初めての校正読みが、まじでぜんぜん終わりませんでした。普通の読書と違ってひと文字ひと文字、間違いを探しながら読み進めなくちゃならないんです。でもやるならいっそ楽しんでやろうと、一読者として(編集者は最初の読者!)ふむふむしながら読み進めました。河村が音部大輔さんの新刊『 マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答 』の編集中に学んだtipsを、つれづれなるままに書いていきます。
(第1回「誰に何をどう伝える?」から読む)
(第2回「タイトルを決める!」から読む)
タイトルが決まったら、いよいよ本文。今回はWebメディア「アジェンダノート」で連載中の「音部で『壁打ち』」に、たくさんの書き下ろしを加えた書籍です。連載から49本、書き下ろしが40本ほど。連載分はクロストレンド編集部の大ベテラン酒井さんが校正読み(編集)し、私は書き下ろし分を読みました。
河村はこう思いました。「え、私が書き下ろし分編集なの、こええ」。だって、連載分は陰山のアニキの手に掛かってすでに記事として世に出てるものだから、大変更の心配などないはず。でも書き下ろしは、全責任私の下編集(そして項のタイトル付けも)したものが、そのまま本になるということ。だって紙に印刷されて本になって、100年後とかでも残るかもしれないんですよ。
もちろん私の編集後、すべての記事に酒井さんが何度も目を通してチェックを済ませてからレイアウトに回すので、そんなに萎縮することはないんですが、やっぱり著者の音部さん以外で、最初に原稿と対面するのは、ちょっとどきどきしました。河村はもともと紙の本が好きだから出版社に入りたい、と思って記者になったので、紙に対する憧れや特別感もあり、なおさら。だからまあどきどきしつつ、「え、これ全責任で編集していいの」といううれしさも、正直言うとぜんぜんありました。うふふ。
と、こんな最初のわくわく感も「うわー一生終わらねー」という感情に徐々に変わっていくのですが、なんとか40本校正読み(=編集)終えられてよかったです。
今日は、校正読み中に特に河村に刺さった項を紹介します。
第31項「その絶望、単なるエネルギー切れかもしれません」から。書き下ろしはおおかた現役大学生から集めた質問に回答していただいたものですが、河村個人の質問もそっと投げかけてみました。私も悩めるマーケターのひとりですからね。この第31項は、その質問に答えていただいたものです。
「仕事において、もう無理だ、一歩も進めない。と思った経験はありますか。またそこからどうやって立ち直りましたか」
どんな場面でも目的を明確にして妥協せず進む音部さんでも、ホールドアップしたくなることはあるんだろうか、と思って聞いたと記憶しています。音部さんの回答を要約するとこんな感じ。
・ものは考えよう。落ち込むのもアガるのも、自分次第
・ちょっとメンタルに余裕があるなら、客観的に事態を把握。そのうえで「こっから何が起きたら成功と言えるか」を考える
・でもやっぱり無理なときは無理だよね。だから事前に、自分をアゲにする仕掛けをつくっとこ
・仕掛けづくりをうっかり忘れてたら、とりあえず寝ろ
特に2番目など、音部さんがマーケティング戦略を練るうえでの考え方が発揮されています。音部さんは戦略を考える際には、①目的の再解釈、②資源の解釈、③資源の優勢を図ること、の3点に気を付けようと言います。
例えば河村が今、好きな人に告白したのはいいものの、「今は誰かと付き合う気はない」と言われて落ち込んでいるとします。たぶん三日三晩どん底ですが、ずっと落ち込んでるわけにもいかないので、ちょっと立ち直ったくらいで、こっから何が起きたら成功と言えるか=目的を明確にします。
三日三晩のうちに、その人と付き合うことはほぼ100%無理だと悟った河村は、目的を「早くその人のことを忘れる」にしました! 目的が明確になったら次は、①目的の再解釈。再解釈することで、目的達成のための選択肢を考えます。「早くその人のことを忘れる」ためには、A)新たに好きな人を見つける、B)没頭できる趣味を見つける、C)環境が変われば忘れるやろ、と海外移住、の3つが脳内に挙がります。
次は②資源の解釈。ABCの選択肢に対してどんな資源が必要か、考えます。A)に必要なのは、合コンを設定してくれそうな友達、B)には趣味に没頭できるだけの時間とお金、C)には移住できるほどの貯金……。それぞれの目的にどのくらい資源を投下できそうか、③資源の優勢を図るステップで考えます。
上記3点を考慮したうえで、河村が出した目的達成のための戦略は……A)新たに好きな人を見つける! 目的が定まったら、あとは行動あるのみ。行ける限りの飲み会に出席し、マッチングアプリを駆使して出会いに貪欲にいこうと思います。そうこうしてるうちに、落ち込んだ気分も晴れてきそうです(何の話)。
例えが長くなりましたが、落ち込んだ気持ちから立ち直る方法にも、音部さんのマーケティング思考のエッセンスが光っていました。
驚いたのは、「仕事で気分が落ち込んだり、逆に高揚したりすることは、コーヒーに苦みを感じたり、ランチのピザをおいしいと感じたりするのと同じくらいの頻度で経験しています。日替わりどころか、午前と午後で気分が大きく変わることも珍しくありません」と書かれていること。完全に同意。音部さんでもこういうことあるんだ~となんだか元気になりました。
さらに音部さんは、「いっそ寝てしまう、という対策が効くことがあります」とも。その絶望、単なるエネルギー切れかもしれませんよと。「自分ではもう無理だよ~」と思っても、実際に実力が足りてないのではなく、実力を発揮できるだけのエネルギーが今はないだけかもしれないよね、とも読めて、なんだか勇気付けられました。
最後に音部さんから一言(文中、第31項より)(詳しくは本書で)
「あまりお酒をたくさん飲むと、アルコールの分解で余分なエネルギーを使ってしまいます。大酒は避けておきましょう」
河村「御意」
次はちゃんとマーケティングtips書きます!
- 奥付:巻末にある、著者情報、発行年月日、書籍タイトル、発行元などを記載したページ
- 束幅(つかはば):本の厚みのこと
- 書影:本の外観を写した画像のこと。Amazonの商品ページとかに張る
- 校正:原稿に表現の誤りや誤植がないかチェックすること
- 校了:これで赤字はもうない! あとは印刷だ! という状態
- ゲラ:査読した原稿を実際のページに流し込んだ用紙のこと。用紙といいつつ今はPDFのことも多い
- 色校(いろこう):表紙や帯の色を確認するための紙。デザインが決まったら、色や紙の質感が異なるものを印刷会社の方が送ってくださるので、著者さんや編集はそれを基に表紙や帯を最終決定します
(第4回に続く)
[日経クロストレンド 2023年4月13日付の記事を転載、一部改変]
マーケティング分野で活躍したいと願う若きビジネスパーソンや学生必読の書。元P&Gを筆頭に数々の著名企業マーケティング部門を率いてきた音部大輔氏が、今さら聞けないマーケの疑問に加え、キャリアや仕事の悩みにも全力回答! あなたの「マーケティングの扉」を開きます。
音部大輔(著)、日経BP、1980円(税込み)