うんざりする会議、意味のない会議になってしまう経営学的な理由は、参加者の「心理的安全性」が低いから。お手本にしたいのはある芸人さん。書籍 『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』 から、あくせく働く毎日が経営学でラクになる腹落ち理論を、さわぐちけいすけさんのマンガと、登場人物たちの行動を経営学者・入山章栄さんとともに振り返る解説でお届けします。
<入山章栄のつけたし解説>ファシリテーターとは
やたら疲れる上に、「なんの成果もないなあ」と感じる会議ってありませんか? マンガでも、かずえさんとまりさんがリモート会議で疲弊していましたね。参加者が勝手に発言して収集がつかなくなったり、偉い人だけがしゃべりまくる会議にうんざりしたり。
ダメな会議のパターンはさまざまですが、僕が経営学者としてオススメしたいのが「ファシリテーター」を立てることです。
参加者たちの意見を引き出し、交通整理をし、議論を活発化させるファシリテーターがいれば会議はもっと心地よいものになるはずなんです。もちろん、仕事の成果も上がることが期待できます。一般に、日本の会社の会議は、司会や議長はいても、ファシリテーターがいないことが多いんですよね。
ファシリテーターは新人・若手を含め、誰にでもできます。コツは3つだけ。「ひたすら聞く」「しゃべっていない人に話を振る」「脱線したら軌道修正する」です。
ファシリテーターはとにかく聞き役に徹しましょう。僕もファシリテーターを務めるときはなるべく発言を控え、周りの話を傾聴するようにしています。
そして日本語には、話を引き出す魔法の言葉があるんですよ。それは、「なるほど~」です(笑)。この言葉はとても便利で、「なるほど」と言いながら相づちを打ってあげると、話し手は「あっ、聞いてくれるんだ」「自分は話していいんだ」と安心し、どんどんしゃべってくれるようになります。
そして沈黙している人がいたら「○○さん、彼の話、どう思いましたか?」などと話を振りましょう。そうすると、むしろ「あっ、会議ってただ黙っているだけじゃダメなんだな」となるので、いい意味での緊張感も生まれるんですよ。議論が横道にそれてしまったら、「面白いですね! でも今日のテーマは△△なので、△△について話しましょうか」と話題を引き戻せばいい。
ネガティブな話題はどうする?
うんざりする会議、意味のない会議になってしまう経営学的な理由は、参加者の「心理的安全性」(Psychological Safety)が低いから、が大きいでしょう。
心理的安全性とはハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱した概念(*1)。組織の誰もが、非難されるのではという不安を抱いたりせず、自らの考えや気持ちを率直に発言できる状態を指します。
お互いを尊重し合い、共通の目的を持っているからこそネガティブなことも臆せず口にできる。逆の場合は互いの腹を読み合ってしてしまうので、うっかりしたことは言えません。変な気を使うからなんだか肩も凝ってくるし息苦しい感じ。これではアイデアも出てきませんよね。
では心理的安全性を高めるにはどうすればいいのか?
僕がお手本にしてもらいたいなと思っているのは、実は、トークバラエティー番組『アメトーーク!』のMC、ホトちゃんこと蛍原徹さんなんです。
この番組は、ゲストのお笑い芸人たちの議論の白熱っぷりがすごいですよね。でも、実はホトちゃん自身は、ほとんどしゃべっていない。それなのにトークはどんどん盛り上がっていく。それもこれも彼がひたすら話し手に共感し、相づちを打ちまくっているから。
ご本人が意識しているかどうかはともかく、そうやって出演する芸人全員の心理的安全性を高めているんですね。ホトちゃんがこの番組の1人MCをやるようになって、心配した視聴者も多いと思いますが、相変わらず人気があるのはこれが理由だと思います。
実際、僕の周りのイノベーターや優れた経営者ほど、みんな「なるほど」をよく言います。逆に、日本企業の管理職は、「なるほど」と言うのが苦手な方も多い。
だからみなさんには、ぜひ会議では意図的にファシリテーター役にになって、「なるほど」があふれる、心理的安全性の高い会議をつくっていただきたいと思います。
自分がすでに管理職やリーダー的な立場にいる方は明日からでも実践してほしいですし、まだそうでない立場の方も、意図的にここで書いたようなことを少しでも会議でやってみると、会議の雰囲気も質もよくなると思いますよ。