ケンブリッジ大学で教壇に立つ飯田史也教授は、新刊『 あなたの一生を支える 世界最高峰の学び 』(日経BP)で、「学びとはコミュニケーションである」という。書かれたものを読むだけではなく、自分の言葉で他者に伝え、議論することにこそ学びの神髄があるとする。ベストセラー『独学大全』をはじめ、数々の「大全」を著してきた読書家・読書猿氏が本書の魅力、読みどころを解説する。
「天才」とは、生まれつきの才能だけで決まるものなのだろうか。
ノーベル賞受賞者を120人以上輩出してきたケンブリッジ大学には、800年にわたり受け継がれてきた「凡人を天才に変えるシステム」が存在する。
現役のケンブリッジ大学工学部教授である著者が、その内部から見た「学びの正体」を解き明かしたのが本書である。
本書の核心は、「学びとはコミュニケーションである」という一点に集約される。日本の一般的な学習観では、学びといえばインプット。たとえば講義を聞いたり教科書を読んだりして、最後は一人で黙々と暗記する「孤独な作業」を想起しがちだ。
しかし著者は、それでは不完全だという。言葉には必ず「情報の欠落」があり、書かれたものを読むだけでは不十分なのだ。分からないことを問い、理解したことを自分の言葉で他者に伝え、議論する。
この「生身の人間」を介したプロセス(やりとり)こそが、情報の欠落を埋め、知識を「自分の文脈」へと昇華させる唯一の方法である、と。
本書が提示する「学びの7つの掟」は、極めて実践的だ。特に印象的なのは「学びはひとりでやらない」という掟である。
優秀な学生ほど他人に頼ることを恥としがちだが、ケンブリッジでは「ヘルプサイン」を出すことが推奨される。教員、友人、家族を含めた「最強の学びのチーム」を結成し、周囲を巻き込みながら成長していくスタイルは、多くの日本人にとって目からうろこが落ちる視点だろう。
ここでは、試験さえも孤独な戦いではなく、チームで乗り越えるイベントとなり、感情の起伏さえも学びのエネルギーに変えられる。学びは孤学ではないのだ。
また、学びを「勝敗が決まる有限ゲーム」ではなく、人生を通して続く「無限ゲーム」と捉える視座も重要だろう。学生時代が終われば、学ぶことが終わるわけではない。
社会人になっても、家庭を持っても、生きていく限り、私たちは誰かに「教える」という行為を通じて学びは循環し、深まっていく。著者は、日々の生活、たとえば家族との会話や食事の時間さえもが、最高峰の学びの実践の場になり得ると説く。
ここまで見てきた通り、本書は、単なる勉強法のマニュアルではない。他者との関わりを通じて「自分のすごさ(奇跡の原石)」を見つけ、育て上げるための人生の指南書である。AIが台頭する現代において、人間同士の泥臭いコミュニケーションにこそ、知性を飛躍させる鍵がある。
今、学びに行き詰まっている人、あるいは孤独に努力を重ねている人にこそ、この「世界最高峰の学び」の扉を開いてほしい。対話しよう。語り合おう。そこには、一人では決して到達できない「奇跡」が待っているはずだ。
