なぜ、あのヤバい人が出世できて、真面目なあなたは損をするのか? ルールを破り、自信にあふれた権力を持つ人物という印象を与える人が上り詰める――成功者の原理原則を、スタンフォード大学の人気教授が科学的に説明する
『出世 7つの法則』
(ジェフリー・フェファー著/櫻井祐子訳/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。権力の法則7つのうち、前回は法則1を紹介したが、今回は法則2と法則3を解説。
前回
「スタンフォード大人気教授が教える 出世できる人の7法則」
法則2 ルールを破れ
権力を得るためにルールや社会規範を破る際には、「人と違う」思いがけない行動に出て、主導権を取ることが欠かせない。なにより、ルールを破るためには自分から行動を起こす必要がある。規範やルール、社会の慣習に背く人は、さまざまな心理的メカニズムが働く結果、権力を持っているように見え、そのおかげで権力を実際に手に入れる。その仕組みを説明しよう。
ある研究によると、「権力を持つ人は、それらしい振る舞いをする。あまり笑わず、人の話を遮り、大声で話す。……権力者はルールにあまり縛られない」。権力者は社会規範や常識を破ることにあまり抵抗がなく、それをとがめられることも少ないため、人が眉をひそめるような行動を取りがちなのだ。
そこでアムステルダム大学の社会科学者ヘルベン・ファン・クレーフは、権力とルール破りの経験的な関係を逆から検証し、「ルールや規範を破る人は、権力を持っているように見えるのかどうか」を調べた。さまざまな手法による一連の実験から導かれた答えは、「イエス」だった。
論文の冒頭で、ファン・クレーフらは次のように問いかける。「ルールを破る人は失脚して権力を失ってほしい、と読者は望むかもしれない。……だがもしかすると、ルールを破るという行為そのものが、権力があるという印象を与えるのではないだろうか?」。
ルールを破っても罰せられない人は、ルールを破る能力を通して権力を得る。「規範に従わなくてはならない普通の人と違って、もっと権力がある」という印象を与えるからだ。そう考えれば、なぜドナルド・トランプがあれだけ噓をついても、それほど困ったことにならなかったのかがわかる。
噓をつくことは、「正直であれ」という社会規範に反するが、罰されないことが多いし、また社会の期待に背くから、「権力がある人」という印象が増幅される。もちろん、ものごとには限度というものがあるが、それでもルールやしきたりを破ることによって、権力があると印象づけられることは、心にとめておくべきだ。政治に限らず組織生活のさまざまな側面が、このルールで説明できる。
世の中にはいろいろな社会通念がある。たとえば頼みごとをするときは「お願い」「ありがとう」と言う、その場に合った話し方をする、TPOに応じた服装をする、など。私たちがそうしたルールを熟知し、つねに守ることを期待されるのは、対人関係に波風立てないためでもある。私たちは親、学校、雇い主から、何をすべきかを教えられる。ルールを破れば放校や破門、解雇が待っているかもしれない。さらにつらいのは、のけ者にされることだ。
ルールに従えば、周りになじむことができる。人間は他人との交流や親交を渇望する社会的動物だから、なじむことはとても重要だ。社会心理学や社会学の研究では、「周りの考えに同調しなければ」「期待される行動を取らなければ」という圧力がとても大きいことがわかっている。
このように、行動規範は強力で、周りになじみたい、受け入れられたいという欲求が働くために、ほとんどの人がほとんどの場合に常識を守り、他人が広めたルールに従おうとする。そしてここが重要な点だが、その「他人」は権力者で、あなたとは違う利害関係を持っていることが多い。こうしたさまざまな力が「ルールを守れ」「同調せよ」というプレッシャーになるが、権力への道を歩むためには、期待に背き、常識を、ルールを破らなくてはいけない。
法則3 権力を演出せよ
2010年4月、米投資銀行ゴールドマン・サックスのブランクファインCEOが、アメリカ上院委員会の公聴会に出席した。ゴールドマン・サックスは住宅ローン関連証券を顧客に販売する一方で、その証券を空売りして値下がりを招き、顧客に大損害を与えた疑いをかけられ、利益相反と背任ではないかという批判が一部から出ていた。
同年6月17日、多国籍石油会社BPのヘイワードCEOが、アメリカ下院委員会の公聴会に臨んだ。この委員会は、メキシコ湾沖にあるBPの石油掘削施設が大規模爆発した事故を調査していた。この事故で作業員11人が死亡したうえに、大量の原油が流出し続けており、広範な生態系破壊を招いていた。2人のCEOは公聴会後、まったく違う運命をたどることになる。
BPは2010年7月27日、ヘイワードがCEOを退任し、ボブ・ダドリーが10月1日に後任につくと発表した。他方ブランクファインは2018年末までCEOを務め、自らの意志で自らの決めた時期に退任した。
両社が陥った状況はもちろん多くの点で異なるが、2人のリーダーが証言する様子を見れば、振る舞いや言葉遣い、態度の違いは歴然としており、またその違いがこれらの証言時にとどまらないのも明らかだった。ヘイワードの言動は申し訳なさげで控えめ。背中を丸めて座り、身ぶり手ぶりもほとんどない。かたやブランクファインは強腰で威圧的である。
私は授業で2人の証言映像を編集したものを学生に見せている。音声ありと、ボディーランゲージを際立たせるために音声を消したものを比べて、権力を理解するうえで私が最も基本的だが重要だと考えるポイントを説明する。それは、自分をどう見せるかだ。あなたが自分をどう「見せる」かは、あなたがどんなキャリアを進み、どれだけの権力や地位を手に入れるのか、クビにならずにすむかどうかを左右する、いや決定すると言っても過言ではない。
あなたがどんな肩書を持っていようと、それだけではあなたの能力や強みを正確・確実に知ることはできない。だから他人はあなたが信頼に足る人物なのか、あなたについて行くべきか、手を結ぶべきかを、なんとかして推し量ろうとする。社会心理学者の故ナリーニ・アンバディが指摘したように、「他人に対する印象を形成する能力は、きわめて重要な対人スキル」なのである。
研究によると、人はほんの数秒間の行動の「断片」から、相手の人となりに関してしばしば正しい印象を形成し、その後はその断片をもとに、相手に関するさまざまな決定や判断を下す。また、瞬時に形成された第一印象は、驚くほど長く持続する。これは、自分がすでに持っている信念や期待を裏づける証拠を探したり、裏づけるように証拠を解釈したりする傾向、すなわち「確証バイアス」の働きでもある。そんなわけで、権力を獲得し維持するための法則3を、「権力を演出せよ」とした。
相手にどんな印象を与えるかが重要
あなたが自分をどう見せるかは、他人があなたに下す評価に影響を与え、しかもその評価はあなたに対する第一印象を補強することが多い。たとえば、誰かが面接であなたを見て、「たいして優秀でも有能でもない」という第一印象を持ったら、あなたの知識を問うような質問もせず、知性や能力を披露する機会も与えないかもしれない。社会心理学者のロバート・チャルディーニが私に言ったように、「第一印象を与えるチャンスは1度きり」なのだ。
権力の法則3の前提は、ボディーランゲージや言葉を通じて「自分をどう見せるか」が、他人に与える印象を大きく左右する、という考えである。他人はこうした印象をもとに、あなたに対する判断や決定を下す。だからあなたはなんとしても、「自信と魅力にあふれた、権力を持つ人物」という印象を与える方法を身につけなくてはならない。
確証バイアスと第一印象は強力だから、自分をどう見せるか、話し方や立ち居振る舞いを通してどんな印象を与えるかが本当に重要なのだ。
人は基本的に他人を信じるようにできている。誰かの人生やキャリア、身分、人となりの物語を聞いたとき、その人の昔の部下や取引先などに問い合わせて真偽を確かめる、というごく簡単なことをする人はほとんどいない。そしてその人にお金をつぎ込んだり、感情的に入れ込んだりするうちに、自分の間違いを認められなくなってしまう。状況は捉え方次第でどうとでも解釈できる。誰かが実際にどれだけの権力や能力を持っているかを判断するのは難しいものだ。
そんなわけで、法則3「権力を演出せよ」を守り、できる限り権力を誇示しよう。
ジェフリー・フェファー著/櫻井祐子訳/日本経済新聞出版/2200円(税込み)