アイリスオーヤマ(仙台市)は売上高が約500万円だったプラスチック加工の町工場から、グループ全体で7900億円のグローバル企業に成長した。その裏には様々な仕組みがある。書籍『 アイリスオーヤマ 強さを生み出す5つの力 』(村松進著/日本経済新聞出版)の内容の一部を再構成して掲載し、秘訣を探る。ここでは社内で情報共有を徹底して「たこつぼ化」を避ける工夫に迫る。

 アイリスオーヤマは毎週月曜、大山晃弘社長ら経営陣が全社員に向けて話す「朝礼」を実施している。内容はテレビ会議システムを使って全国の主要拠点にリアルタイム中継し、社員たちが話を聞く。テーマは事業の現状や展望、自社がメディアに取り上げられた際の反応など幅広い。

朝礼の内容を書籍に

 定期的に朝礼を実施する会社は多い。しかしアイリスの朝礼は一般的な企業と異なり、その場だけで終わらない。大山社長らが話した内容は記録し、年末に1年分をまとめた「朝礼集」を作って社員に配布してきた実績がある。

 ここまで労力をかけて朝礼の内容を明確な記録に残す企業は、なかなか存在しない。かつて大山健太郎会長を取材した際に、朝礼集を出版などの形式で外部に公開する意思があるか尋ねたことがある。大山会長は笑顔を浮かべながらも「外に出すことはありません」と断言した。

社内での連携が多くの新商品の発売につながっている(仙台市、7月7日)
社内での連携が多くの新商品の発売につながっている(仙台市、7月7日)
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 アイリスオーヤマには独特な日報もある。名称は「ICジャーナル」でグループの社員の多くは毎日、パソコンやスマートフォンで200字以内の文章を社内システムに投稿する。その日に実行した仕事を基に記入するが、これも一般的な日報とは果たすべき役割が大きく異なる。

 多くの企業の日報は自身が取引先を訪れて得た注文や研究開発で得られた成果などを書き、1日の仕事ぶりや実績を示すため上司に報告する。しかしアイリスのICジャーナルでは行動記録ではなく、自身のアイデアや改善点を書き込むことが求められる。

 具体的には「他社の家電製品が量販店で好評を得ている。自社商品の機能も見直したい」といった内容で、情報や事実に加えて記入者の意思を明確に示すことが必要だ。

 そしてICジャーナルは「部下から上司への一方通行」ではなく、上司や同僚などが互いに閲覧することが可能だ。個人名や製品などで検索し、特定の社員を「フォロー」できる。いわばツイッターのような「アイリスグループのSNS」だ。社員たちは大山健太郎会長や大山晃弘社長ら経営陣に「フォロー」されるように、投稿の内容を磨く。

現場の「生の声」に反応

 経営トップが中間管理職を経由せず現場の「生の声」を聞き取り、その内容に反応できる仕組みを持つ企業は少ない。ICジャーナルを通じて社員同士で情報や意見を共有し、迅速に課題を見つけて改善提案を競うことがアイリス全体の「変化対応力」を高めることにつながっている。

 ICジャーナルは主に社員同士の情報共有で、朝礼は経営陣が社員に向けて自身の言葉で情報を伝える手段だ。網の目のようにグループ全体へ情報を行き渡らせている。

 社員がそろって社長の訓話をリアルタイムで毎週聞くという経営スタイルは、それだけ聞けば古い習慣のような印象も受ける。生産性や士気の向上にどこまで有効なのかという判定も難しい。経営トップが同じ趣旨の精神論を毎回語ったり、単純に社員へ業績向上の努力を求めたりするだけの内容ならば、全員が時間を共有する意味は小さい。

 しかし記録に残すとなれば、同じ話を繰り返せば後日まとめて読んだ際に「使い回し」が明確になる。準備なしで簡単に話すわけにはいかない。本来は上司から部下へ一方通行で情報を発信する場だが、経営陣が持つ問題意識や現状分析能力などが社員に試される機会になっているともいえる。多くの社員を相手にした毎週の「真剣勝負」だ。

 企業グループが一体になって知識と意識を共有し続けるのは簡単ではない。さらに、今後アイリスに加わる若手社員のような世代は、目上の人間の訓話を定期的に聞く経験に乏しい場合も多い。

 そんな社員たちの士気を高めて「心に火を付ける」には、経営陣もメッセージの内容や伝え方などを一段と工夫する必要がある。

幹部には経営情報を公開

 大山健太郎会長は取材で「社長の力というものは、結局のところ情報を独占できるところから始まる」と話したことがある。実際、多くの企業では社員が上司に報告するルートが厳密に決まっており、たとえ社内であっても受け取るべき幹部以外への情報漏洩を防ぐ仕組みが存在する。

幹部には経営情報を公開し社内を一体化する(2017年、アイリスオーヤマ提供)
幹部には経営情報を公開し社内を一体化する(2017年、アイリスオーヤマ提供)
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 しかしアイリスオーヤマは定期的に、管理職の社員すべてを集めた「幹部研修会」を開いてきた。そこでは業績をはじめとする様々なデータを公開している。あわせて今後の経営戦略なども経営陣が説明し、それらを共有する。

 研修会で幹部たちにどこまで経営データを知らせるのか大山会長に尋ねたことがある。返答は「すべてです」とシンプルだった。これはアイリスが非上場企業だから実行できることでもある。

(出所)『アイリスオーヤマ 強さを生み出す5つの力』
(出所)『アイリスオーヤマ 強さを生み出す5つの力』
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 株式を上場していれば公表前の業績データや経営方針などを多くの社員に知らせることは、インサイダー取引をはじめとする法令順守上のリスクを発生させる。

 もちろん非上場企業でも心配すべき材料はあり、同業他社などに秘密情報が伝わる可能性は否定できない。それでも大山会長は「社長が重要な情報を独占するよりも多くの社員と共有し、会社全体での最適化を目指す方が重要だ」という姿勢を維持する。

大山会長は情報共有の重要性を強調する(2022年11月)
大山会長は情報共有の重要性を強調する(2022年11月)
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 一般的な企業では、営業実績に関するデータを営業部門のトップなど経営陣の一部が独占し、技術開発の動向は開発トップらが抱えるなど「情報の縦割り」が発生しやすい。しかしアイリスは新商品を開発する際に関係する部署が集まり、最初から連携して一斉に動き出す「伴走方式」を採用している。このため、すべての部門が自社の最新状況を正しく理解していなければ最適な連携が難しくなる。

 幹部すべてに重要情報を知らせて状況を共有することには、部門の垣根を下げる狙いがある。これにより、中間管理職が自身の率いる組織のことだけを考えて行動するような「たこつぼ状態」を避けようとしている。

 どんな企業でも社員や管理職たちが組織単位で固まり「部分最適」で動くリスクは否定できない。アイリスの情報共有の仕組みがすべての会社に応用できるわけではないが、参考になる要素は多い。

(注)2回目以降は「日経電子版」と「日経産業新聞」で随時掲載します。

高成長を支える仕組みを徹底解剖

園芸用品、ペット用品から家電、コメ、そして法人ビジネスへ――。常に新分野に挑戦し、変化を続けるアイリスオーヤマ。「人事の力」「共有の力」「地方の力」「失敗の力」「変化の力」という5つの視点から、その経営の秘密を立体的に描き出す。

村松進著/日本経済新聞出版/1760円(税込)