大人気ラジオ番組『安住紳一郎の日曜天国』(TBSラジオ)のアシスタントを務める、フリーアナウンサーの中澤有美子さん。癒やしになる笑い声や絶妙な相づち、時折入れる鋭いツッコミなど、番組には欠かせない存在になっています。その彼女の初の著書『 口下手で、大丈夫~2.4秒に1回頷く、最強傾聴力~ 』(ワニブックス)が3月19日に発売されました。プロフェッショナルとして傾聴の価値をどう捉え、スキルを磨いてこられたのでしょうか。計4回にわたって、自身の性格や人生やキャリアの支えになった本などについても掘り下げます。

世の聞き手の皆さんに拍手を

 仕事やプライベートでも、あらゆる場においてライトが当たるのは話し手のほうですよね。情報の源泉としておのずと注目が集まりますし、上手な話し手は自信に溢れ、コミュニケーションの達人のようにも映ります。その影で、聞き手は自分がいる意味はあるのだろうかと心もとない気持ちになったり、話し手に対して、よどみなく言葉が出てきてすごいなぁ、とうらやましく思ったり。結果、自己肯定感が下がることもしばしばです。

 そんな脇役のような聞き手ですが、忘れてならないことが一つあります。それは、聞き手がいなければ、話し手も存在し得ないということです。

 言葉を発する人がいても、「受け取る人」がいなければ、それは単なる独り言に過ぎません。だから、どう考えても聞き手の存在は大きいわけです。もし聞き役に回ることが多くても、へこむ必要などありませんからね。むしろ、自分の存在価値に自信を持ってください。そういう気持ちで、世の聞き手の皆さんに拍手を送りながら、初の自著『 口下手で、大丈夫~2.4秒に1回頷く、最強傾聴力~ 』(ワニブックス)を書きました。

「話し下手な人、日々さまざまな人の話を聴く側の皆さんにぜひ手に取ってもらいたいと思って本を出しました」/画像クリックでAmazonページへ
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相手の話に集中するのは1分でも難しい

 人によっては、相手の話をうまく引き出せるようになりたい、適切な相づちや質問ができるようになりたい、と考えている方もいらっしゃると思います。どうしても、面白い話を聞くと、もっと面白い話があるよ、とかぶせたくなりますし、難解な話や興味のない話をされると生返事を繰り返すだけになりがちです。こと親友や家族のように遠慮のない関係だと、相手の話を聞くより自分の話をしたくなるものでしょう。長年連れ添った夫婦ともなると、相手の話を聞くのは損みたいに思ってしまうことも(笑)。なぜ損した気持ちになるかというと、話を聞くという行為は、自分のリソースを割くことだからです。意外とエネルギーを使うので、意識しないとできないわけです。

 試しに3分、いや1分でいいので、今は相手の話に集中してしっかり聞く、と心に決めて実行してみてください。していいのは、相手の話に対して頷くことと、「なるほど」や「それは大変だったね」などの短い合いの手だけを入れることだけです。これは簡単にできそうで、なかなか難しいものです。話半分に聞くのと違って、1分ってこんなに長いのか、と苦しくなるかもしれません。私もいまだに「聞くモードに徹するぞ!」と意識しないと聞き流してしまったり、ついつい話に割って入ったりしそうになります。そのつどおなかの丹田にグッと力を入れて、自分の手綱を握り直しています。

 そして、相手の気持ちになって、もし自分が同じ状況に置かれたらどうしただろう、何を思うだろう、と想像します。この相手の気持ちを追体験することが、傾聴の最大のコツだと思います。これさえできれば、適切な相づちや質問をするテクニックがなくても、相手は気持ちよく話すことができます。人は、気持ちよく話せると、自分の言いたいことをわかってくれた、うれしい、この人は味方だと心を開くものです。そんな様子を見たら、聞き手としても嬉しくなって、ちゃんと聞いてよかった、と思えますよね。

「こうしたやり取りが、より良い人間関係につながることを常々感じています」
「こうしたやり取りが、より良い人間関係につながることを常々感じています」
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言語化して気づいた自分の立っている場所

 『口下手で、大丈夫』には、聞き手としての姿勢や具体的な傾聴のコツについてだけではなく、私自身のこれまでの歩みについても書きました。執筆の依頼を受けたのは2024年1月で、脱稿したのは26年1月。最初の1年は筆が進まず寝かせてしまったので、実質的な執筆期間は1年です。言語化しながら、改めて気づいたことがあります。それは、自分はずっと雲のような不安定な所に立っていると思っていましたが、実は硬くて強い岩盤の上に立っていたのかもしれない、ということです。

 私は子どものころから、自分のダメな点や反省点にフォーカスする思考の癖があります。うまくできたことは、問題なく済んで良かった、とホッとして終わり。予想以上の結果を出せても、自分を褒めることはありません。それどころかわざわざあら探しをして、どうしたら改善できるのか、と考え始めてしまいがちです。だからいつも心は晴れてなく、根暗な人間だったのです。

 それが、自分の生き方や働き方について書き進めるうちに、やってきたことは間違いではないし、積み上げてきたものもまあまああるから、大丈夫なのかもしれない、と思えるようになりました。と同時に、自分が立っている場所が確かなもののように感じることができたのです。アナウンサー業に就いて28年、ラジオ番組『安住紳一郎の日曜天国』のアシスタントになって19年。遅まきながら、やっと気づけた次第です。

「日曜天国」の秘話

 ご存じの通り、TBSアナウンサーの安住紳一郎さんは驚異的な話術とひらめきの持ち主で、知識量もユーモアのセンスも群を抜き、「プロの話し手」という枠を超えた存在です。その安住さんの聞き手として、自分が持てる限りの瞬発力と語彙力、相づち、表情、笑いを発揮できるように、日々コンディションを整えています。

 番組は生放送で、出たとこ勝負のシビレる展開になることも少なくありません。自分のコンディションを整えるだけでは不安で、安住さんがどういう1週間を過ごしているのかもチェックしています。気休めとわかりつつ、今週は特番があったとか、出張で遠方に行かれていたとか。取れる情報は全部取って、安住さんの心身の調子を推し量るようにしています。

 もっとも、安住さんが多忙を極めているからといって、できるだけフォローしよう、とは思いません。準備をするのは、「これだけやったのだから大丈夫」という自分自身を安心させるため。現場には、常にフラットな心持ちで入るようにしています。そして、安住さんの話や表情、しぐさに全神経を注ぎます。安住さんの手元の台本になんか書かれていたら、何が書いてあるんだ? と首を全力で伸ばして盗み見ることも忘れません(笑)。

「番組中、こっそりのぞき見しようとしています(笑)」
「番組中、こっそりのぞき見しようとしています(笑)」
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取材・文/茅島奈緒深 構成/長野洋子、市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子

アナウンサー中澤有美子 自信がない私を育ててくれた本
1回目 中澤有美子  中澤有美子 「日曜天国」名アシスタントの最強傾聴術 口下手で、大丈夫 (5月21日公開) ←今はここ
2回目 中澤有美子  中澤有美子 口下手な自分に自信をくれた、コミュニケーションの名著4冊 (5月25日公開)
3回目 中澤有美子 「子育て過敏症」と呼ばれるほど迷っていた私を支えてくれた1冊
4回目 中澤有美子 新刊は欠かさず読む なぜか手放せない「スッキリしない小説」