エアコンを購入する際の判断基準として、部屋の大きさと店舗などで表示されている畳数表示を整合させる人は多いでしょう。しかし、居住している住宅に応じて選ばないと、とんでもなく下手な買い物になりかねません。新刊『間違いだらけの省エネ住宅』から抜粋・再編集して「エアコン選びの勘所」をお届けします。
エアコンを購入した経験がある人は多いでしょう。日本冷凍空調工業会によると、家庭用のルームエアコンは、国内で年間約930万台が出荷されています(2024年)。
エアコンのカタログを見ると、詳細な付加機能や取り付ける部屋の畳数表示などがびっしりと書かれています。ただし、畳数表示は木造と鉄筋コンクリート造くらいの分類で、しかも「暖房:6~7畳」のような表記にとどまります。これらは、どのメーカーのカタログを見ても共通です。
実際には、木造あるいは鉄筋コンクリート造といっても、戸建て住宅か集合住宅かで状況は異なります。仮に集合住宅なら、上下左右が何部屋に囲まれているのか、断熱性能はどのくらいか、気密性能はどのくらいか、主たる窓はどちらを向いているのか、などの違いがあります。これらの違いによって、同じ畳数でも必要な暖房能力に5倍ほどの差が出ます。冷房に関しては、窓がどの方位にどれだけあるのか、庇があるのか、西日が隣家などで遮られているのかなどによって異なります。
暖房も冷房もこれだけ不確定要素が多いにもかかわらず、畳数表示が一般例として通用しているのは、驚くべきことです。この畳数表示は、1964年に制定されてから一度も変わっていません。しかも、当時の無断熱住宅に合わせてQ値(熱損失係数、住宅の熱の逃げやすさを示す数字で大きいほど熱が逃げやすい)20を目安に表示しています。
エアコンの燃費は大幅に向上しましたが、定格の暖房能力や冷房能力に関しては、約60年前も今も変わりません(気流制御などの細かな機能の差、最大能力の差は除きます)。
この60年間で住宅の断熱性能や気密性能は大幅に向上したのに、畳数表示と必要能力の関係は見直されていないようです。年間930万台ものエアコンが適切な負荷計算をしなくても売れているが故の「触れてはならないタブー」のように思います。
エアコンのカタログの見方
ここからは、エアコンの能力を具体的にひも解いていきましょう。一般的なエアコンのカタログを見ると、以下の表のように示しています。「能力(kW)」は、「そのエアコンが投入することができる暖房もしくは冷房の標準的な時間当たりの熱量」を表します。
暖房能力であれば、定格能力は2.5kWと記載しています。これは2500Wと同じ意味です。カッコ書きで(0.7~5.4)と書いてあるのは、エアコンはインバーター制御で最小運転から最大運転まで変動しながら動くためです。その最小時の暖房能力が0.7kW(700W)、最大時が5.4kW(5400W)であることを示しています。
次に、暖房の定格消費電力を見てみましょう。415Wと記載しています。これは2500Wの暖房能力を消費電力415Wで引っ張れることを表します。つまり、消費電力の6倍もの熱を室内にもたらせるのです。
原理は、外気中の熱量を圧縮するために電力を使っており、この6倍という数字が暖房効率(暖房COP)となります。暖房効率は2010年ごろまでは暖房COPで表示していました。今でも表から割り算すれば計算できますが、表の下のほうにある「通年エネルギー消費効率(APF)」に表記を改めました。
通年エネルギー消費効率は、従来のCOPのように暖房と冷房を分けて考えるのではなく、冷房除湿は6月2日から9月21日までの3.6カ月間を27℃、暖房は10月28日から4月14日までの5.5カ月間を20℃で運転した場合の通年での効率を意味しています。最新型の機種では、この数字が7を超える超高性能な製品も販売されています。
しかし、車の実燃費と同様に、実際はカタログ値通りに能力を発揮することはまずありません。暖房時は外気温が低いほど、冷房時は外気温が高いほど、実際のAPFは悪くなります。それでも1つの目安として、大抵はカタログ効率の70~80%を発揮するので、エアコンは極めて優秀な機械なのです。
ここまでで、エアコンのカタログの見方が理解できたと思います。先の表からは、「6畳用には暖房で2500W、冷房で2200Wがそれぞれ必要」とメーカーは考えていると読み取れます。
必要暖房能力の概算式で検証
冷房は日射条件によって大きく効果が変わるので、単純計算がほぼ不可能です。そこで今回は、暖房に絞って検証してみます。必要暖房能力に関しては、断熱性、気密性、日射取得の3項目が大きく効いてきます。ただ、冷房と同様に日射取得は建物に応じて状況が異なるので、省略して考えます。とはいえ、暖房で日射を無視するのは不利側での計算となるので、安全率は高くなります。
今回、古い住宅でも通用する必要暖房能力の独自の概算式を作ってみました。繰り返しますが、Q値は熱損失係数、C値は相当隙間面積(大きいほど隙間が多い)を表します。建物の年式ごとに、この概算式を使って必要暖房能力を計算してみました。なお、今回は内部発熱はなし、設定室温24℃、最低外気温0℃で計算しています。場所は、東京を想定しています。
概算式に、Q値、C値、面積、温度を入れて計算しました。気密性能は、一般的に世代を追うごとに上がってきているので、その変遷ごとに目安となるC値を変化させています。
「1980(昭和55)年よりも前の無断熱」は激寒住宅です。国土交通省によると、2019年時点の無断熱住宅は当時の住宅数の約3割とみられていました。築年数の古さから、激寒住宅に高齢者が多く住んでいることが想定できます。
計算すると以下のように驚くべき結果となりました。暖房定格能力と比較すると、どの畳数でも激寒住宅の値と極めて近い結果が出てくるのです。暖房定格能力に対する激寒住宅の必要暖房能力の割合の平均値は、実に94%でした。
しかも、主なエアコンの暖房最大能力は暖房定格能力の倍ほどの数字になっています。6畳用エアコンに関しては、2.4倍もの余力を残していると読み取れます。
とはいえ、断熱性も気密性も低い激寒住宅では、実際にはこの計算通りにはいきません。熱量の収支だけを見たらこういった結果になるのですが、気密性が低すぎる結果、暖気は上からほとんど抜けてしまい、足元が温まることはありません。要するに、エアコンではどうにもならない住宅なのです。これはいくら大きな機種を選んでも、そもそもエアコンだけでは効かないことを意味します。そのような住宅をベースにエアコンメーカーは畳数表示を決めていることが推測できます。
次世代省エネ基準の住宅はどうか?
次に、先に示した表において断熱性能は「1999(平成11)年基準」、気密性能は「1999~2016年」の値を見てください。これが、今まで「次世代省エネ基準」と呼ばれ続けている住宅の典型的な例です。2025年の改正建築物省エネ法の施行によって、この基準は義務化されました。
この住宅の6畳で、必要な暖房能力は739Wと計算されています。18畳で2224Wです。暖房定格能力は2500Wなので、計算上は6畳用エアコンでも18畳を賄えます。仮に1.8畳用のエアコンがあるのなら、この住宅の6畳はそれで対応できます。
しかし、実際は計算通りにエアコンを選定するのは無理があります。まず、必要冷房能力を計算すると、ほとんどの住宅で日射遮蔽が適切に検討されていないために、冷房能力が足りなくなってしまいます。たとえ暖房の検討で定格能力が小さくて済む場合でもです。
もちろん暖房専用として使うなら、計算通りの相当小さな機種でも大丈夫です。ただ、C値が4くらいのいわゆる「中気密」と呼ばれるレベルの住宅では、暖気が上から抜け、その分だけ下から冷気が侵入してきます。部屋全体としての暖房能力は満たしても、足元が寒くなってしまい住まい手の満足感は得にくくなります。
なお、こうした現象は表示畳数通りの機種を選んでも同じことです。先ほど述べた激寒住宅ほどではないにせよ、エアコンだけでは対応が難しいことに変わりはありません。
同じ断熱性能であっても、C値が1まで改善すると状況は大きく変わってきます。例えば6畳の場合、計算結果は739W(C値4.1)と665W(C値1)で少ししか変わりませんが、実際には気密性が向上して足元から冷気が引き込まれにくくなるので、数字の差では表せない満足度の向上が得られます。
人によっては暖かく感じるが故に、暖房設定温度を下げたり、稼働時間を短くしたりすることで、結果として数値以上の差がつく可能性が高まります。エアコンだけで十分に満足できるようになり、音も静かで不快さもほとんど感じません。
正しいエアコンの選び方
最後にHEAT20の値を説明します。日本の学識経験者や大手メーカーなどが連携してつくった民間団体「HEAT20」が推奨する基準で、G1とG2、G3が指標となります。今のところ、国内で通用する指標としては、G3が最高水準となります。
G2の8畳を見ると、必要な暖房能力は539Wで済みます。一般的な住宅が40坪(80畳)だとすると、10倍しても5390Wあれば、日射や内部発熱が一切なくても家中を24℃に保てます。定格能力で見ると、16畳用のエアコン1台で十分だということになります。これは、これまでの経験上、昼間にドアなどを開けていて家中で空気を循環できるようになっていれば、余裕で実現可能だと言えます。
最大能力で見れば6畳用エアコンでも対応できますが、お薦めしません。なぜなら、エアコンは定格能力、もしくは定格能力よりも少し余裕があるくらいで運転するのが最も効率が良いと言われているからです。実際にカタログ値で計算すると、「最大運転時の暖房COP=5400/1360=3.97」となり、定格運転時の6よりもかなり落ちてしまいます。
その一方で、ほとんどの人は比較的新しい住宅にもかかわらず、実際の畳数通りか、一回り上の機種を選んでいます。これでは、購入時に値段の高い製品を買うという点でもったいないだけでなく、過大機種を弱運転しすぎて燃費まで悪くなってしまいます。
エアコンのAPF向上競争はそろそろ限界に近づいていると言われています。エアコン業界がなすべきことは、APFを0.1上げることではなく、住宅の状況に合わせて適切な能力を個別計算することではないでしょうか。ただ、エアコンが性能の割に安すぎるのと、販売台数が多すぎることから、メーカーが自ら方針を変えるのは難しいと思います。可能性があるとすれば、計算ができる優秀な設計者にエアコンを選択してもらうか、自己責任において顧客自身が計算するしか方法がなさそうです。
2025年現在では、電力中央研究所がウェブサイトでASSTというエアコンを選定できるツールを公開しています。それでも、家電販売店のベテラン販売員などで、住宅の断熱性能や気密性能に基づいて自ら定格能力を計算している人は、まだ少数派でしょう。逆に「余裕をみて選ぶように」というアドバイスをずっと続けているのが実情ではないでしょうか。
エアコン販売に携わるプロは、断熱性能や気密性能などの知識を持たないだけでなく、実際の住宅を見て断熱性能や気密性能を尋ねることもないと思います。極めて当たり前の話なのですが、仮に知識を持っていたとしても、容量の小さな機種を売れば売り上げが下がり、冷暖房の効果が得られなかったときにクレームを受けるリスクが生じます。そのような理由から、定格能力が小さな機種を選んでくれる場面はほぼないはずです。
年間930万台のほとんどのエアコンにおいて、このような残念な選択がなされていることで、「台数分×過大な容量分」だけ無駄なイニシャルコストと過大なランニングコスト、エネルギーが浪費されています。エアコンメーカー以外は誰も喜ばない現実です。せめて新築住宅を供給する設計者くらいは、適切な選択ができるようになってほしいと思います。
[日経クロステック 2025年6月30日付の記事を転載]
松尾和也著、日経BP、2530円(税込み)




