なぜ日本企業の存在感は高まらないのか、底力を引き出すにはどうすればいいのか――。日本発のグローバル企業が、世界における競争力や存在感を高めるなかで直面する共通の課題を明らかにし、マッキンゼー・ジャパンの半世紀以上の活動を通じて得た学びや解決に向けたアプローチを独自の調査や分析なども交えて紹介する。『マッキンゼー 未来をつくる経営 日本企業の底力を引き出す』(岩谷直幸、ミケーレ・ラヴィショーニ編著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

日本は、静かに進む脅威への感度が低い

 日本発の企業がグローバルな市場で競争力を持ち、存在感を獲得するには、グローバルの「いま」のルールを知らなければならない。なぜなら、かつて日本企業を成功に導いた特性が、現在のグローバル環境では成長を妨げる要因となる可能性もあるからである。

 日本独自の文化的背景やそのなかで醸成された企業文化が、いまのグローバルの土俵上ではどのように見えるのか。さらには存在感の獲得のためには何をすればよいか。そして存在感のさらなる確立に向けて、この特性をどう生かせばよいか、を考えたい。

 日本の特性として、抗い難い大きな力に対しては諦念と高い対応力を示す一方で、静かに進む脅威への感度は低く、対応が遅れがちになる。このことを示す事実が、歴史上の様々な場面で起こっている。

 明治維新後の急速な近代化、第2次世界大戦後の復興と高度経済成長といった、急激な変化の局面では高い対応力を示す一方で、バブル崩壊後の失われた30年が示すように、グローバルで進行した緩やかな変化に対しては根源的な対応策を講じるまでには至らなかった事実がそれである。この20~30年の間に、社会や市場環境、競争相手などが劇的に変化したにもかかわらず、日本発のグローバル企業には、変化しなければ企業の存続自体が危ういというレベルの危機感が欠如していた。

 今後、社会や市場がさらに大きく速く変化するなかで、変化に事後的に対応する力だけではなく、自ら変化の兆しを読み取り、将来的な自社への影響を先取りして、リスクを取ってでも進化に向けて積極的に取り組んでいく行動力が求められる。

 そのためにも、組織において感度を研ぎ澄まし、先々の一手を決断するという経営者の役割は非常に大きい。

自ら変化の兆しを読み取り、将来的な自社への影響を先取りして、リスクを取ってでも進化に向けて積極的に取り組んでいく行動力が求められる(写真:photon_photo/stock.adobe.com)
自ら変化の兆しを読み取り、将来的な自社への影響を先取りして、リスクを取ってでも進化に向けて積極的に取り組んでいく行動力が求められる(写真:photon_photo/stock.adobe.com)
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何が成長を阻害しているのか

 「GROWTH(成長)」は、CEO(最高経営責任者)やビジネスリーダーの誰もが実現したいと願っているものである。しかしそれに反して、多くの組織にとって、依然としてつかみどころのないものとなっている。

 2010年から19年にかけて、毎年10%以上の収益成長を達成した企業は、上場企業中8社に1社しかない。こうした現状では、持続的で収益性の高い成長の達成は難しいように思われるかもしれない。しかし実際には、どのような経済情勢にあっても、すべての企業が実現可能なのである。

 持続的かつ収益性の高い「成長」の達成は、一言でいえばCEOの「選択」にかかっている。例えば、ヒューレット・パッカード、バーガーキング、ハイアット・ホテルズ、マイクロソフト、Airbnbといった企業は、景気後退期に設立されたにもかかわらず高成長を遂げた。

 これに対して日本企業のCEOや経営幹部は、組織のリーダーとして、「成長」するための明確な選択をしているだろうか。利益がすぐに出ないからといって、決意が揺らいでしまうことはないだろうか。

成長する企業のCXOに共通するもの

 マッキンゼーは最新の調査で、成長する企業のCXO(Chief X Officer)が共通して持っている5つの成長マインドセット(グロースマインドセット)を特定した。これを、以下に紹介する。

(1)成長を遂げたストーリーを持っていること。社内の従業員だけでなく、社外にも頻繁に成長ストーリーを語り続ける(回答者の80%が該当)
(2)完璧さよりも、タイムリーな行動を取る。完璧を目指すことよりも、いかにスピーディーにできるか、が重要である(同70%)
(3)失敗を恐れない。限られた数の賭けをするのではなく、複数でかつ長期的な賭けをすることが重要である(同70%)
(4)顧客を個人として捉える。「私は顧客を一人の人間として理解している」と言えること。カスタマーのニーズを捉えるためには、あらゆる手段を使って分析をすることが必要である(例えば、現場に実際に足を運んで課題やニーズ・ウオンツの観察をすること、店舗訪問など)(同70%)
(5)短期ではなく、長期的な成長を見据えること(同60%)

 これらのマインドセットのうち、少なくとも3つの要素を兼ね備えている企業は、市場平均を2.4倍超えて成長する可能性が高いことが明らかになっている。

必要なのは「前向きな妄想力」

 現在、日本企業のなかで、グローバルの競合企業と同等、またはそれを上回る成長への意欲を持つ会社は少ない。日々企業の経営陣と議論するなかで感じるのは、特に海外市場での成長に関して、日本企業のリーダー層があまりにも「謙虚で現実的すぎる」ということである。

 米国、中国、韓国、インドなどの海外企業は、小規模ながらも、将来的に世界を席巻する気概と意志を持って海外市場での競争に臨んでいる、というのにである。

 一方、日本企業は、日本という自国の大きな規模の市場に依存しがちで、その緩やかな縮小に気づきながらも、海外進出を縮小を補完するための手段としてのみ考えることが多く、「謙虚・現実的」なかたちで海外展開を進めているというのが現状である。

 たしかにかつては、日本市場向けにつくられた高品質な製品が、海外でも競争優位を確立していた時代もあった。しかし近年は、韓国や中国、台湾などのメーカーが品質を飛躍的に改善し、グローバルなサプライチェーンや量販体制を構築したことで、日本企業はシェアを奪われてしまった。

 この「謙虚で現実的すぎる」成長への意欲も、日本の国や企業が長年強みにしてきたことの裏返しであり、かつての成功体験から抜け出せずにいる証左と考える。

 「野心的な目標」という言葉を聞くと、日本ではネガティブなイメージを持つ人が多いかもしれない。個人の自己中心的な野心は好ましいものではないかもしれないが、企業や組織のなかで、挑戦的、場合によっては「そんなことが可能なのか」と思えるような壮大な夢、ビジョン、ゴールを設定することは、グローバルで成功する企業の経営者や経営チームにとって、飛躍的なイノベーションの源泉となることが多い。

 だからこそ、「謙虚・現実的すぎる成長への意欲」を「挑戦的かつ野心的な成長への意欲」や「前向きな妄想力」に置き換えて、日本発のグローバル企業の底力を発揮することを望むのである。

日本企業の底力を引き出すにはどうすればいいのか――。日本発のグローバル企業が、世界における競争力や存在感を高めるなかで直面する共通の課題を明らかにし、マッキンゼー・ジャパンの半世紀以上の活動を通じて得た学びや解決に向けたアプローチを紹介。

岩谷直幸、ミケーレ・ラヴィショーニ編著/日本経済新聞出版/2200円(税込み)