“伝説のコンピューター科学者”によるビジネスパーソンに向けた名門大学の人気講座を書籍化した 『教養としてのコンピューターサイエンス講義 第2版』 。その位置付けと読みどころをIT業界のご意見番がいち早く解説する。

 2020年2月の本書の日本語第一版が出版されたとき、ついに、コンピューターサイエンスに関する一般教養課程教科書としても、一般人の教養書としても活用できる定番が出た、と大喜びしたものであった。あれから2年ほど経過したところであるが、カーニハン先生は、もう第2版を用意してくれた。

 この新版では、 変化するDX時代の方向性を踏まえてきめ細かい追加、改定等が行われている。取り上げられているコア技術は、ハードウェア、ソフトウェア、コミュニケーションに、「データ」が加わり4つとなった。本書の特徴である、第3部、コミュニケーション以降の充実が素晴らしい。総ページ数も10%ほど増加した。

 セキュリティ、プライバシー、リスクといった観点から追加されている項目が多い。新しい言語Pythonの記述が増えたり、ワールド・ワイド・ウェブに関する説明も厚くなった。人工知能(AI)、機械学習、ビッグデータといった、最新の技術についても新しい記述が増えた。

 図が少なく字数が多い本だが、ICT(情報通信技術)に関する経験・知識の豊富な訳者の適切な翻訳により、大変読みやすい。解説で坂村健先生が指摘されているように、「 すべての現場人が、本書で『新時代の教養』を身に付け、来るべき『デジタル世界』の新技術を自分事と捉えて活躍できる」良書である。

<評者> 有賀貞一(あるが・ていいち) AITコンサルティング株式会社 代表取締役
一橋大学経済学部卒業後、1970年野村コンピュータシステム(現・野村総合研究所)入社。1994年に常務取締役。1997年にCSK(現・SCSK)入社、専務取締役に就任。金融システム事業本部長など歴任し、2005年にCSKホールディングス代表取締役。2008年にミスミグループ本社代表取締役副社長。2011年より現職。中央電力やアイリッジの取締役などを兼務。「日経XTECH」の大人気連載「テクノ大喜利、ITの陣」の執筆メンバーも務める。