私たちに最も身近な生き物である昆虫。実に100万種が生息しているといわれ、受粉や分解など、生態系で大きな役割を果たしています。地球を回していると言っても過言ではない昆虫たちが今、急速に数を減らしているのをご存じでしょうか。本書『 絶滅危惧昆虫図鑑 』は、すでに絶滅、もしくはその危機にある昆虫40種を、深度合成という特殊な技法で撮影した超高精細写真図鑑です。昆虫への多大な愛と博識で知られる養老孟司さんが、いち早く本書を読み解きます。

 この図鑑は南北アメリカ大陸の目立つ虫を選んで、全体像と部分の強拡大の二つを見事な写真で見せたものである。写真の背景を黒にしてあるのが珍しい。普通の図鑑と違って、分類群には特にこだわっていない。タイトルには絶滅危惧(種)とあるが、現代ではすべての虫は絶滅危惧種であると言ってもいい。1990年から2020年ころまでに、全世界で昆虫の八割から九割がいなくなったとされているからである。

 虫好きの人は、ほぼ誰でも虫が減ったことを実感している。本書でも示されているオオカバマダラが典型であろう。億単位いたと思われるものが、数百万から、現在では数万まで減ってしまった。春から秋まで世代を繰り返しながら北上し、秋にメキシコまで一気に移動して越冬するから、越冬地で数が数えやすいのである。

 虫に対する著者の愛情がよく伝わってくる図鑑である。背景の黒は失われていく虫への著者の感情を示しているのだろうか。

<評者> 養老 孟司(ようろう・たけし) 東京大学名誉教授
1937年鎌倉市生まれ。東京大学医学部を卒業後、解剖学教室に入る。95年東京大学医学部教授を退官し、98年に同大学名誉教授に。89年『からだの見方』でサントリー学芸賞、2003年『バカの壁』で毎日出版文化賞を受賞。