私たちの暮らしが快適なのは「標準化」のおかげである。標準化とは、さまざまなもののサイズや形などの統一だ。電球も、トイレットペーパーも、携帯の充電器も、もし国や会社ごとにバラバラだったら面倒で使えない。さて、歴史史上最大の「標準化」は、コンテナだった――。17万部の大ヒットとなった 『2040年の未来予測』 (日経BP)の著者でもある成毛眞氏推薦の『コンテナ物語』を紹介する。

私たちの暮らしが快適なのは「標準化」のおかげ

 私たちの生活は「標準化」であふれている。

 例えば、あなたが部屋の電球を交換する場合、簡単に買い替えられるだろう。これは電球の外径や明るさなど規格が標準化されているからだ。もし、規格が標準化されていなかったら、電球が切れるたびに、照明器具の寸法を測り、それに合致する電球を探し求めなければいけない。

 乾電池も形や寸法がいくつかに定められているから、電池が切れても気軽に買え、家電も間断なく使える。そもそも、家電を家の中で持ち運べてどこでも使えるのも、コンセントやプラグが同じ形状になっているからだ。意外なところでは、トイレットペーパーも寸法や溶けやすさが決まっている。ドラッグストアで深く考えずに選んでも、紙切れの際にストレスを感じずに交換でき、快適なトイレタイムを過ごせるのも標準化のおかげなのだ。

 こうした標準化は、公的機関によって定められた「デジュールスタンダード」と呼ばれる。一方、企業間の競争の結果、事実上の標準になる「デファクトスタンダード」もある。これは、パソコンのOSのWindowsや、古くはビデオデッキのVHSが有名だ。

 最近でいうと、SNSならばTwitterや、Facebook、動画配信ならばYouTubeが当てはまるだろう。これらは誰かが標準と決めたわけではない。多くの人が使っていることで、支持が高まり、誰もが使うようになる。企業にとってはこのデファクトスタンダードを握るのが生命線ともいえる。

史上最大の「標準化」の発明はコンテナ

 歴史を振り返ると、史上最大の「標準化」の発明がある。コンテナだ。トレーラーがけん引する、あの直方体の箱だ。

 日常生活にはなじみのないコンテナだが、コンテナのデファクトスタンダードが、20世紀の社会に大きな変革をもたらしたといっても過言ではない。『コンテナ物語』は海運用のコンテナの標準化がどのようにしてなされたかについての本だ。

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 コンテナ船を発明したのはトラック業者のマルコム・マクリーンという人物だった。

 20世紀半ばまで、物流の現場の光景は今とまったく違った。荷物は木箱や麻袋に詰め込まれ、バラ荷の貨物としてトラックや鉄道で運ばれた。1台に大量の荷物を積み込むことが収益性を高めるので、内容物の形状も重さもバラバラで混載された。当然ながら、貨物の積み込みや積み降ろしが途中で発生するのでメチャクチャ手間がかかる。貨物の取り扱い作業が輸送時間よりも長くなることも珍しくなかった。

 マクリーンは、この非効率な現実に着目し、より合理的なシステムとしてトラックとトラックの上に載せる箱を分離した。つまり、コンテナの誕生だ。

 ばらばらな荷物を届け先ごとにコンテナに格納して、途中での積み替え作業をなくした。トラックや列車、コンテナ船を使った途切れのない輸送体制を整え、大型コンテナ船による国際輸送はコストの低下と時間短縮を実現した。

 当然、ライバルも出現する。さらに変化を嫌う行政や業界にも行く手を阻まれるのだが、ついには世界最大級の海運会社に上り詰める。

コンテナの発明によって、世界最大級の海運会社に成長する過程の物語も魅了する
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標準化の道のりは敵だらけ

 私自身もマイクロソフト時代に経験があるが、標準化への道のりは、最初のうちは敵だらけだ。それがいつのまにか、味方が多くなる。

 標準化には味方づくりが欠かせない。マクリーンの成功の過程も、ビジネスマンにとってのヒントが詰まっている。イノベーションを生み出し、それを成功につなげる熱い思いと創意工夫を感じずにいられないが、この本は、それ以上にコンテナの持つ意味を考えさせられる。

 湾岸戦争で米軍が約55万人の兵士と700万トンの物資を砂漠に配備した「史上最大の物流作戦」の立役者はコンテナだし、コンテナの標準化があったからこそ、世界貿易は級数的に拡大したことはまちがいない。コンテナがなければ中国の急成長などはまったく考えられなかったし、コンテナという箱がグローバル化を推進する手段になり、国家経済の盛衰も左右するようになったのだ。

 膨大な輸送量を確保するために巨大コンテナ船も計画されている。マラッカマックスという20万トンクラスの船は1万8000個のコンテナを積載することができる。ちなみに、1万8000個のコンテナを積むために用意されるトラックを一列に並ばせたら100キロメートルの長さになるという。

 この形而下(けいじか)ともいえる物流の超効率化こそが、世界的なデフレをもたらし、結果的にモノからカネへの資産シフトが起こったのかもしれない。もちろん、マクリーンはそんなことを1ミリも考えていなかっただろうが。そこがまた面白い。

構成/栗下直也 写真/山口真由子

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