春を迎え、職場や役職が変わる方もいらっしゃるでしょうか。出会いの春、新しい本との出合いのきっかけになればと、書籍編集者が30人以上も所属する日経BOOKSユニット第1編集部を率いる野澤靖宏部長に、春の読書に全力でお薦めしたい同僚が作った「日経の本」を聞きました。

中川ヒロミ(以下、中川):すっかり暖かくなって、もう春ですね。春は入社、転職、異動などの出会いが多い季節です。仕事が変わって、本を読んで知識を得たいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。この「部長が全力でお薦めする手前みそシリーズ」、我々の予想を超えて多くの方に読んでいただいていますが、今回で野澤さんがこの連載を卒業されてしまうんですよね。

野澤靖宏(以下、野澤):はい、影山優佳さんも日向坂46からの卒業を発表されました。影山さんはサッカーが大好きで、私も趣味がサッカー観戦ということもあって……。

中川:何を言われているのかよく理解できませんが、今回は最終回ですので、思う存分お薦めしてください。

野澤:春にぴったりな本がたくさんあるので、張り切ってご紹介します。まず、ご紹介したいのは『 冒険の書 AI時代のアンラーニング 』です。春は進学や就職、転勤など身辺の状況が大きく変わり、いろいろな「迷い」が生じる季節でもあります。でも、時代はもっと大きく変わっています。そんな今に特に読みたい本です。編集を担当された中川さん、お薦めポイントはなんですか?

中川:ChatGPTなどのAI(人工知能)の進化に驚かれている方も多いかと思います。私も使っていますが、聞いてから数秒でそつのない答えを出してくる様子に驚いているところです。こんなふうにAIが進化を続けている中で、人間はどう生きていけばいいのか、何を学べばいいのだろうかと悩ましい今、孫泰蔵さんが書かれた『冒険の書』が気づきを与えてくれます。これまでの常識が吹っ飛んじゃう本なんですよ!

『冒険の書 AI時代のアンラーニング』。古い常識から一歩踏み出すきっかけに
『冒険の書 AI時代のアンラーニング』。古い常識から一歩踏み出すきっかけに

野澤: 中川さんの話が止まりません。担当編集者の熱量が大きい本は、間違いなくお薦めできます。

 それから、この春に新生活をスタートされ、「マネーの計画もしっかり立てよう!」と思われる方も多いと思います。そんな方に、ぜひ読んでいただきたいのが『 お金以前 』です。

 世の中には投資関連など、さまざまなマネー本がありますが、「そもそもお金って何?」という根源的、本質的な問いに対して、平易に答えているものは多くありません。この本は、通貨や資本主義、経済とはどんなものかを分かりやすく解説していて、誰でも興味深く読める内容になっています。投資を始める前に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

『お金以前』。経済、投資などに関する「そもそも」を分かりやすく
『お金以前』。経済、投資などに関する「そもそも」を分かりやすく

圧倒的な成果を出したい人にお薦めの2冊

中川:野澤さんはちゃんと貯金してそうですよね。野澤さんのように、4月に役職が変わった方にはどんな本がお薦めですか?

野澤:まさに、『 6スキル トップコンサルタントの新時代の思考法 』はこの春リーダーになる方、目指す方にお薦めの本です。これまで多くのビジネスプロフェッショナルを育成してきた著者が、2030年にリーダーとして活躍できる人材が絶対に身につけないといけないスキルセットを「マインドセット、思考力、アウトプット力、伝達力、コラボレーション力、知識・情報」の6つに整理し、それをどのように習得するのかを解説しています。この春に社会人になった方から中堅・ベテランの方まで、幅広く参考にしていただけると思います。

『6スキル トップコンサルタントの新時代の思考法』。読み方は「ろくスキル」です
『6スキル トップコンサルタントの新時代の思考法』。読み方は「ろくスキル」です

中川:この本を読むと、めちゃくちゃ仕事ができるようになりそうですね。

野澤:そうなんです。そしてさらに圧倒的な成果を出すには、何が必要だと思いますか?

中川:なんだろう。体力かな。運かな?

野澤:「勝負師」の思考法なんですよ。『 勝負師の条件 同じ条件の中で、なぜあの人は卓越できるのか 』は累計20万部のベストセラー『 最高の戦略教科書 孫子 』のいわば続編的な位置づけの本です。経営者、投資家、スポーツ選手など、厳しい世界に身を置きながら、いつも圧倒的な成果を誇る「勝負師」には、その思考や行動にどんな共通点があるのかを中国古典の専門家が解明するというユニークな本です。

『勝負師の条件 同じ条件の中で、なぜあの人は卓越できるのか』。『最高の戦略教科書 孫子』とぜひ合わせてお読みください
『勝負師の条件 同じ条件の中で、なぜあの人は卓越できるのか』。『最高の戦略教科書 孫子』とぜひ合わせてお読みください

イーサリアムから小説まで、圧倒的にすごい本

中川:圧倒的な結果を出したといえば、私も2冊すごい本を紹介させてください。1冊目は、19歳でイーサリアムを考案した天才、ヴィタリック・ブテリンの『 イーサリアム 若き天才が示す暗号資産の真実と未来 』です。今話題のDAO(分散型自立組織)についても8年前に記しており、その先見性に驚きます。

『イーサリアム 若き天才が示す暗号資産の真実と未来』。その先見性に改めて驚かされます
『イーサリアム 若き天才が示す暗号資産の真実と未来』。その先見性に改めて驚かされます

 もう1冊は、『 日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか? 』です。日本の大手海運会社3社がお荷物だったコンテナ事業を切り出して、若い人がシンガポールで立ち上げたのがONEという会社ですが、絶好調で利益が2年連続2兆円もあるんです。ピンク色のONEのコンテナとコンテナ船の動画を見るとワクワクするのですが、会社としての結果もすごいものがあります。

『日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか?』。ロングセラー『<!--layout:id=20-->』との併読もお薦めです
『日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか?』。ロングセラー『 コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった 増補改訂版 』との併読もお薦めです

野澤:中川さんの勢いに僕は圧倒されますが、遠慮なく紹介させていただきます。次は、『 世界史を変えたスパイたち 』はとても興味深く読みました。第二次世界大戦からウクライナ侵攻まで、国際的な事件の裏側で情報機関やスパイたちがどのように活動し、どのような影響を与えてきたのか、池上彰さんが簡潔・平明に解説しているので、歴史、また昨今の世界情勢を理解するためにとても役立ちます。

『世界史を変えたスパイたち』。分かりやすい「池上解説」にてお楽しみください
『世界史を変えたスパイたち』。分かりやすい「池上解説」にてお楽しみください

 続いて第14回日経小説大賞を受賞した『 散り花 』もとても面白い作品です。プロレス界を描いた異色の小説で、私はその世界にまったく詳しくないのですが、短文を積み重ねるハードボイルドな文体、独特の世界観、衝撃のストーリー展開に仕事を忘れて読みふけってしまいました。試合のシーンもけっこうあって、読みながら心の中で「立花、やってしまえ!」と叫んでいました。ちなみに立花というのが主人公で、なぜ「やってしまえ!」なのかは読んでからのお楽しみとさせてください。

中川:なかなかにアグレッシブですね!

『散り花』。拳にて本作の「手に汗握る感」を表現しております
『散り花』。拳にて本作の「手に汗握る感」を表現しております

野澤:ここでご紹介できなかったものも含めて、「日経の本」には読みたい作品が本当にたくさんあります。次回からは、次期部長の赤木がこちらの連載に登場します。赤木は、ゆえあって顔出しができない私と違い、日経BOOKプラスにも出演経験があります。これからどんどん面白い本を紹介してくれると思いますので、皆さま、ぜひよろしくお願い致します。

「日経の本」、今春も力作ぞろいです
「日経の本」、今春も力作ぞろいです
「『手前みそ』シリーズ野澤編をご愛読いただき、ありがとうございました。思いを託した新部長赤木編もぜひお楽しみに」(野澤)
「『手前みそ』シリーズ野澤編をご愛読いただき、ありがとうございました。思いを託した新部長赤木編もぜひお楽しみに」(野澤)

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