元・気象研究所長、隈健一氏の著書『 ビジネス教養としての気象学 』(日本経済新聞出版)は、地球温暖化と異常気象の関係から数値予報の最前線まで、日々、気象の恩恵を受け、リスクにもさらされている私たちにとって、必読の内容です。気象予報士の田家康さんが読みどころを紹介します。

 猛暑、ゲリラ豪雨、台風、線状降水帯、地球温暖化、気候変動…毎日のように気象についての情報が流れてくる。通勤通学での懸念や旅行日程への心配まで、気象に関わる話は放置できないから厄介だ。一方で、個別の現象がそれぞれでどう関わっているのか、気象全体の中でどう位置づけられているのか、いま一つぴんとこない。解説を聞いても腹落ちしにくい悩ましさがある。

 本書はそうしたモヤモヤ感を一掃してくれる。今日の天気予報の肝はスーパーコンピューターによる数値予報だが、この開発に長年従事し、その後に気象研究所の所長を歴任された著者だからこそ、気象予報の実務から研究の最前線まで全体的な絵解きが可能になった。

 しかも「攻めている」内容だ。気象現象には一般の方にとって分かりにくいものが少なくない。物理現象ゆえ数式が基礎にあり、また地球を3次元でイメージしにくいことなどに由来する。これらの難物に対して、地球の自転の影響による大気の流れ、異常気象の主要な原因である偏西風の蛇行など、これまでにない斬新な切り口で説明している。「本書を読んでようやく理解できた」と膝を打つ読者は多いに違いない。

 異常気象や気象災害が起きると、「ナンデモカンデモ地球温暖化」が原因とする論調が広がる。著者は科学者の視点で抑制的であり、自然変動がベースにあり温暖化はそれを増幅していると図示する。日本本土への台風上陸については、1959年の伊勢湾台風など1961年までの4つが特に大型で、その後に同規模の台風が上陸した例はないとし、数十年スケールの変動があるのではないかと述べる。近年の記録的大雨やシベリア高気圧からの寒気流入の強化についても、温暖化との関係は現時点では研究段階とする書き方だ。

 気象をビジネス目線で考えるには、どのようなデータがあるか網羅的に知っておく必要があろう。その観点でも観測データから解析データまで、どこに何があるか丁寧に紹介されている。気象ビジネスのハンドブックとして、また気象予報士試験の受験者にとっては副読本として、大いに役立つに違いない。

<評者> 田家 康(たんげ・やすし)
農林中金総合研究所客員研究員、気象予報士
日本気象予報士会東京支部長。1959年、神奈川県生まれ。81年、横浜国立大学経済学部卒。農林中央金庫森林担当部長、(独)農林漁業信用基金漁業部長を経て現職。2001年、気象予報士試験合格。主な著書に『気候文明史』『気候で読む日本史』『世界史を変えた異常気象』(以上、日経ビジネス人文庫)、『異常気象で読み解く現代史』(日本経済新聞出版)。