日本経済新聞社は9月10日にトークイベント「ビジネスパーソンのための『迷わない株式投資のきほん』」を開催した。『優待株・高配当株投資のきほん』 (日経文庫)著者で日経マネー編集委員の大口克人、『成長株・バリュー株投資のきほん』(日経文庫)著者で副編集長の臼田正彦が株式運用の基礎を解説。今回は値上がり益を狙う「成長株・バリュー株」のポイントを臼田が解説する。

1回目 優待株と高配当株はビジネスパーソンにとって「最強の投資」 から読む

日経マネー副編集長の臼田正彦(左)と編集委員の大口克人(右)
日経マネー副編集長の臼田正彦(左)と編集委員の大口克人(右)
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お宝株を見つけるためには指標をチェック

日経マネー副編集長 臼田正彦(以下、臼田) 今回は株の中でも「成長株」「バリュー株」についてお話しします。優待株・高配当株が「持っているだけでおいしい」株だとしたら、成長株・バリュー株は「値上がり益を狙う」株です。投資初心者の方は「配当は理解できるけれど、値上がりを狙うのはギャンブルじゃないのか」と思われるかもしれませんが、私は本質的には成長株・バリュー株も「持っているだけで、企業から贈り物をもらっているようなもの」だと考えています。

 配当は企業が出した利益の一部ですが、そのもらえなかった利益はどこに行くのか。実はこれも株主がもらっているようなものなんですよね。どういうことかというと、企業が出す決算書を見てみると分かります。私は20年ちょっと前に初めて決算書を学んだときに、違和感がありました。なぜかというと、企業の利益には、売上高からその商品をつくるのにかかった原価などを引いた粗利益、店員の給料などを引いた営業利益、金利負担なども反映した経常利益などがあります。そこからさらに不動産売買などの特別利益や法人税などを引いて、純利益(最終利益)を出します。

 私が違和感を覚えたのはこの部分で、最終利益といいつつ、これはまだ株主に配当を渡す前なんですよね。企業にいくらお金が残るかは、株主にいくら配当を払うかによって変わってしまうのに。つまり決算書は、企業という法人にとってのお金の出入りを記録する家計簿ではなく、株主目線だということです。株主としては、純利益になった時点で利益を得たことは確定していて、あとはその利益を企業の中に残すのか、配当として外に出すのかの違いでしかないのだと分かり、納得がいきました。だから配当をいくらにするかは、決算書を出した後で、改めて株主総会で決めるわけです。

 実際に配当以外の利益はどこに行くかというと、いわゆる「純資産」に追加されます。このとき「1株あたりの純資産」を表すのがBPSで、「株価が純資産の何倍か」を表すのがPBR(株価純資産倍率)。PBRを出すには1株当たりの純資産(BPS)÷株価となります。

 株主がもらえなかった配当は純資産に回り、株価が上昇しない場合は分母であるBPSだけが増え、PBRが下がっていきます。PBRが下がると、「安すぎないか」と感じる投資家が増え、買いたいと思う人が増えます。結果的に株価を押し上げることになるので、基本的に企業が黒字を出している限り、株主は配当をもらい続けているようなものなのです。

 さらに最近の事情としては、このPBRが下がり続けるまま放置している企業には東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営をせよ」と要請が出るなど、放置が許されない風潮が強まっています。特に罰則などはないものの、そのままだとアクティビスト(物言う株主)に買収されたり、経営者の座を追われたりしてしまいます。それを避けるため、企業は株価を上げる、配当を増やすといったことを意識するところが増えています。

 高配当株で利回りが4%、5%、しかも健全な経営の会社を探すとなると、選択肢は絞られてきます。しかし、配当利回りはそれほど高くなくても利益が出ていて、将来安泰な企業というのはたくさんあります。誰も知らないような法人向けのビジネスをしている企業の株を持ち続けていると、アクティビストのプレッシャーでいきなり配当が2倍になった、TOBの対象になったという「おいしいこと」が起きます。値上がり益を狙うとなると業績が目立つ会社に目が行きがちですが、知名度が低く、企業価値に比べて株価が安すぎるという株をずっと持ち続けるという手もあります。

 この本ではPBRともう1つ、PER(株価収益率)についても説明し、実践的な使い方についても説明しています。私は日経マネーで日々、いろんな投資家の人に「なぜ、この企業がいいと思いましたか」と取材を重ねています。その話の中から出てきた理由で納得できたものだけをこの本に書きましたので、頭でっかちな理論ではなく、現場からのボトムアップでできた1冊だと思っています。

『成長株・バリュー株投資のきほん』著者の日経マネー臼田正彦
『成長株・バリュー株投資のきほん』著者の日経マネー臼田正彦
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日経マネー編集委員 大口克人(以下、大口) 臼田君の本を読むと、 なぜフジテレビで不祥事が起きたのに株価が下がらなかったか も分かりますよね。

 それから、我々の本の内容とはちょっと離れるんですけど、日経マネーでは「IRが苦手な企業」という特集をしたことがありました。例えば、トヨタやKDDIなどIRが得意な企業は投資家に評価され、株価も高いのですが、一方で業績はいいのにIRが苦手な企業もあります。それを特集したら、ほとんどの銘柄が値上がりしたんですよね。日経マネーが株価を押し上げたのではないかと(笑)。

臼田 中には発売日と同時に勢いづいた銘柄もありましたね。

大口 PBR、PER、IRなどを知ると、多面的に企業を見られるようになります。ただ、優待株投資家で日本一有名な桐谷広人さんは業績とかはあんまり意識してないんですよ。レシップホールディングスは「柿をくれる会社ね」、大黒天物産は「大粒ピオーネをくれる会社ね」って(笑)。そういう見方で銘柄に触れるのもアリです。

臼田 数字や優待を切り口に企業を調べていくと、普通では出合わない会社に出合えるのが面白いですよね。

大口 以前、取材をした人が「収入の川は複数流れているほうがいい」と言っていました。今は変化が激しく、正業だけの収入では厳しくなるという時代が来ています。そのときに正業、副業、配当と複数の川が流れていると安心ですよね。「配当川」は最初は細い流れでもいいわけで。

臼田 そうですね。ビジネスパーソンの人は日中忙しく、相場が動いているところは見られないと思います。でも、相場を見てしまうと気が散ったり、売ってはいけないときに売ったりしたくなる。だから、私たちが紹介した投資法は忙しいビジネスパーソンのほうが成功できる可能性が高いと思います。

日本経済新聞東京本社2階のNIKKEI SHOP。「日経の本」や日経マネーほか日経の雑誌が購入できる
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優待株とふるさと納税はどちらがお得?

大口 では、ここからは質疑応答に移りましょう。でも、最初の質問って出にくいんですよね。別に「大口はネクタイを何本持っているのか?」でもいいですよ。ちなみに350本ぐらいです。

質問者1 株主優待とふるさと納税は似ていると思うんですが、どっちがお得ですか?

大口 投資と寄付なので単純な比較はできませんが、似ているところは確かにありますね。優待株投資にもアンチ的な方がいますが、ふるさと納税にも「返礼品が目当てなのか」「自分の自治体の税収が流出したら、行政サービスの質が低下するじゃないか」と言う人がいます。でも実際はふるさと納税による減収額の75%は地方交付税で補填されるんですね。私はふるさと納税賛成派ですし、自分もしています。ただ、優待株投資は優待品だけではなく配当ももらえる、さらに値上がり益も期待できる。そう考えると、優待株投資のほうがお得かなと思います。

質問者2 25年4月のように株価が大きく値下がりしているときに買うのは、長期保有の観点からすると「買い時」なのでしょうか。暴落中に気をつける点があれば、教えてください。

臼田 我々日経マネーは長期保有を勧めるスタンスです。暴落中ということは少なくとも高値づかみはしていないので、いい企業を持ち続けていればいつかは株価が上がると期待できます。

 反対に株価が暴騰したタイミングで高値づかみをすることのほうが要注意かもしれません。日ごろの企業価値から見ても株価が安い、と思えるなら、暴落は株を買う背中を押してくれる1つの要素かもしれません。

大口 誰も「株価の底の底」は分からないんですよね。今だ!と見きわめて買うのは難しい。株価のような動きのあるものは、いつ買っても一緒なのかもしれません。

臼田 「1年で一番株価が高い時期に買い続けるとどうなるか」という研究をした人もいます。要は高値づかみをし続けるとどうなるのかという研究ですが、それでも長期保有をしていればプラスになっていました。「今は株価が高いから」と見送った人は将来的に後悔するかもしれません。もちろん、個別株に関しては業績悪化など買ってはいけない状態もあるので、そこを見きわめることも重要です。

質問者3 最近、自社株買いをする企業が増えていると感じます。そうした会社には気をつけたほうがいいですか?

臼田 基本的に歴史が長く、利益を出し続けている会社は、先ほど言った純資産が増えていきます。だから、純資産が大きくなり過ぎないように自社株買いをし続けなければならない宿命になっていることが多い。その方針を中期経営計画としてきちんと説明しているのであれば、基本的にプラス材料として捉えていいと思います。

 米国では借金をしてまで自社株買いをする企業も珍しくありませんが、日本で自社株買いのしすぎで悪影響が出たというケースはあまりないと思います。

質疑応答では参加者からの質問が相次いだ
質疑応答では参加者からの質問が相次いだ
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質問者4 先ほど、「長期保有が基本」とのお話でしたが、例えばPERがあまりにも高すぎて3桁を超えるような場合は1日単位、週単位でチェックしたほうがいいですか。

臼田 今回のこの2冊の本で紹介した株式投資の手法は、優待株、高配当株、成長株、バリュー株です。実はこれらは株式投資法の半分でしかありません。では、もう半分は何かというと「モメンタム投資(株価の勢いを重視する買い方)」と呼ばれるものです。

 基本的に株価というのはオークションと同じで、株を買う人が増えたら上がる、買う人が少なければ下がります。企業価値を見て買う人はPERが数百倍の企業には手を出しませんが、「株価に動きが出そうだ」という思惑で買うモメンタム投資の人はそうした企業にも手を出します。投資家がそういう人ばかりだと、結果として需給要因だけで株価が動き、その動きが極端なので、株価が下がり続けると、どこで止まるか分からないといった事態も起こります。PERが高い銘柄であるほど、監視を怠ってはいけないと思います。

大口 「どういう人が株価を買っているか」を想像してみるといいですよね。

臼田 例えば、以前には「バイオ株とゲーム株が同じ値動きをする」という現象もありました。置かれたビジネス環境は全く関連がないはずなのに、株を買っている人が同じだからです。割高な株だけを好み、値動きにしか興味のない人もいます。

 でも、そうした投資ではなく、この本を読めば企業価値を見て株を買うという方法が分かります。みなさんのお役に立つことができれば幸いです。

取材・文/三浦香代子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子

日経マネー副編集長がやさしく解説!

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臼田正彦著/日経文庫/1100円(税込み)
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大口克人著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)