仕事でやらかして消えてしまいたい日は、ケーキを買ってお祝いを!――経営学的には「失敗は望ましい」。しかし、そのメリットを享受するにはコツがあるのです。書籍 『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』 から、あくせく働く毎日が経営学でラクになる腹落ち理論を、さわぐちけいすけさんのマンガと、登場人物たちの行動を経営学者・入山章栄さんとともに振り返る解説でお届けします。

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経営学で「失敗」を考えると…

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<入山章栄のつけたし解説>若いうちの成功が危ない

 よしみさんとれいこさん、2人ともミスをやらかして落ち込んじゃいましたね。れいこさんは推し社員の剛田さんと偶然話せて間もなく立ち直っていましたが、よしみさんはうじうじ悩み、なかなか冷静になれなかったようです。

 でも、失敗することは、経営学的に見ても決して悪いことではありません。なぜなら人は、失敗するからこそ「サーチ」するからです。

 サーチとは、ノーベル賞も取ったアメリカの偉大な認知心理学者、ハーバード・サイモンらが提唱した概念で、「従来の方法を見直し、新しい情報を得ようと動き回ること」です。

 と言っても難しいので、要は自分の認知の外に出て、知らないことを経験し、学ぶすべての行為だと思ってください。つまり、「知の探索」です。

 人の認知は、そもそもすごく狭いんです。これは認知心理学や(それを土台にした)経営学の前提です。ですから、人は放っておくと、狭い自分の認知の幅だけで生きてしまいます。それだと成長もしないし、成果も生まれにくくなるんです。逆にサーチをすれば、認知の外の多様な情報を取り込め、広い世界における自分の立ち位置も見えてきます。

 ところが、人というのは、早い段階で成功してしまうと満足感(サティスファクション)が高まり、「自分の見ている世界は十分に正しいんだ」と思い込んでしまう傾向があるんです。

 結果、現状に満足するのでサーチをしなくなり、認知は狭いままになる。若くして成功を収めたものの、その後は鳴かず飛ばずという経営者がたまにいますよね。これは、経営理論的には「慢心してサーチを怠ってしまった」せいと解釈できるんですよね。

 このように、特に若いうちに成功ばかりを経験することって、実は危険なんです。

 昔から「失敗は成功のもと」といいますが、若いうちはどんどん失敗して、「自分の見ている世界は狭い」と反省して、サーチを続けて認知を広げることも重要なんです(*3)。失敗体験の重要性は、経営学の実証研究でも示されているんですよ。

失敗を学びに変える裏ワザとは

 とはいえ、人の脳には認知系に加えて、感情系があることは第1話の解説でお話ししましたよね。失敗したら「情けない…」「なんて自分はダメなんだ」とめげてしまうのは自然な反応だし、落ち込みを引きずって反省できないこともあるでしょう。これは、脳の感情系のなせる技です。

 そこで僕がオススメしたいのが、「失敗したらお祝いする」を意図的にルールにすることです。

 「スイーツ食べ放題に行く」「ちょっといいお店でディナーする」「ちょっといいアクセサリーを買う」などなんでもいいから、失敗したとき限定のご褒美を用意するのです。

 すると、ネガティブな感情がポジティブな感情に上書きされ、「失敗しちゃったけど、よかったかも!」と前向きな気持ちになる。感情面のネガティブがなくなるので、認知系のほうで、「よし、失敗を挽回するぞ」「今回のことはいい学びにして、次回に生かそう」と、失敗を学びに切り替えるスイッチが入りやすくなるはずです。

 漫画では、れいこさんがたまたま推しの剛田さんと会えて、ネガティブ感情からポジティブ感情にスイッチできましたね。でもこれは偶然だったので、ルール化したほうがいいわけです。

 ちなみに、お酒好きの僕は、失敗したら思い切り良いお酒を飲むことにしています。

 実は先日もうっかり寝坊し、関わっている企業のとても大事な会議をすっぽかすという不始末をしでかしました…。ものすごくへこみましたけど、「こりゃ今晩は高いワインを飲むしかねえな」と思ったら、ちょっと元気になれました(笑)。

 ただし、「いつもやっていること」だと“ご褒美”にならないので注意してくださいね。僕も失敗した日に高いワインを飲むため、日ごろのお酒はなるべく安いものを飲んでいますよ。いや、ケチっているわけではないんです…。

*3 Madsen, p. & Deasai, V. 2010. Failing to learn? The effects of failure and success on organizational learning in the global orbital launch vehicle industry. Academy of Management Journal.