組織のなかでは、仕事の酸いも甘いもかみ分けた「中堅」と呼ばれる頃にやってくる「昇進」。チームリーダーになる、部下ができる、管理職になってメンバーを評価するようになる…。このように仕事や立場のステージが上がると、自分がプレーヤーだった頃とは、環境や求められるものが大きく変わり、想定外のことがたくさん起こるようになります。
部下のモチベーションが上がらない、メンバーが全然まとまらない、チームにハレーションを起こすメンバーが現れる…などなど。チームを同じ方向に導いていくことは、予想以上に骨が折れる作業ですが、それでもきっと「部下やメンバーには、できるだけ成長してほしい」と願う人は多いでしょう。
そんな「上司1年生」「上司としての仕事に悩んでいる人」に読んでいただきたいのが、今回ご紹介する5冊です。
部下のケアも含めたマネジメント術
初めてのマネジメントでも、人をマネージするためのスキルを学習することで、部下やメンバーとの関係性がぐんと良くなることはあります。今、目前課題の改善点が見つからなかったり、プレッシャーを抱えていたりする人でも、新たな視点を得ることで人材育成に楽しみを見いだせるかもしれません。
今は、上司から部下への「ハラスメント」への配慮も欠かせない時代。今回、ピックアップしたのは、「部下のケア」も含めたマネジメント術が学べる5冊。ベテラン上司の人も、ぜひ、部下やメンバーの顔を思い浮かべながら読んで、ヒントを見つけてもらえたらうれしいです。
1. 『EQ 2.0』 トラヴィス・ブラッドベリー、ジーン・グリーブス著、関美和訳、サンガ
EQは「エモーショナル・インテリジェンス」のことで、「心の知能指数」や「感情的知性」ともいわれています。EQはIQ(知能指数)と違い、数値で計測できない能力ですが、部下や後輩と接する上で、このEQがとても重要になります。
なぜなら、いわゆる仕事が「デキる」タイプの上司は、仕事ができない部下が「なぜできないのか分からない」状態に陥りがちだから。とはいえ一方的に、自分のやり方を押し付けたり、できないことに対して怒りをぶつけたりしても、部下の仕事能力が伸びるとは限りません。そして、アドバイスしても指示を出してもなかなか伸びない部下に対して、デキる上司は頭を抱える。部下は部下で、上司への不満を抱えてしまいます。
本書は、そんな「自分で仕事はデキるのに部下をうまく指導できない」人にこそ読んでいただきたい1冊です。人のマネジメントというのは、言語化しにくいものだと考える人も多いかもしれません。天性の才能を持つ人も稀にいますが、多くのことはスキルとして習得可能だと教えてくれる良書です。
「他者の心の動きに気づいて、上手に対処する」ための具体的な事例が豊富に載っています。書籍についているパスコードを使って自分のEQをチェックできるオンラインテストも活用すると、強化すべきスキルも明確に。自分のためにも、部下のためにもなる、極めて実践的なビジネス書です。
2. 『人を動かす』 D・カーネギー著、山口博訳、創元社
こちらは、D・カーネギーの不朽の名作ですね。日本では500万部を突破している説明不要のベストセラーですが、なぜここで取り上げたかというと、まさに「人を動かす」ために最も大切なことを教えてくれる1冊だからです。
自分が意思決定したことであれば、当然自分で納得して、すぐに行動に移しやすいですよね。でも、誰かが決定したことに対しては、その理屈が自分で「腹落ち」しないと、なかなか行動に移せなかった経験はありませんか。部下やチームメンバーに「同じ方向」に動いてほしいと思っても、この「腹落ちする」工程を踏まないと、同じ方向を向くどころか、気づいたら、それぞれがあらぬ方向に漂流している、ということも珍しくありません。
この本には「人を動かす」ために最も大切なこと、つまり「腹落ちさせる」ためにはどうしたらいいか、どうやって全員を同じ方向に連れていくか、ということがとても分かりやすく書かれています。昔読んだことがあるという人もいるかもしれませんが、部下ができたタイミング、立場が変わったタイミングでもう一度読み返すと、組織のかじ取りのヒントが見つかるはずです。
3. 『ハーバード流交渉術』 ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリー著、岩瀬大輔訳、三笠書房
「交渉術」というと、取引先や社外に対して発揮するスキルだと考える人が多いかもしれませんが、実際は、同じ組織やチームのなかで仕事を進めるときにこそ発揮したいスキルです。
やるべきことが決まっていても、「あれをやって」「これをやって」と一方的に指示を出すだけでは、メンバーを疲弊させたり、モチベーションを下げたりしてしまうことがあります。たとえ自分が率いる組織であっても、自分が指示を出せる立場であっても、部下に仕事をスムーズに進めてもらい結果を出すには、「交渉術」を駆使することが重要だと、私は考えます。
「ハーバード流交渉術」と銘打った本はたくさん出版されていますが、この本が優れているのは、さまざまなパターンの交渉術を使いながら、「自分が得たい結果を得るための方法」が非常に分かりやすく解説されているところでしょう。部下に「その気」になってもらうにはどうしたらいいのか、実践的に学べます。
上司になりたての人は、ぜひD・カーネギーの 『人を動かす』(創元社) と併せて読んでみてください。部下を「腹落ち」させて「その気」にさせられる上司なら、きっと強いチームがつくれるはずです。
4. 『1兆ドルコーチ』 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社
「世界で一番イケてるマネジメントコーチ」ともいえる伝説の男・ビル・キャンベル氏のマネジメントについて、その教えを徹底的にひもといてくれるのがこの本です。
Appleのスティーブ・ジョブズやGoogleの共同創業者のラリー・ペイジ氏のコーチも務めたキャンベル氏は、シリコンバレーの名だたる企業、その創業者たちに「師」と尊敬されている人物でもあります。
世界のリーダーを目指す強烈な個性を持った創業者たちに、彼は一体どんなことを伝えたのか。その「教え」をのぞいてみると、マネジメントの究極の形は「コーチ」である、と分かります。また、同時に、マネジメントの「楽しさ」も存分に伝わってくるのがこの本です。
私自身、特に若い頃は、マネージャーになるのがとても嫌でした。なぜなら、「自分でやったほうが絶対に効率がいい」と考えていたから。でも、この本を読むと「マネージャーって案外楽しいかも」と思えてくるから不思議です。加えて、奇才なスティーブ・ジョブズをコーチする苦労に比べたら、自分の部下はかわいいもんだなあと思えてくる。そんな副産物も得られるかもしれません。
5. 『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』 アンドリュー・S・グローブ著、ベン・ホロウィッツ序文、小林薫訳、日経BP
この本は 「経営戦略の『理屈』を理解するために読んでおくべき名著」 で取り上げた、『パラノイアだけが生き残る』の著者、アンドリュー・S・グローブ氏の1冊です。
Intel(インテル)の創業者として世界を席巻しながらも「臆病者であれ」と説いた同氏が、本書では「チームづくり」について語っています。
企業は「いいチームをつくり上げる」必要があり、そのチームのためには「部下をつくり上げる」必要があります。その重要性を解いたこの本は、今マネジメントに悩む人たちが実践すべき方法を具体的に教えてくれます。
それだけでなく、この本が面白いのは、会社を大きくしながらも、アウトプットのスピードはなるべく落とさないという、一見すると矛盾して見える2つの軸を同時に成立させようとしている点です。
若かりし頃の私のように、「1人でやったほうが絶対に速い!」と考えている人には特に、この本が大いに刺激を与えてくれるはず。企業の成長に欠かせない「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」の真意が、ぼんやりとでも分かると思います。
取材・文/金澤英恵 編集協力/山崎綾 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部)




