ひと頃はさかんに取り上げられていた「年金破綻論」。その真相は? FPの山崎俊輔さんの新刊『 老後に4000万円って本当ですか? 』より抜粋します。

5年ぶりの財政検証結果の扱い

 公的年金については5年に一度、徹底的なシミュレーションを行い将来予測を公表します。これを「年金財政検証結果」といいます。

 年金破綻論がにぎやかだった時代には「これが破綻の証明だ!」とばかりに財政検証結果の悪い数値をピックアップして、新聞や雑誌には大特集記事が掲載されたものです。

 2024年7月3日、最新の財政検証結果が公表されたのですが、翌日に私はコンビニエンスストアに出かけました。各社の朝刊を買いそろえて、どのような取り上げ方をするのかチェックをしたかったからです。

 ところが、1面トップに取り上げた新聞は一紙もありませんでした。同日に最高裁判決に関連した大きなニュースがあったため、一面トップを持って行かれた格好になりましたが、それでも一面における2つ目の見出しとしての取り扱いも小さなものでした。

 それでは、主要な経済誌が財政検証結果を踏まえたメイン特集を組むのか、数カ月ほど注目していましたが、こちらもまったく出ませんでした。10 年前、このままでは破綻する、どうすれば破綻しないか、のような大特集が組まれていたのと大違いです。

 なぜ、財政検証結果の記事が大きく取り上げられなかったのでしょうか。

 理由は簡単です。「年金制度は破綻しない」ということが補強される結果となり、不安を煽るような記事がほとんど書けない内容だったからです。

 実は5年前の財政検証結果で、「どうも年金制度は破綻しないようだぞ」という数字が出てきていたことにメディアは気づき始めました。実際、記者のレベルアップもあって、安易に破綻論を書く記事は減っていました。年金不安を煽る記事が、主要紙や経済誌から消え、女性週刊誌や男性週刊誌にシフトしている傾向がありますが、これも破綻論の現実味が薄れていることを示唆しています。

 皮肉なことに「よいニュースは大きく報道されない」という傾向があります。

 年金積立金の運用などでも、「○年第○四半期、マイナス×%!」のような記事は大きく報じられるにもかかわらず、翌四半期に「プラス×%!」のような記事は小さなニュースとなります。

 記事の取り扱いが大きく、また何度も紹介されるのは悪いニュースが中心になっているように思えます。結果として、私たちは悪いイメージのみを目にすることになるのです。

年金は一度も遅配せずに支払われている

 年金批判の影響で、なんとなく年金制度を信じていない人が多いのですが、「じゃあ、あなたのご両親や祖父母、親戚で年金をもらっている人たち、年金の振り込みがなかった、といわれたことありますか?」と聞けば、誰でも「そんな話はない」と返事します。

 実際、国の年金の未払い(遅配)は起きたことが一度もありません。年金制度が今にも破綻しそうだといわれていたのに、です。

 確かに「年金額、満足している?」と聞けば誰でも「もうちょっと年金が多ければいいのに」と答えるでしょう。しかしそれは、月10万円の人も15万円の人も20万円以上もらう人も、みなそう思っていることです。おそらく「この年金額で、私は十分に満足です」という人はほとんどいないでしょう。

 実は年金制度が給付額を引き上げる取り組みは戦後ずっと繰り返されています。1969年、「1万円年金」を「2万円年金」にするという改革が行われていますが、これはバラマキをしていたわけではなく、急激な物価上昇による給付額の引き上げが必要だったからです。ちなみに1973年には夫婦で5万円年金とする制度改正もあり、当時の物価上昇の激しさが伝わります。

 年金制度は常に時代に合わせたアップデートをしています。「男が働く」「女は家庭に入る」を前提にしていた年金制度は基本的に男性がたくさんもらえばいい、という考えでした。これを一人ひとりの年金として組み替えをしていったのも、年金改正の歴史です。

 近年では、離婚をした女性が男性の厚生年金の権利を分け合うような仕組みも作られるなど、今も時代に合わせたアップデートが繰り返されています。

10数年前には年金破綻論がさかんだったが、あれから年金の遅配は一度も行われたことがない(写真/pomupomu/stock.adobe.com)
10数年前には年金破綻論がさかんだったが、あれから年金の遅配は一度も行われたことがない(写真/pomupomu/stock.adobe.com)
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年金破綻論は結果的にほぼ全て「ウソ」に

 今から10年以上前、年金破綻論はある種のブームとなりました。年金記録問題に端を発し、あるいは厚生年金で運営した保養施設の運営悪化なども批判に拍車をかけて、年金不安を訴えるニュースが増えました。

 この時期、団塊世代がリタイアを迎えるタイミングに重なっており、国民の関心が高まっていたため、年金不安のニュースにたくさんの人が飛びつきました。

 新聞各社が年金制度の大改正案を提示したり、野党が年金改正のビジョンを示したことによりさらに議論は盛り上がりました。ただし、建設的な議論よりも批判を浴びせるような論調のほうが強かったように思います。

 今でも多くの日本人は公的年金制度についてちゃんともらえるのだろうか、という不信感を抱いています。

 連合の調査によれば、将来に対して不安を感じている人が全体の66.7%と3分の2であり、彼らの不安の正体をたずねると、「老後の生活」が57・3%、「年金受給額など年金制度」が40.3%と上位になっています(複数回答)。

 確かにこれは国民の実感に近いと思いますが、当時の年金破綻論のほとんどが、ウソであったことはご存知でしょうか。その多くがトンデモ論だったことが、今明らかになりはじめているのです。

物価上昇が続いたとき、年代によってどれだけの老後資金が必要になる? 現役世代は、リタイア世代は、一体どのように備えればいいの? 誰も教えてくれなかったインフレ時代の老後資産の考え方と備え方をやさしく解説します。

山崎俊輔著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)