年末年始は本を読もうと考えている方も多いのではないでしょうか。「日経の本」の作り手である書籍編集者が30人以上も所属する日経BOOKSユニット第1編集部を率いる野澤靖宏部長に、年末年始の読書に全力でお薦めしたい同僚が作った本を聞きました。
中川ヒロミ(以下、中川):もう2022年もあとわずかですね。野澤部長は、年末年始のお休みは何をされているのですか?
野澤靖宏(以下、野澤):普段読めない本をがっつり読もう、とたくさん買い込みます!
中川:なんと、いつも本を作りつつ、お休みも本を読むなんて、本当に仕事熱心ですね。私も本の編集者をしている割に、普段はなかなか本を読む時間が取れないので、年末年始に心穏やかに本をたくさん読めるのはうれしいです。

野澤:とは言いながら、サブスクのドラマにはまったりして、積ん読になる本も結構あります。気がつくと年が明けていて、「これではいけない!」と心を入れ替え、本を読むとやはり面白くて、「休みの最初から、もっと読めばよかった…」と後悔するのが最近の年末年始の恒例です。
中川:すごくよく分かります。では、今年こそお休みに入ったらすぐ読みたい日経の本、お薦めはどれでしょうか?
野澤:まずご紹介したいのは、2023年を展望する 『これからの日本の論点2023 日経大予測』 です。この本は、日本経済新聞の論説委員や編集委員、コメンテーターを務めるベテラン記者が、経済から政治、産業・ビジネスや国際問題などの23年に向けた見通しを徹底的に分かりやすく解説する点に特長があります。年末年始に読むには最適の本です。この『日経大予測』、ウン十年前に私が社会人になった時には、すでに刊行されていましたから、相当に歴史のある定番本ということになりますね。


2023年の抱負は?
中川:そんなに前からみなさんにずっと読んでいただいている本なんですね。それにしても、「大予測」ってすごいタイトルですよね。大きく予測するのか、予測が大胆なのか、気になります。大きいといえば、 『日経テクノロジー展望2023 世界を変える100の技術』 も、「世界を変える」わけですから、なかなか大胆なタイトルです。よく考えると本のタイトルって、大胆なものが多いですね。ただ、画期的なテクノロジーが登場したことで生活が変わっているのは間違いないと思います。こちらも日経BPで技術をずっと取材している記者や編集長が知っておきたい技術を分かりやすくまとめています。

野澤:最近刊行した 『10倍株の思考法 「ビジネスモデル×企業価値」で考える株式投資入門』 も、なかなかに大きなタイトルです。そして、この本の「はじめに」を読むと、「『10倍化を意識しないこと』が『10倍株』をモノにするコツ」だとあります。「これは何だ?」と思ったんですけど、読み進めると堅実なロジックがあって納得できます。人目を引きつける書名だと思いました。私も、「いい書名ですね」と褒めてもらえる編集者になる、というのを2023年の抱負にします。


中川:年始にみなさんが新年の抱負を書かれていると「ああ、まぶしい」と思いますが、野澤さんはすでに2023年の抱負を考えているとは! 私は抱負を考える前に世界のことももうちょっと勉強しなくてはと考えて、まずは 『この一冊でわかる世界経済の新常識2023』 を読みましたが、世界経済の大注目ポイントをまとめてあるので、とても分かりやすかったです。中でも、インフレがどうなるのか、とても気になっていました。


野澤:私もインフレは気になります。そしてインフレの背景には、円安があったことは間違いないのですが、円安は物価だけでなく、株式市場にも影響を与えているはずです。そんな観点からプッシュしたいのが、 『株式投資2023』 です。この本は冒頭に、「銘柄を分散し、長期的に取り組めば(株式投資の)リスクは中和されて小さくなるなんてことは、まったくない」と書かれていて驚かされます。投資指南書ではなく、株式市場をめぐるエッセー集的にも読める、それでいて2023年のマーケットの行方を見通すためには、とても役に立ちそう、という不思議な味わいの本です。


中川:Web3やメタバース、スマートシティといったネット関連の2023年の行方が気になる方には、 『BCGが読む経営の論点2023』 がお薦めです。変化が速いジャンルですが、2022年の状況を理解する上でも勉強になりました。そのほか、時間が取れる年末年始に読んでおきたい本はありますか?


普段はなかなか読めない骨太な本
野澤:そうですね、やはり骨太な本を読んで教養を身に付けていただくのがよいのではないでしょうか。例えば、シリコンバレーの有名投資家のジョン・ドーアの著書 『スピード・アンド・スケール』 は700ページを超える大著。気候危機を解決するために、ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾスをはじめ、そうそうたる人たちが知恵を寄せています。それに、この本の何がすごいって、本文のレイアウトがとても格好いいんです(笑)。「そこか!」とツッコミを受けそうですが、米国版のデザイン・コンセプトを縦組みでとても鮮やかに再現していて、感動します。




中川:赤と黒のパキッとしたデザインですてきですよね。資料が79ページもあって驚きました。そのほか時間があるときに読んでおきたい本としては、 『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』 もお薦めです。ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授が、コロナ禍に書き上げた行動経済学の決定版です。こちらも、A5判という大きい判型で454ページと大著です。経済学というと難しそうですが、「『サラダにしよう』と決めていたはずが結局ピザを選んでしまう理由」という本書から抜粋した記事のように、身近な例が多いので分かりやすいです。

野澤:ここでご紹介できなかった作品も含めて、2023年をより充実させるうえで必読なものばかりです。年末年始休暇、「日経の本」と「日経BOOKプラスの記事」を読み始めたら、サブスクのドラマを見る時間がなくなってしまうかもしれません…って、ちょっと売り込み過ぎですかね。

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