「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」――。⾦融庁はみずほのシステム障害を巡って業務改善命令を発出したときに、みずほの企業風⼟を痛烈 に指弾した。もっとも、システム障害は社風を変えれば収まるようなものではない。 『みずほ、迷走の20年』 で見えてきた、システム障害が次々に起こってしまう原因である「経営の挫折」を、 『ポストモーテム』 執筆チームの日経クロステック/日経コンピュータ 副編集長が語る。

 みずほ銀行では2002年、2011年、2021年と過去3度、預金などを管理する「勘定系システム」の周辺で大きなトラブルが発生した。技術的な原因は様々あるが、根本的な原因を突き詰めれば、代々の経営者が勘定系システムを軽視してきたことにある。

 とはいえ、今日の銀行経営者が勘定系システムを軽視したくなる気持ちはよく分かる。日本の金融市場が間接金融から直接金融へとシフトする中、勘定系システムが支えてきた銀行のリテール業務、「家計から広く預金を集めて企業に融資する」ビジネスそのものが、利益を生み出さなくなって久しいからだ。勘定系システムに積極的に投資すべき理由はない。

 しかし、リテール業務が厳しいのはどのメガバンクも同じだ。それでもなぜ、みずほ銀行でだけ勘定系システムのトラブルが繰り返されるのか。それを解き明かしてくれるのが本書だ。

 過去20年を振り返ると、みずほ銀行は常に他のメガバンクをはるかに上回る「情報システム以外の課題」を抱えていた。メガバンクで最も多い不良債権、最も脆弱な財務基盤、最も高い経費率、最も激しい社内抗争、最も悪い社内連携――。

 みずほ銀行の歴代経営者はこれらの課題に加えて、「メガバンクで最も老朽化していた勘定系システムの刷新」と「メガバンクで最も複雑なシステム統合」に取り組んでいたのだから、うまくいかなくて当然だろう。みずほ銀行のシステム障害は、経営の挫折の象徴なのである。