2016年4月に熊本県で、2024年1月には能登半島でそれぞれ大地震が起こりました。こういう地震が起こった後の数年は、耐震・防災グッズ、非常用食料などが注目を集めます。そこまでは当たり前なのですが、見落とされがちなのが、暖房しなくても暖かく、冷房しなくても涼しい家の重要性です。つまり、暖房負荷や冷房負荷が小さい省エネ住宅です。新刊『間違いだらけの省エネ住宅』から抜粋・再編集して「省エネ住宅で災害にも備えるための勘所」をお届けします。
省エネ住宅の目的の1つはCO2を削減することにありますが、それ以上に建て主にとっては「冬暖かく、夏涼しい生活を経済的に実現する」ことにあります。なぜそれが重要なのか、それを今から説明します。
巨大地震などで大災害が発生した場合、まずは命が助かるかどうかが最大の関心事になります。そこで重要なのは、言うまでもなく耐震性能や耐風性能です。次に重要になってくるのが、1週間前後、電気などのインフラが途絶えても生活するのに困らない程度の暖かさや涼しさが維持できるかどうかということです。
熊本地震の報道を見た瞬間に「これから大変なことになるな。でも厳寒期や酷暑期じゃなかったのはせめてもの救いだ」と心底思いました。私が住む神戸で阪神・淡路大震災(1995年)が起こったのは、1月という最も寒い時期でした。東日本大震災(2011年)は3月とはいえ東北なので、東京や大阪の真冬に相当する寒さでした。
両震災とも、建物倒壊による死は免れたのに、エネルギーが途絶え、暖かい食料や毛布などの物資が不足してしまったことで、低体温症で亡くなった人がたくさんいました。仮に死ななかったとしても、真冬に暖房も防寒着も食料も不足している状態で過ごすことは、若い人にとっても極限状態であることに変わりはありません。加えて、避難先ではインフルエンザなどの感染率もアップするでしょう。
夏とて同じことです。冷房も冷蔵庫も使えない状態で、長期間過ごすことは、これまた極限状態であることに変わりはありません。食料は傷みやすく、衛生面での問題の発生しやすさという意味では冬より厳しい状況にあると言えます。



このような状況において、構造がしっかりした住宅で、かつ夏涼しく冬暖かい住宅であれば、避難所に行かずとも自宅で生活するという選択肢もあり得るでしょう。
そういう住宅では、冬は無暖房でも室温が15℃を下回らず、夏は冷房がなくてもなんとかしのげる、そういった生活が可能になります。現に東日本大震災の際には断熱性能が高かった住宅ほど、無暖房時の室温が高く、住人から「本当に助かった」という声がたくさん上がっていました。
これからは全国どの地域においても、地震、津波、スーパー台風、ゲリラ豪雨などのリスクにさらされます。その際、国や自治体に頼ると、援助が来るまでの非常に長い時間、苦しい思いをすることになります。エネルギーや食料の面でも言えますが、従来からある大規模集中型の社会インフラは災害時にもろさを露呈します。小規模分散型で自立していれば、シェルターとしての役割も果たすことができます。
住宅をシェルターにする8項目
住宅をシェルターとして機能させるために、私が普段から実践していることがあります。
① 25年保管可能な食料を家族1週間分、常時備蓄しておきます
② 水は運べる量に限りがあるうえ、必要量も多くなります。ペットボトル用の浄水器を防災セットに入れておきます
③ 小型のカセットコンロ、ボンベ数本を防災セットに入れておきます
以下は、いずれかでもあると、さらに望ましいものです。
④ 太陽光発電システムには1カ所だけ非常用コンセントが付いています。不安定ながらも日照時は利用が可能です
⑤ 平常時は費用対効果が合わない蓄電池ですが、非常時には最高のメーン電源となり得ます。ただし、現時点では費用対効果の観点では電気自動車などのほうが優れています(格安の蓄電池なら元が取れるようになってきました)
⑥ コンセント付きのハイブリッドカー、プラグインハイブリッドカー、電気自動車などを持っていると非常に強いでしょう。特にプラグインハイブリッドカーには満タンにしておくと、一般家庭の約10日分もの電気を確保できるものもあります
⑦ 徐々に減ってきてはいますがプロパンガスは、電気や都市ガスが切れた場合においても稼働できることがあります。ただし、スタート時に電気を必要としない場合に限ります。また、平常時は電気や都市ガスよりも料金が高くなりがちな点も難点です。とはいえ、阪神・淡路大震災のときもプロパンガスの家庭が近隣住民に風呂の貸し出しを行っていた例が見られました
⑧ 井戸、大型雨水タンク、近隣の清水などを確保できるようにしておきます
南海トラフ巨大地震の想定被災者は数千万人を超える
災害時には、おにぎり1個が1万円でも欲しいと思うものです。南海トラフで地震が連動した際の被災者は数千万人を超えるとも言われています。2025年3月時点の総人口は、約1億2400万人です。
熊本県という人口約170万人の自治体が被災しただけでも、残りの約1億2200万人が力を結集して救助に回っても、あれだけの被害が続いたわけです。
南海トラフ巨大地震の場合、被災者はもっと多く、救助に回る人はもっと少なくなります。いかに厳しい状況になるのかをそれぞれの家族、企業などが自覚しておく必要があるでしょう。震災時にシェルターとして機能する住宅こそが、真の省エネ住宅の姿であると言えます。
★記事のポイント
・冬は無暖房で室温15℃を下回らず、夏は冷房なしでもしのげる家を
・1週間分の食料と水の確保と防災グッズの準備を
・蓄電池かプラグインハイブリッドカーがあると望ましい

松尾和也著、日経BP、2530円(税込み)
