皆さんは普段、言葉を使うときに気をつけていることはありますか? つい言ってしまって後悔した言葉、本当は伝えたかったのに伝えられなかった言葉など、誰にでも1つくらい、言葉について心に引っかかっていることがあるのではないでしょうか。仏教には「愛語」や「正語」をはじめ、言葉についての教えが多数あるといいます。そこで今回は、佛心宗大叢山福厳寺住職で、登録者76万人の人気YouTubeチャンネルで多くの人の悩みに答え続けている大愚元勝和尚と、『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(日経BP)をはじめとする「ベストセラー100冊」シリーズの著者・藤吉豊さんと小川真理子さんによる、台湾・台北市のIEAT(台北市進出口商業同業公会)で開催されたパネルディスカッションから、一部内容を抜粋・編集してレポートします。テーマは「人生を整える言葉の力」です。

なぜ仏教には、言葉についての教えがたくさんあるのか?

藤吉豊さん(以下、藤吉):僕と小川はこれまで、ライターとして、大愚住職のお話をたくさんうかがってきました。その際、仏教の中に言葉にまつわる教え、言葉を正しく使った教えがたくさんあることを教えていただいたんですね。

大愚元勝和尚(以下、大愚和尚):はい、おっしゃるように仏教の中には言葉の使い方についての教えがたくさんあります。それは、お釈迦様の時代から、人間は言葉で失敗するからです。人間とはうまくいかない人でも、犬とか猫をかわいがっている人がいます。猫や犬とはうまくいくのに、人間とうまくいかない理由は何でしょうか。「人間はしゃべる」からです。私たちは言葉でうまくいくこともあるけれど、言葉で失敗することのほうが多いんですね。

 だからわざわざ仏教では「噓をつくな」とか「人の悪口を言うな」とか、知っているけれどできない、望ましくない言葉の使い方に気をつけなさいと教えています。

大愚 元勝(たいぐ げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職。慈光グループ会長。僧名「大愚」は、何にもとらわれない自由な境地に達した者を表す。駒澤大学、曹洞宗大本山總持寺を経て、愛知学院大学大学院にて文学修士を取得。僧侶、事業家、セラピスト、空手家と4つの顔を持ち、「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。2014年に始めた、YouTubeのお悩み相談チャンネル「大愚和尚の一問一答」は登録者76万人を超え、相談が殺到して現在5年待ち。19年には、仏教の本質に立ち返り、「慈悲、智慧、佛性を育む」ことを宗旨とする「佛心宗」を興す。ブッダの智慧や禅の教えを海外に広めるプロジェクトも実施、海外企業での講演や海外法話会も積極的に行う。主な著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『自分という壁』(アスコム、25年11月に『その悩み、ほとんどあなたの妄想かもよ?』に改題)、『お金と宗教の歴史』(東洋経済新報社)、『仕事も人間関係もうまくいく 離れる力』(三笠書房)などがある。

小川真理子さん(以下、小川):お釈迦様の時代から言葉を使うのは難しかったということですが、それに加えて今は、インターネットやSNSによって、言葉の影響力そのものがとても強くなりましたよね。

 これまで届かなかったような個人の思いや経験が誰かのところに届いて、その人を勇気づけたり、元気づけたり、あるいは何かちょっとした一言が、誰かの救いになったりすることが増えているし、その可能性も生まれているように感じます。大愚住職のYouTubeチャンネル 「大愚和尚の一問一答」もまた、視聴者のお悩みに言葉で答えていますが、その番組を見たり聞いたりして救われたという声をとてもよく聞きます。

 一方で、顔が見えないことで、本来であれば使わないような強い言葉を無意識に言ってしまったり、断定的な発言をしてしまったり。しかもSNSで発信したことは、瞬時に地球の裏側にも届いてしまう。そしてそれが、いつまでも残ってしまう。だからこそ現代というのは、言葉の扱い方・使い方が非常に問われる時代だと思っています。

台北市進出口商業同業公会には、大愚和尚のYouTubeの視聴者も多く集まった
台北市進出口商業同業公会には、大愚和尚のYouTubeの視聴者も多く集まった

藤吉:言葉の扱われ方・使い方がすごく軽くなって、言葉を「消費」し始めているような気がしますよね。それに気がついて、大愚住職にお話をうかがってまとめさせていただいたのが、『言葉の力』(ナーランダ出版)という本で、そのご縁で今回、ここ台湾で「言葉」について教えていただくことになりました。

 この『言葉の力』の取材中に大愚住職がおっしゃっていたのが、「SNSが広まったことによって、無責任な発言をする人が増えてきた」ということでしたね。

大愚和尚:SNSが出てくる前から、いい言葉を使う人もいるし、悪い言葉を使う人もいました。ただ、悪い言葉を使う人は、いい言葉を使う人よりもずっと数が多いんです。実はそれは、昔から一緒なんですよ。

 だけれど、この悪い言葉がSNSにあふれているように見えるのは、テクノロジーの力です。今もし、私が小川さんと藤吉さんの悪口をこの場でみんなに言ったら、ここだけで終わります。でも、これを誰かがSNSに発信したら、世界中に届くんです。このSNSの力を、実はよく知らないで使っている人も結構います。自分の友達しか見ないと思っていたら、世界中の人たちが見ている。そのことを知らない人がいます。テクノロジーによって、昔と比べて1つの言葉をもっと速く、もっと遠くに運べるようになった。そのことを知っておかないといけないんです。

鼎談後のサイン会の様子
鼎談後のサイン会の様子

背景にある行動にまで気を配る

藤吉:大愚住職は、口にする言葉と行動を一致させることが、無責任な発言をしないためには重要だともおっしゃっていました。僕と小川はライターの仕事をしていまして、たくさんの人の話を聞きに行くんですけれど、「あなたはどんな考えを持ってますか」「あなたはどういう思いで行動されたんですか」という思いを聞くだけでは、その人を評価できないと思っています。なぜならば、言葉ではいくらでもいいことが言えるからです。本心を隠して噓をつけるんですよね。

言葉は重要だが、噓もつけてしまうと藤吉さん
言葉は重要だが、噓もつけてしまうと藤吉さん

大愚和尚:そうですね。例えば今、就職面接に応募してくる人は、ものすごく素晴らしい履歴書を書いてくるそうですね。もしかしたら、それを書いているのはAIかもしれない(笑)。

 でも就職したら、上司が見るのは行動です。そのとき、履歴書に書かれていることと本人の行動に、ものすごい差が出てしまう。私も会社の経営に関わっていますから分かりますが、言葉はそれほど上手でなくても、お客さんにすごく気を使ったり、周りを見て動いたりといったことに、その人があらわれますよね。こういうことは言葉ではなく、その人を見てみないと分かりません。

藤吉:言葉でこう言ったからそうなんだと信じるのではなくて、その人が実際にどういう行動をしてきたのか、今どのように行動をしているのか、どんな結果を出しているのか、何を実践しているのかに目を向けることがとても大事ですよね。

大愚和尚:そのことに今、人々はだんだん気がつき始めています。言葉を信用してはいけない。その人の行いを見ないと、その人は分からない。実はこのことを2600年前のインドで言った人がいます。それがお釈迦様です。お経本の中に、こんな言葉があります。

 「その人の話していることを見るな。その人が行っていることを見なさい」

 皆さんがどんなに異性から「愛してる」と言われても、結婚してみないと分からない。経験がある人もあるかもしれません。

小川:言葉と行動は車の両輪であるということですね。普段の言葉遣いを、例えばネガティブな言葉をちょっとポジティブに変えていったりすることから、心のありようが変わります。ただ、それだけでは十分ではなくて、言葉にした以上はそれと一致するように行動を変えていく。こういうことが、人生を良い方向に変えていくのかなと思っています。

ライター小川真理子の人生を変えた、住職の言葉とは

小川:私はこの『言葉の力』の編集後記を書かせていただいたのですが、そこでは、大愚住職から個人的にいただいたメールを取り上げました。

 今から10年ほど前のことなのですが、父が末期がんであることが分かりました。私は父が大好きだったものですから、それを聞いて絶望しまして、「どうやったら父が死なないで済むのか」とか「どこかに本当の名医がいて、父の病気を治してくれないか」とか、あるいは「何かの検査ミスで末期がんとされたんじゃないか」とか、とにかくいろいろなことを考えてしまって、毎日モヤモヤしていたんです。

 そのときに住職とお話しさせていただく機会がありまして、私の状況をお伝えしました。そうしたらその日の夜、住職から長いメールをいただきました。その全文は編集後記に載せているのですが、ここでかいつまんでお話しすると、4つのことが書かれていました。

 1つは、仏教では死後の世界は涅槃(ねはん)と言われていて、そこはとても静寂な場所だということ。2つ目は、生は死をもって完結するのであって、忌み嫌うものではないということ。3つ目は、私が取るべき行動について。「小川さんが小さい頃にお父様が励ましてくれたでしょ。だから病気のお父様についていてあげて、励ましてあげてくださいね」ということ。4つ目が「小川さんのお父様には長生きしてほしいと思うけれども、もしも万一その日が来たら、涅槃という世界に一人で旅立つのは心寂しいことなので、そばにいることができるのなら、励ましてあげてください」「安心して旅立てるように言葉をかけてあげてください。体をさすってあげてください」ということでした。

 父はやっぱり末期がんで、その半年後に亡くなることになるんですけれども、住職の言葉のおかげで、悔いなく父を送ることができました。もし住職の言葉がなかったならば、全く違う行動になっていたと思っています。本当に感謝しております。

大愚和尚の言葉によって、悔いを残さずに済んだと小川さん
大愚和尚の言葉によって、悔いを残さずに済んだと小川さん

大愚和尚:私は実は、これまでに二度、死にかけた経験があります。一度はアナフィラキシーショックで、後に看護師さんから「心臓が止まる寸前だった」と言われました。だからそのときの経験から、何もしなくてもいいけれども、そばにいて顔を見て、手を握って、そこにただいてあげてほしいって思ったんです。

 皆さんもこれまで、自分の大事な人を亡くしたことがあると思います。これからもし亡くなる人がいたら、何もできなくてもいいんです。でもね、できればそばにいてあげてください。

 皆さんもいつか死ぬんです。そのときに、「あの人に謝っておけばよかった。ありがとうって言っておけばよかった」、そういう後悔はしないでほしいです。もし皆さんの中に、誰かとけんかしている人がいたら、今日この鼎談が終わったら、帰る前に電話してください。そして言ってください。「對不起(ごめんなさい)。謝謝(ありがとう)」。

藤吉:僕らが大愚住職に教えていただいた「愛語」は、「相手を思いやる優しい言葉を使いましょう」という教えです。愛語を実践していくことによって、自分の考え方とか行動も変わっていくし、周りにいる人の人生を変えていくような気がしています。ありがとうございました。

(写真提供=廣瀬知哲)

『言葉の力』(ナーランダ出版)