子どものマネーリテラシーを高める、親子の会話のコツを考える本連載。今回のテーマは「電子マネー」です。
Suicaを「魔法のカード」だと思っている子どもがいる。そう聞いて、どう思われますか。にわかに信じがたいという方もいらっしゃるでしょうし、小学校低学年くらいのお子さんがいるママやパパであれば、心当たりがあるかもしれません。
この連載を執筆するファイナンシャルプランナー(FP)の高山一恵さんも以前、息子さんが「Suicaさえあれば、無限に買いものができる」と思いこんでいるのに気づき、危機感を覚えたことがあるそうです。
電子マネーでも、お金を使えば、お金は減る。だから、使いすぎに注意しなければならない。大人にしてみれば、当たり前のことですが、それをどうやって子どもに伝えたらいいのでしょうか? 「FPママ」と、息子の「ヒロ」の会話という形で、考えてみます。

キャッシュレス化が進むこのごろ、SuicaなどのICカードを「なんでも買える魔法のカード」のように思っている子どももちらほら。Suicaにかぎらず、最近はデータ化された「見えないお金」が増えて、気をつけないとお金を使いすぎてしまいがちです。FPママとヒロが、コンビニにふと立ち寄ったときも……。
ヒロ:わっ! このアイス、大好きなやつだ! ねえ、買っていい? あっちにこのあいだ、テレビで見た新発売のグミキャンディーもあったよ。今日は暑いし、ジュースもいいねー。
FPママ:ちょっと、こんなに買いものカゴに入れないで! おやつ1個くらいならいいけど、残りは棚に戻してきて!
ヒロ:なんでー? だって、いつものカードをピッとかざすだけじゃん。買ってよー。
FPママ:えーっ! それは、大きな勘違いよ。Suicaがあれば、なんでも買えるわけじゃないのよ。Suicaは「魔法のカード」じゃないの。
ヒロ:魔法のカードだなんて、思ってないけど……。じゃあ、アイスだけでいいよ。
FPママ:あのね、このカードには、あらかじめお金をチャージしているの。チャージというのは、そうね……。
確かに現金が消えた!
FPママ:チャージというのは、貯金箱にあるお金をお財布に移しておく、みたいな感じなのよ。要するにSuicaって、お財布みたいなものなんだけど……。そうね、じゃあ、まずお会計をしちゃおうか。グミとジュースは返してきてね。
ヒロ:はーい。……戻してきたよ。
FPママ:じゃあ、お会計しましょうね。お会計のときにSuicaにお金を入れるから、よく見ておくのよ……。
店員さん:お会計は440円です。お支払い方法はどうなさいますか?
FPママ:電子マネーで払います。このSuicaは今、残額が200円しかないので、1000円のチャージをお願いできますか?
店員さん:かしこまりました。では、……こちらから現金を入れて、カードをこちらにかざしてください。………1000円、チャージできました。お支払いは、チャージしたぶんからですね……。ありがとうございました。
FPママ:こちらこそ、ありがとうございました。
ヒロ:……うわー、ホントだ。お金をカードに入れていたね。
FPママ:ね? 1000円札が機械に吸いこまれて消えていったでしょ? こうやって現金を電子データにして、カードに入れるのよ。最近は、スマホのアプリに入れることもできるわよ。
こういうデータ化されたお金を「電子マネー」というわ。電子マネーにも、いろんなタイプがあるんだけど、Suicaは、お金をあらかじめチャージしておくタイプ。だから、チャージしておいたぶんのお金しか使えないの。チャージしたぶんのお金を使い終わったら、今みたいにまたチャージするのよ。でも、チャージさえすれば、同じカードでいくらでもお買いものができるから、「魔法のカード」と勘違いしてしまうのかもね。
ヒロ:そっか。さっきはカードのなかに200円しか残っていなかったから、先に1000円をチャージしたんだ……。確かにママが持っているお金は減ったわけだね。
FPママ:そうでしょ? こういうお金のやりとりを「キャッシュレス決済」というのよ。
ヒロ:キャッシュレス決済?
キャッシュレス決済は、使いすぎに注意
FPママ:「キャッシュ」というのは「現金」のことで、例えば、1000円札とか100円玉みたいな手でさわれるようなお金ね。そして「レス」は「ない」という意味。だから、「キャッシュレス」というのは、現金を使わないということなのよ。Suicaでお買いものするときには、現金は使わないでしょ。
ヒロ:そうだね。
FPママ:そういうお買いものは、キャッシュレス決済。キャッシュレス決済では、現金の代わりに、データ化された「見えないお金」を使っているのよ。ほかにも、スマホのアプリを使ってお金を払ったり、最近は「見えないお金」がどんどん増えているわ。お金が見えないからお金を使った実感がないと思うけど、使えば減るのは現金と同じ。使いすぎに注意よ。
ヒロ:そっかー……さっきは、ママがお財布からカードに1000円を移したから1200円になって、440円のお買いものができたんだね。そうすると、カードに残っているのは「1200円(残額+チャージ分)-440円=760円」。だから、今度の買いものでは760円分使えるってことか。
FPママ:そういうこと! 魔法のカードなんてないのよ!
「Suica問題」の先に「リボ払い」の落とし穴
FPママの解説
現金がいらないキャッシュレス決済は、お金を使いすぎてしまいがち。大切なのは、キャッシュレス決済でも「お金は減る」ということの理解です。
キャッシュレス決済にはさまざまな種類があります。Suicaのような電子マネーのほかにクレジットカード、デビットカード、スマホを使ったQRコード決済など。ヒロには電子マネーについて説明しましたが、余裕があれば、ほかのキャッシュレス決済についても説明できるといいですね。
重要な違いは「自分自身がお金を支払うのはいつか?」です。銀行口座からお金が引き落とされるなどして、現実に「自分のお金が減るのはいつか?」ということです。
Suicaのような電子マネーは、お買いものをする「前」に、お金をカードにチャージするプリペイド式が主流です。「前払い」ということですね。チャージ残高が少なくなると、銀行口座やクレジットカードから自動でチャージしてくれるサービスもあります。
デビットカードは、お買いものをすると「同時」に、銀行口座からお金が引き落とされます。これを「即時払い」と呼びます。
クレジットカードは、お買いものした「後」で、お金が引き落とされるポストペイ方式。「後払い」ということです。
Suicaのようなプリペイド式はチャージするところを子どもに見てもらうとイメージがつかみやすいです。自動チャージや即時払い、ポストペイ式などは、子どもに銀行口座の通帳を見せるなどして、実際にお金が減っていることを「見える化」すると、お金が使われている実感を持たせることができるでしょう。
子どもたちが、大人になったときのことを考えると、Suica以上に、丁寧に説明しておきたいのが、クレジットカードです。FPとして長年、個人マネー相談を受けてきて、驚かされることがあります。それは、有名な大学を出て、大企業で働く20代、30 代に、数百万円の借金を抱えて困っている人が少なくないという事実。その原因として目立つのが、クレジットカードのリボ払いです。
Suicaを「魔法のカード」と思いこむくらいならば、可愛いものかもしれませんが、「見えないお金をムダづかい」するのが当たり前になってしまうと、リボ払いの落とし穴に陥りやすくなります。
この連載でも次回、リボ払いについて、ヒロに伝えたいと思います。
連載第3回をお読みいただき、ありがとうございます。「家族でお金について考える」ことにさらに興味をもっていただけたなら、この連載を基にした書籍『 11歳から親子で考えるお金の教科書 』もぜひご参照ください。
[日経ビジネス電子版 2023年4月5日付の記事を転載]
頼藤太希、高山一恵(著)、日経BP、1760円(税込み)