし、超優良顧客トップ10人のうち9人の答えなら、「なぜ残り1人は満足していないのか」にフォーカスすべきです。

 数字に意味づけし、健全な批判精神をもって、物事を考える。だまされないのは人間の仕事なのです。

 そして、「4 伝える」も最後に人間がやらなければいけない仕事です。ただ伝えるのではなく、「相手の感情に乗っかる話し方」が求められます。

 この話し方が抜群に上手だったのが、ナイチンゲールです。「近代看護学教育の母」としてのイメージが強いと思いますが、実はストーリー性を持って話せる、きわめて優秀な統計学者でした。

<関連記事> 看護師・ナイチンゲールは、実は数字に強かった

 ナイチンゲールはイギリス政府の任命を受けてクリミア戦争に赴き、野戦病院で傷病者の看護にあたりました。上層部に病気による兵士の死亡率を説明する際は「ロンドンの大疫病(ペスト)」と比較して伝えたそうです(『数字の翻訳 スタンフォード経営大学院教授の「感情が動く数字」の作り方』[チップ・ヒース著、カーラ・スター著、櫻井祐子訳/ダイヤモンド社])。

 「あのとき、1週間に何人の人が亡くなったか、覚えていますか。今回の戦争はおよそ5倍の人が亡くなっている大惨事です。どれほど大変なことが起きているか、分かっていただけますか」という形で伝えたわけです。さらには当時にはめずらしく、グラフを用いて説明したともいわれています。

 数字で考え、人を動かすには、ぜひ1 → 4のステップを意識してください。

「AI時代に人間がする仕事は4つあります」
「AI時代に人間がする仕事は4つあります」
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取材・文/三浦香代子 構成/酒井圭子(日経BOOKSユニット) 写真/稲垣純也

数学女子 智香が教える 「数字に強い人」の仕事の進め方
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深沢真太郎著/日本経済新聞出版/990円(税込み)