日本企業の底力を引き出すにはどのような組織・人材が必要なのか――。日本発のグローバル企業が、世界における競争力や存在感を高めるなかで直面する共通の課題を明らかにし、マッキンゼー・ジャパンの半世紀以上の活動を通じて得た学びや解決に向けたアプローチを独自の調査や分析なども交えて紹介する。『マッキンゼー 未来をつくる経営 日本企業の底力を引き出す』(岩谷直幸、ミケーレ・ラヴィショーニ編著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

「あうんの呼吸」がかえって弱点に

 日本発のグローバル企業は、競合する他国のグローバル企業に比べ、新しい才能や多様な人材の活用という面で大きく後れを取っている。いまだに多くの企業で、男性中心・日本人中心の考え方が企業経営の根底を成しており、依然として多様性、特にグローバルな多様性を受け入れる文化は定着していない。1960~70年代に日本が経済成長を実現した背景には、企業の明確な方向性と、日本人を中心としたメンバーによる圧倒的なチームワークによる成功があった。この成功は、自己犠牲の精神や同質性の高い環境における「あうんの呼吸」に依るところが大きいといえる。

 『 異文化理解力 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養 』(エリン・メイヤー著/田岡恵監訳/樋口武志訳/英治出版/2015年)は、突出したハイコンテクストに日本文化の特徴があるという。つまり、話し手は言葉の意図を明示的に語らず、聞き手は語り手と同じコンテクスト(特定の事象や言葉を取り巻く状況や文脈)を共有することで、言葉の裏にある意味やニュアンスを理解することが求められる。

 この「あうんの呼吸」は、これまで何百年もの間、日本文化の根底に流れる特徴の一つであり、社会の営みや企業経営を円滑に動かす潤滑油として組織に浸透し、重要な役割を果たしてきた。

 しかしながら、現代のグローバル企業の経営においては、それが弱点となっているのではないだろうか。ほかにも「以心伝心」「暗黙の了解」「不文律」など、似たような概念や行動様式が数多く存在しているが、これらは日本独自のものであり、他の国々にはそのような概念自体が存在しておらず、日本語以外の言語では説明し難いものがある。

 今日、市場や社会環境は日々変化している。企業は進むべき道を模索し、不確実性が多々あるなかで迅速な意思決定や軌道修正を行わなければならない。このような時代には、同質性の高いメンバーによる「あうんの呼吸」にもとづく経営は大きな足かせとなるのである。

 マッキンゼーが2019年にグローバルで行った調査では、性別や国籍の多様性が高い企業は、市場平均の成長を上回る可能性が高いことが証明された(図表1)。

(出所)『マッキンゼー 未来をつくる経営』
(出所)『マッキンゼー 未来をつくる経営』
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 これは多様性と国際性を高く保つことによって、企業が次の5つのメリットを享受できるからである。

(1)特定の出身母体や日本語話者などに限定せず、多様な候補者を対象にすることで優秀な人材を獲得できる
(2)多様な経験や背景を持つメンバーによる活発な議論や決断は、似たような意見を持つメンバーだけで議論する場合と比べて、意思決定の質を向上させる
(3)幅広い顧客に関する知見を吸い上げ、製品やサービスに反映することでイノベーションを加速することができる
(4)従業員の満足度やモチベーションが向上する
(5)グローバル企業というブランドイメージが高まり、各地域の事業の拡大に貢献する

 この調査結果からも分かる通り、多様性を心から受け入れ、加速させることが企業の競争力向上に大いに役立つことをあらためて認識し、実際に対策を打つことが求められている。

「先手を打つ力」がなければ・・・・・・

 前述のように、日本企業は従来、長期的視点にもとづいて戦略策定やR&D(研究開発)投資を行い、特にエンジニアリングの技術力において優位性を維持してきた。この特質は、不良やミスが許されない領域や、容易に変更できないインフラなどの領域では、現在も有効に機能している。

 一方で、長い時間をかけて完成度を求める姿勢は、往々にして組織の意思決定のスピードを遅らせる。つまり、顧客の嗜好や行動の変化を素早く製品開発に反映させることを妨げ、さらには小さな失敗を柔軟に軌道修正することを阻害してしまうのである。

 日本の歴史において、時代の転換点の多くは、予期せぬ出来事や天災への対応力から生まれている。やることの意義、危機感が腹落ちした後の一致団結した推進力や実行力には素晴らしいものがある。

 しかしこの変化の多い時代、予期せぬ出来事や天災を待つのではなく、自ら変化を先取りして意思決定を行い、その結果や学びを生かして軌道修正を行う経営こそが求められる。

 実際に新型コロナウイルス禍において、意思決定が速く、それに対する従業員からのポジティブなフィードバックを得ている企業が、従業員のロイヤルティーや企業競争力を高め、そうでない企業との差をさらに広げる結果となっている(図表2)。

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 刻々と変わる環境において、未来を予測して対策を打つことは困難だ。迅速な意思決定から具体的なアクションにつなげ、そこから見えてきたことや学んだことを大局的に活用しなくてはならない。

重要なのは「変革を起こせる人材」

 現在、日本の人材生産性は、主要先進国のなかでも最低水準にある(図表3)。マッキンゼーは、この「人材生産性」の向上こそが業績向上への急務であると考えている。

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 業績向上のためには、人件費(分母)を削減するのではなく、人の能力を最大限に引き出し、そこに必要な人材投資を行うことで、付加価値(分子)を増やさなくてはならない。

 日本の労働生産性が低い理由はいろいろと考えられるが、構造的要因の一つとして、人材開発に対する投資が国としても企業としても不十分であることが挙げられる。図表4にある通り、1995年から2014年までの20年間、日本企業の人材開発への投資額は減少傾向を示しており、海外の競合他社と比較しても著しく少なくなっている(注:最終データから時間が経過しているが、減少傾向に大きな変化はないと考えられる)。

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 現段階での日本企業の問題は、バブル崩壊後の取り組みによる産物ということができる。人材開発にはとても長い時間がかかる。企業として人材開発への大規模な投資を行い、グローバルな人材開発プログラムを確立して、従業員の新たな技能習得を大規模かつ定期的に支援する体制を整備することが急務である。

 これまで長年にわたり、多くの日本企業はゼネラリストの育成に注力してきた。この方向は、明確なビジョンのもとでのチームワークによる円滑な業務遂行、そして相互理解を高めながら高いパフォーマンスを出すことが重要視されていた時代には、最適な手法の一つであったことは否定できない。

 また、広範な知識を持つことで社内の様々な業務に対する理解を深め、幅広い人脈を築くことができるなど、終身雇用を前提とした企業経営においては、多くのメリットがあったことも事実である。

 しかし現在は、個々の専門性が強く求められるだけでなく、グローバルで多様な人材に対するリーダーシップ能力、また、変化を敏感に捉えて業務を建設的かつ批判的に見直す能力、さらには、未知の状況に直面した際に課題を特定し解決する能力、あるいは試行錯誤しながら答えを見つけていく能力など、必要な人材要件が大きく変化している。

 加えて、「Human Capital(人的資本)」の言葉に代表されるように、人材獲得、動機づけ、評価、継続的な成長機会の提供と育成が、今後の企業経営において重要性を増している。

企業に必要な人材要件は大きく変化している(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
企業に必要な人材要件は大きく変化している(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
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 このように、日本の企業文化をグローバルの視点からあらためて見てみると、従来の日本企業としての強みが、グローバルな事業環境では足かせになっていることは否めない。

 さらに、これまでの慣習や行動様式、そして、人材への圧倒的な投資不足が、人材の優れたマインドセットや潜在能力を十分に開花させることの妨げとなっているといえないだろうか。これでは企業自体の競争力を高めることはできず、真価を発揮することはできない。

 日本発グローバル企業が海外企業との競争で勝利するまでに成長することは、日本の国や社会にとって、多様性に富んで持続的な成長につながるという大きな意義を持つ。日本発のグローバル企業は、謙虚さと自信を持って、自らの特性と可能性を十分に理解しなければならない。それと同時に、成長を妨げる要因を見極め、企業の潜在能力を最大限に発揮するための施策を思い切って打ち出すことが、必ずよい結果につながると信じている。

日本企業の底力を引き出すにはどうすればいいのか――。日本発のグローバル企業が、世界における競争力や存在感を高めるなかで直面する共通の課題を明らかにし、マッキンゼー・ジャパンの半世紀以上の活動を通じて得た学びや解決に向けたアプローチを紹介。

岩谷直幸、ミケーレ・ラヴィショーニ編著/日本経済新聞出版/2200円(税込み)