本来「叱る」とは相手の行動や意識の改善を促すための行為であり、悪いことではありません。伝えるときは、どう行動してほしいのかを相手に「リクエスト」しましょう。相手に期待しすぎず、上手にお願いしてみましょう。日経ビジネス人文庫『アンガーマネジメント大全』(戸田久実著)から抜粋・再構成してお届けします。

叱るとは相手に改善を促すリクエスト

 最近は、
 「叱るのはよくないことだ」
 「部下から『パワハラだ』と言われるのが怖くてうまく叱ることができない」
という話をよく耳にします。

 管理職の人自身が部下だった頃は、上司が
 「バカヤロウ」
 「ふざけるな」
と、かなり強い口調で感情的に怒鳴ることもよくありました。そのような叱られ方しか知らないため、叱ることに対するイメージが、本来の「叱る」と異なっている人も多いのです。その叱り方しか見ていないため、叱り方も分からないのでしょう。

 昨今は、「ほめて育てろ」という風潮もあるので、叱ること自体がよくないという認識を持っている人も多くいます。でも、部下や後輩、子どもに対して叱る目的は「次からこうしてほしい」という、行動や意識の改善を促すことなので、決して悪いことではありません。

 相手の成長のためにも、改善してもらう必要がある場合、よくないことや迷惑をかけることをしてしまった場合には、「叱る」ようにしましょう。叱るときは「次からこうしてほしい」「ここを直してほしい」という要望を伝える、言い換えれば「リクエストをする」ことだと、とらえ方を変えてみてください。そうすることで、叱ることへの抵抗も少なくなるでしょう。

「してほしいこと」と「理由」を伝える

 ただ、叱るときは怒りという感情がともないやすいため、ついイラッとしてやり込めたり、たたきのめしたり、自分の正論を押し通す方向に行かないようにしましょう。パワハラ問題になる可能性があります。

 「なんで作業手順を守らないんだよ。この通りにやらないなんてバカだな」
→「チームで決めた通りの手順を守ってほしい。そうしないと事故が起こるからね」

 「同じミスを何度も繰り返すなんてバカじゃないか。本当に抜けているよな」
→「同じミスを繰り返さないように、ここは数字の間違いはないか、見直しをして仕上げてほしい。数字ひとつの間違いでも、このままお客様に提出したら、相手に不信感を与えてしまうよ」

 このように、どう行動してほしいのか、なぜこれを改善してほしいのかという理由をセットにして相手に伝えましょう。リクエストに該当しない、
 「バカじゃないか」
 「使えないな」
 「この仕事は向いていない」
 「ダメな人間だ」
といった、相手の人格や能力を否定する言葉が入ってしまうと、パワハラにあたります。この点に気をつけて、伝えるようにしてください。

相手に求めすぎない

 相手に何かをしてあげたときに感謝やお礼の言葉がないと、「感謝をするべきだろう」と思ってしまうことは、誰にでもあるでしょう。感謝されたとしても、自分が思っていたことと違ったとき、「自分ならばもっとこんなふうに感謝するのに」と、むなしさやがっかり感を味わい、怒りがわいてしまう場合もあります。

 どこまで感謝を表すのかという基準も、表し方も、人それぞれ違うもの。ひと口に「感謝を表す」といっても、その人によって、求めているものは大きく異なるのです。

 わたしも若い頃は、「こんなにしてあげたのに、なんで?」と思ってしまったこともありました。でも、大人になってから、それは利己的な考えだったということに気づいたのです。相手に感謝の言葉をもらおうと期待しすぎないことも、ときには必要です。

怒りに直面したら、「リクエスト」することを心がけよう(写真:Wasan/stock.adobe.com)
怒りに直面したら、「リクエスト」することを心がけよう(写真:Wasan/stock.adobe.com)
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不満は本人に「お願い」として伝える

 なかには「してもらえることが当たり前」と思っている人もいるかもしれません。そういう人に対しては、思いきって「せめてありがとうは言ってほしい」と正直に伝えてもいいでしょう。

 よくないのは、「この人はいつも感謝が足りない人だ」と相手に対して嫌な態度をとったり、言葉で伝えずに不機嫌な態度をとったりすることです。これでは、あなたがなぜ怒っているのかが相手に伝わりませんし、「あの人は急に機嫌が悪くなって、感じが悪い」と、逆に自分の評価を下げることにつながってしまいます。

 さらによくないのは、「あの人、わたしがここまでしてあげたのに、なんの感謝もない」と、ほかの人に悪口のように言うことです。これを繰り返していると「この人はこういうことで怒って、悪口を言ってしまう人なんだ」という印象を、周囲に与えてしまいかねません。また、その悪口がまわりまわって、本人の耳に入ってしまう可能性もあります。

 感謝の仕方について怒りや不満がわいたとき、本当に気になったなら「『ありがとう』『助かった』と言ってくれると、次も気持ちよく協力してあげられるんだ」とお願いする形にして、本人に直接伝えましょう。

日経ビジネス人文庫
アンガーマネジメント大全
「アンガーマネジメント」は怒ることを否定するのではなく、自らをうまくコントロールして適切なコミュニケーションを促進する手法。怒りで人生を後悔しないために、全ノウハウを余すことなく公開。

戸田久実著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)