大人気ラジオ番組『安住紳一郎の日曜天国』(TBSラジオ)のアシスタントを務める、フリーアナウンサーの中澤有美子さん。癒やしになる笑い声や絶妙な相づち、時折入れる鋭いツッコミなど、番組には欠かせない存在になっています。その彼女の初の著書『 口下手で、大丈夫~2.4秒に1回頷く、最強傾聴力~ 』(ワニブックス)が3月19日に発売されました。プロフェッショナルとして傾聴の価値をどう捉え、スキルを磨いてこられたのでしょうか。2回目のテーマは、中澤さんの「キャリアの支えになった本」についてです。

1回目 「中澤有美子 「日曜天国」名アシスタントの最強傾聴術 口下手で、大丈夫」 から読む

自分の役割を肯定して自信をくれた1冊

 私にとって傾聴のバイブルと言えるのが『 LISTEN──知性豊かで想像力がある人になれる 』(ケイト・マーフィ・著、篠田真貴子・監訳、松永さとみ・翻訳、日経BP)です。現代は、SNSやスマホの普及によって、誰もが発信することに夢中な時代ですよね。「聞く力」は軽視されがちですが、あえてそこに焦点を当てたのが本書です。心理学や社会学などの知見を織り交ぜながら、聞くという行為について微に入り細に分析し、聞くことは受け身ではなく、相手と関係を築くための能動的な行為である、と説いています。

『LISTEN──知性豊かで想像力がある人になれる』(ケイト・マーフィ・著、篠田真貴子・監訳、松丸さとみ・翻訳、日経BP)/画像クリックでAmazonページへ
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 2021年に発売された当時、話題になったのですぐ読みました。本書を読んだおかげで、ラジオ番組『安住紳一郎の日曜天国』のアシスタントをはじめ、聞き手になることが多い自分の役割に自信を持つことができました。というのも、ずっと聞くこととは何か、という問いに対する答えが出せなくてモヤモヤしていたことが、本書で言語化されていて、強く、深く肯定されたような気がしたからです。

「聞き手の私の仕事の意味をずっと探していたんです」
「聞き手の私の仕事の意味をずっと探していたんです」
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 2021年の発売時に読んで自信を持てたということは、「5年前まで自信がなかったんですか?」と首を傾げられそうですが、恥ずかしながらその通りです。安住さんのアシスタントを長く務めてきたものの、皆さんが聞きたいのは安住さんのお話とリスナーさんの投稿。別に私がいなくてもいいのでは、と思ったことも少なくありません。それでも腐りきらずに、少しでも役に立つように相づちや質問の挟み方などを工夫して、どうにかこうにかやってきた感じです。だから本書で明確な答えを得られたとき、自分がやってきたことは無駄ではなかったかもしれないと思えて、本当にうれしくなりました。

カーネギーほどの成功者でも練習していたのか!

 3、4年前から、聞くことをテーマにした講演の依頼をいただくようになりました。はてさてどうすればいいものか、と思って手にしたのが、デール・カーネギーの『 話し方入門 文庫版 』(市野安雄・訳、創元社)です。カーネギー自身が話すことを味方にして立身した経験談に基づいているので、とても説得力があります。

『話し方入門』(デール・カーネギー著、市野安雄・訳、創元社)/画像クリックでAmazonページへ
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 聞き手を引き付ける話の組み立て方や、反復練習の重要性など、実践的なこともたくさん書いてあり、やる気をかき立てられます。実際、私に講演ができるのか、という不安な気持ちから、そんな暇があったら1回でも多く練習しよう、不安になるのは練習不足だからだ、と思い直すことができました。

 具体的にどうしたかというと、まず話す内容を原稿にまとめて、それを読み上げたものを録音して聞き返しました。尺(時間)を計って文字量を調整したり、どのくらい手元の原稿を見ずに話せるかな、ということも試したり。娘に聞かせて、「後半のあの話はちょっと分かりづらい気がするな」などと指摘してもらってブラッシュアップしました。すると徐々に自信がついてきて、つくづく準備の重要性を痛感しました。ちなみに、安住さんは、そこまでやるのかというほど綿密に準備される方です。その姿を目の当たりにするたび、人任せにせず、自ら汗をかかないといけないことを痛感しています。

「聴くために準備する。話すために準備する。準備の大切さを痛感する日々です」
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口下手な人ほど大成する?

 『話し方入門』に関連して、カーネギーの『 人を動かす 改訂文庫版 』(山口博・訳、創元社)も読みました。本書では、人を動かす唯一の方法は、相手が自ら動きたくなる気持ちにさせることである、と述べられています。人は、こうして、ああしてと命令しても素直に動かない生き物ですよね。こうしたほうがいい、と説得しても徒労に終わることも多々あります。それよりもまず相手の話を聞いてニーズを引き出し、相手自身がそれに気づいて自発的な行動につなげることが肝要である、とカーネギーは説きます。

『人を動かす 改訂文庫版』(デール・カーネギー著、山口博・訳、創元社)/画像クリックでAmazonページへ
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 例えば、ある商品の営業をするとき、その商品の良さをどんなに熱く語っても、相手の欲しいものではなかったら聞く耳を持ってもらえません。相手がどんなものが欲しいのか、なぜ欲しいのか、それで何をしたいのか、ということまで聞かないと的確な提案にはなり得ず、販売には至りません。だから、人を動かしたいと思ったらまず「聞く」。相手は、この人はちゃんと話を聞いてくれる信用できる人だ、この人ならお願いしてみようか、と思うものだと言います。口下手として、なんとも心強く思ったことを記憶しています。

話を聞くとは繊細なこと

 傾聴関連の本で特に好きな一冊と言えば、曹洞宗・通大寺住職の金田諦應(かねた・たいおう)さんの『 傾聴のコツ 話を「否定せず、遮らず、拒まず」 』(三笠書房)です。

『傾聴のコツ 話を「否定せず、遮らず、拒まず」』(金田諦應著、三笠書房)/画像クリックでAmazonページへ
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 金田住職は宮城県出身で、東日本大震災後、被災地で移動式の傾聴喫茶をボランティアで運営され、2万人以上の被災者の声に耳を傾けられた方です。東北の方はすごく我慢強くて、「何か困っていることはありませんか?」と聞いても、「ない、大丈夫」と口をつぐんでしまう方が多いそうです。だから金田住職はあれこれ聞かずに、ただお茶を飲む場を提供するようにしました。それが功を奏して、とつとつと心の内を話してくれる人が現れ始めたと言います。

 一つ、忘れられないエピソードがあります。傾聴喫茶のボランティア活動が軌道に乗ったとき、大阪の僧侶から活動に参加したいという申し出があったそうですが、金田住職は断わられたのです。なぜかというと、我慢強い東北の方々は、同じ方言を話す自分に対しても身構えたことから、関西弁との言葉の温度差があるとなおのこと身構えるだろう、と判断してお断りした、ということでした。

 人の話を聞くということは、それほど繊細なものかとハッとして、聞き手として襟を正す思いがしました。金田住職はその大阪の僧侶に対して、あなたが求められる場所は近くに必ずあるはずだから、近くの方の話を聞いてあげてください、ということも伝えられました。身近な人の話を聞く大切さに気付かされるエピソードとしても胸に刻まれています。

取材・文/茅島奈緒深 構成/長野洋子、市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子

アナウンサー中澤有美子 自信がない私を育ててくれた本
1回目  中澤有美子 「日曜天国」名アシスタントの最強傾聴術 口下手で、大丈夫
2回目 中澤有美子 口下手な自分に自信をくれた、コミュニケーションの名著4冊 ←今はここ
3回目 中澤有美子 「子育て過敏症」と呼ばれるほど迷っていた私を支えてくれた1冊(5月27日公開予定)
4回目 中澤有美子 新刊は欠かさず読む なぜか手放せない「スッキリしない小説」