12月は、1年の終わりに寄付について考える寄付月間。寄付の世界を広げていくためには、税制や政策を変えていくとともに、寄付に関する情報をきちんと社会に伝えていくことが大切だ。 『寄付をしてみよう、と思ったら読む本』 (渋澤健、鵜尾雅隆著/日本経済新聞出版)より、日本ファンドレイジング協会やコモンズ投信が行っている「寄付教育」の活動を紹介する。

「寄付教育」のすすめ

 どうすれば、寄付の世界がもっと広がっていくのでしょうか。

 三つの要素が思い浮かびます。ひとつ目は、税制改正や政策によって、より寄付がしやすい環境を国が作っていくこと。

 二つ目は、マーケットメカニズムを作ること。株式市場において情報が広く発信されていなければ、投資が進まないのと同じように、寄付も市場の情報をしっかり伝えていくことが重要です。社会貢献教育や寄付教育が、市場を形成するプロセスとして大切になります。

 そして三つ目は、寄付を受ける側の人たち、NPOなどがきちんと成果を報告したり、多くの人とコミュニケーションをとることで共感を広めたり、社会問題の解決法を提案していくことです。

 こうした寄付市場の拡大・活性化のために、日本ファンドレイジング協会やコモンズ投信はさまざまな活動に取り組んでいます。ここでその事例を紹介します。

 2009年に設立された日本ファンドレイジング協会は、NPOなどファンドレイジング(資金集め)に関わる人や、寄付をしたい、社会貢献をしたいという人々のための認定NPO法人です。これまで認定ファンドレイザー資格制度を作ったり、『寄付白書』を発行したりしながら、企業や行政、NPOなどをつないで社会貢献活動の促進に努めています。

 活動のひとつに、子どもたちに寄付について考え、学んでもらう体験学習プログラム「寄付の教室」というのがあります。これまで全国52校、200弱の教室で実施してきました。

 こうした寄付教育は、独立した寄付教育として行う場合や「お金の教育」「社会貢献教育」の一環で行う場合などさまざまなパターンがあります。

 コモンズ投信では「こどもトラストセミナー」で、お金の使い方には次の4つがあると説明しています。

(1)いま必要なもの、欲しいものを買う(消費)
(2)少し先の欲しいもののために貯める(貯金)
(3)困っている人たちを助ける(寄付)
(4)将来の大きな夢のために増やす(投資)

 (1)(消費)や(2)(貯金)は、子どもでも直感的にわかりやすい使い方です。しかし、(3)(寄付)と(4)(投資)については、ちょっとしたワークが必要になります。

 小さな子どもでも、世の中には困っている人がいるという話を聞くと、助けてあげたいという良心が働きます。でも、自分は子どもなので遠いところには行けません。力もないから手伝うこともできません。

 でも、自分の代わりにそこへ行って助けてくれる人がいて、その人が行けるようにお金を使う形でお手伝いができると説明すると、すとんと理解してもらえます。

 自分だけのお金では足りないから、友達も一緒に寄付をして、みんなでそれなりの額を貯めれば、困っている人のところへ誰かが行ってくれる、と、(3)(寄付)の使い道について理解をします。

日本の教育現場では、寄付について学ぶ機会は少ない(写真/shutterstock)
日本の教育現場では、寄付について学ぶ機会は少ない(写真/shutterstock)
画像のクリックで拡大表示

「me」が「we」に変わる

 ここで、お金を使う主体を考えてみると、消費や貯金というのは、自分のためにすることですから、「me」です。でも、寄付の大切さを理解すると、自分と、自分の代わりに誰かを助けてくれる人と、困っている人が存在して、「me」の「m」がひっくり返って「we」となります。

 「me」は目的語であり受動的ですが、「we」は主語であり、能動的であるということが大切なポイントです。

 また、子どもたちが「me」から「we」の世界観を理解してもらうことは、(4)(投資)の話に進めるためにも重要です。「we」の意識がなく、いきなり投資の説明をすると「ナンボ儲かった」という、思い切り「me」主体のマネーゲームに入り込んでしまうからです。

 投資はそもそも、自分たちが暮らす社会にこんなふうに役立っている会社があるから応援したいとか、私たちのためにいいものを作ってくれている会社を応援したいというものと教えると、子どもたちは投資も「we」であることに気づきます。

 もっとも、お金を稼ぐことを否定してはなりません。誰かがお金を稼がなければ、さまざまな社会活動の活力を削いでしまい、寄付文化を育成できなくなります。そもそも稼がなければ寄付財源が生じません。

 寄付教育では、(3)や(4)のように主体が「we」となるお金の使い方について、詳しく伝えていきます。こうした文脈で寄付についての考え方を学んでもらうことは、とても重要です。

お金にはどういう力があるかを知る

 こどもトラストセミナーの「寄付の教室」で、子どもたちに、「1万円を(1)~(4)の使い道に振り分けてみましょう」と聞いたときに面白いのは、(2)の使い道があまり思い浮かばないことです。自転車も買ってもらえるし、ゲームも買ってもらえるし、自分のお金を貯めて買いたいものがなかなか思い浮びません。

(出所)『寄付をしてみよう、と思ったら読む本』(210ページ)
(出所)『寄付をしてみよう、と思ったら読む本』(210ページ)
画像のクリックで拡大表示

 ただ、使い道は決まらないのですが、金額は入ります。そこで、「どうしてお金を貯めるの?」と聞くと、特にほしいものはないけれど、「将来何があるかわからないから」と言います。これはたぶん、普段ご家族の方がそのように言っているからだと思います。

 でも、お金を貯めるのはどういうことか、お金にはどのような力があるのかを、日本では教えません。とりあえず貯めておくことばかりしていたら、世の中はどうなるのか。そうしたことは学校では教えてもらえません。

 そこで今度は、社会課題に取り組んでいるいくつかの団体を紹介します。彼らがどのような活動をしていて、どのようにお金を使っているのかを説明します。たとえば、「3000円あれば、日本野鳥の会の人たちは、鳥の巣箱がいくつ作れます」というように、具体的な金額がどのように役立つのか説明します。すると子どもたちは自分が応援したいところを選びやすくなり、(3)の寄付にお金を入れ始めます。

 子どもたちの動機はとてもシンプルで、「自分は鳥が好きだから、応援したい」というように主体性を持ってお金を入れるようになります。

 このように自分の意志でお金を動かしてみて初めて、お金が意味や価値を持ち始めます。学校で募金箱にお金を入れたことがあるという子は多くいますが、聞いてみると何となくお金を入れて、どこに使われているかよく知らないという子が大半です。

 でも、「鳥が好きだから、鳥の巣箱を作ってくれる人たちを応援したい」という主体性を持つことで、そのお金はその子にとって意味を持つものになります。

 人は本来、誰かの役に立ちたいという欲求を持っていますが、どのように役に立つことができるかのハウツーを、教えてもらうことはなかなかありません。社会に存在する環境や貧困などの問題について知ることはできても、社会の一員としてどのように行動するかという教育が、学校で十分されているとは言い難いのです。だとすれば、社会の一員になったときに、「寄付はいいことだと思うんですけどね」と、どこか他人事のようになってしまいます。

 こどもトラストセミナーの後に感想を書いてもらうと、「1円が大事だということがわかった」と書いてくる子がいます。自分のために使いたいお金もあるけれど、誰かを助けるためにもお金を使いたい、そのように考えると、1円がとても貴重なものになってきます。

 寄付というのは、何をしているかわからないところに、みんながやっているからするというものではなく、「we」のためにするものだということを、教育現場できちんと伝えることが必要だと感じます。

寄付は「未来への一票」だ!

なぜ、寄付をしたほうがいいのか、どんな分野に寄付金が必要とされているのか、数ある中から寄付をする先をどう選べばいいのか。なんとなく寄付に関心があるけれど、一歩を踏み出せないでいる人必読の寄付入門。

渋澤健、鵜尾雅隆著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)