「他は切り詰めても、子どもの教育費だけはお金を惜しまない」。そんなふうに、教育費を家計の“聖域”としているご家庭は多いのでは。もちろんどれだけお金をかけるかはそのご家庭の考え方次第ですが、ただ、保護者にとっては覚悟しておかなければいけないことがあります。 『お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか』(日本経済新聞出版) より抜粋のうえ紹介します。
赤字体質の家庭には譲れない「聖域」が
家計診断をしていると、赤字体質のご家庭の多くが、「これだけは譲れません!」といった「聖域」をお持ちです。
そして、聖域になりがちな支出の代表格が子どもの教育費。
家計に余裕があるかどうかにかかわらず、「子どもにはお金をかけてやりたい」という親は多く、多少ゆとりのある家庭であれば、小さい頃から、たくさんの習い事やお稽古事、塾に通わせ、中学・高校は私立……と湯水のようにお金を使っているケースが驚くほどあります。
一般的に、子どもの教育費は、進学コースによって変わりますが、オール公立の場合、幼稚園から大学まで1人当たり1000万円が目安です。
実際には、日本政策金融公庫の令和3年度「教育費負担の実態調査結果」によると、高校入学から大学卒業までにかける子ども1人当たりの教育費用(入学・在学費用)は942.5万円。また、世帯年収に占める年間在学費用(子ども全員にかける費用の合計)の割合は、平均で14.9%です。とくに「年収200万円以上400万円未満」世帯の平均負担割合は26.7%と、3割に迫る勢いです。
「オール私立の妻と国立大出身の夫」の葛藤
子どもにかけるお金について、夫婦間で意見が合致していない例はよくあります。
例えば、「子どもの習い事や塾の費用などは惜しみたくない」という大学までオール私立の妻と、「そこまでしなくてもほどほどにしておけば……」という地方出身の国立大卒の夫。それぞれ、自分の置かれていた環境がベストだと思っています。
根本的な考え方が異なっていると、子どもが進学するにつれてそのかい離は広がり、重くなる一方の教育費負担と相まって、家庭不和の火種になりかねません。
そして、「もう、ここまでお金をかけてきたのだから、途中でやめられない」となってしまいますますお金をかけるようになってしまう。教育費で陥りがちな思考パターンです。
もちろん、学歴と収入には大きな関係があり、それもこれも「すべては子どもの将来のため」。私も人の親として、そんな親心はよくわかります。
とはいえ、経済環境も含め、私たち親世代を取り巻く環境は厳しいものです。これからますます不確実な時代になることを考えると、「子どものため」の一世一代の投資も、一度立ち止まって考えてみる必要があるように思います。
教育費を家計の聖域にすることの危険性
教育は、そのご家庭の考え方や方針次第。私は、「子どもにお金をかけたいのであれば、好きなだけおかけください」とお伝えしています。ただし、「その分、自分たちのリタイアの時期が遅くなったり、老後資金を減らしたりしても構わないという覚悟が必要です」と必ず付け加えています。
進学コースなどで大きく変動する教育費と違い、老後資金は、生活にかかるお金ですから、どの人にとってもある程度決まった額が必要です。そして、ゆとりある老後を送りたい場合、そのための上乗せ分も考えておかねばなりません。
結婚して子どもを持つ人生を送る人の、“貯め時”は3回のみ。1回目は「結婚して子どもが生まれるまで」、2回目は「子どもが就学するまで」、3回目は「子ども(末子)が大学等を卒業してからリタリアするまで」。泣いても笑ってもこの3回しかありません。
1回目・2回目で十分な貯蓄ができなかった人にとって、子どもが大学を卒業してから、リタイアするまでが最後のチャンスです。
それなのに、子どもにお金をかけ過ぎてしまい、定年を迎えてから老後資金が足りなくなり、就職した子どもに資金援助をしてもらうような羽目になっては「子どものため」の投資も本末転倒です。
人気エリアに住む前に、必ずすべきこと
また、高収入家庭に見られがちなのが、教育と住宅、双方にお金をかけすぎてしまうこと。子どもに良い環境を与えたいと地価の高い地域に住み、そこに住む教育熱心な人たちにさらに刺激されて、ますます教育費をかけるようになる、というケースです。私立受験が当然の地域であれば、周囲との比較で過熱してしまう側面もあるのでしょう。
しかし、このような状況になる前に、「住宅ローンを返済しながら、子どもを私立に進学させることができるか。そして十分な老後資金を残せるか」を、冷静に試算してみることが大事です。
試算の結果、教育費と住居費をかけながら十分な老後資金の貯蓄ができるということがわかれば問題ないですが、もし少しでも不安が生じるなら、「教育にはお金を惜しまないが、購入する住宅のランクを下げる」など、バランスをとる必要があるのです。
人生における三大資金は「住宅資金」「教育資金」「老後資金」の3つ。それぞれのライフステージでは、複数の資金ニーズの優先順位やバランスをとりながら、個々の裁量でどれだけ「かける」かよく考えてみることが大切です。
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黒田尚子(著)、日本経済新聞出版、1540円(税込)