フリーランスになって仕事の負担が過多になっていたよしみさんは、思い切って、フィーリングで仕事先をスッパリと断捨離します。実は、この判断は経営学的にリーズナブルでもあるんです。書籍 『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』 より、あくせく働く毎日が経営学でラクになる腹落ち理論を、さわぐちけいすけさんのマンガと、登場人物たちの行動を経営学者・入山章栄さんとともに振り返る解説でお届けします。

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示

経営学で「居心地」を考えると…

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示

<入山章栄のつけたし解説>仕事の断捨離で大事なこと

 フィーリングで仕事先をスッパリと断捨離してしまったよしみさん。「えっ、フィーリングで!?」「報酬じゃないんだ」と、ちょっとびっくりした方もいるかもしれません。

 でも、実はよしみさんの判断は経営学的にリーズナブルでもあるんです。

 これを説明するのが、「エンベデッドネス」(embeddedness、埋め込み、という意味)です。米国の社会学者、マーク・グラノヴェッターが1985年に発表して以来、多くのソーシャルネットワークの研究の基盤になっている考えです。

 グラノヴェッターの主張を整理すると、「ビジネス上の人と人とのつながりには、大きく3つのタイプがある」ということになります。

 第一に、どちらかというと契約ベースでビジネスライク、ドライな「アームス・レングスなつながり」。

 第二に、組織における上司・部下など、関係性が上位下達で一方通行な「ヒエラルキー上のつながり」。

 そして第三に、「埋め込まれたつながり(エンベデッドネス)」です。

 埋め込まれたつながりは、アームス・レングスなつながりとヒエラルキー上のつながりの間に位置するイメージです。一言で言うと、「互いがそれなりに対等で、それなりに深く交流があって信頼性があるつながり」でしょうか。

 例えばすでに何度か一緒に仕事をしていて、苦楽を共にした経験もあったりするような関係です。社会的な関係性のなかにうまく埋め込まれているので、「エンベデッドネス」という言葉を使います。

 このつながりの大きなメリットは、コミュニケーション効率が圧倒的にいいことです。

 互いにすでに交流があり、信頼関係もあるので、相手の言いたいことや仕事の進め方がだいたい分かる。困ったこと、分からないことがあれば気軽に聞くこともできます。だから意思決定のスピードが速くなります。かなり直感的な判断をすることもあるでしょう。

 さらにこのつながりでは、人は必ずしも合理的でドライな意思決定だけをするわけではありません。過去の互いの経験から「あの人のためなら一肌脱ごう」などと、自分の利得より相手を優先することもあります。

 関係が継続しやすい点も、埋め込まれたつながりの良さです。信頼関係がベースにあるので、互いに信頼を裏切るまいと誠意をもって仕事に臨みますし、結果として信頼が深まることになります。

 これに対し、アームス・レングスな関係ではそうはいきません。形式的なメールのやり取りに終始してしまい、肝心な情報や真意はさっぱり伝わらなかったりします。結果、何度も調整を繰り返すことになったり、行き違いからトラブルに発展したり…。合理的に仕事が進められるようでいて、思った以上に時間と手間がかかり、あとで面倒なことが起きる確率も結構高いのです。

 これで、よしみさんに起きたことがお分かりかと思います。以前のよしみさんは、仕事が欲しいあまりに仕事先の数を追ってしまい、質の維持がおろそかになっていたのです。

 そこで、思い切って、「埋め込まれたつながり」のように信頼できる仕事先だけをフィーリングで絞った結果、仕事は効率化し、1つの仕事の生産性が上がり、結果としてトータルの収入は減らないまま仕事全体がラクになったわけです。

 この「エンベデッドネス」が示唆する働き方は、これからますます重要です。

 いろいろな人が独立する時代、フリーランスなどになると収入減が心配で仕事を受けすぎてしまい、結果、生産性が下がった上に体調も崩した、という話を僕も聞くことがあります。そういう方こそ、つながりの質に着目し、思い切って「この相手とは長く付き合いたいな」という相手をフィーリングで選び、残りの仕事先は断捨離することも大事なのです。

 片づけの魔法で有名な近藤麻理恵さんも「ときめく」という言葉をよく使われてますが、断捨離はまさにフィーリングなんですよ。