大人になると、自分が好きなものとか得意なジャンルとか、なんとなく定まってくるものだと思います。

 本を選ぶときも、そう。無意識に手に取る本はいつも同じ作家だったり、近いテーマのタイトルを選びがちになったりするんです。実は自分のテリトリーの外にも面白い本はたくさんあるはずだけれど、その存在になかなか気づけないし、どうアプローチしていいかも分からない。

 その意味で、私のテリトリーをぐんと開いてくれたきっかけは、2年前の春に友人5人と始めた“プロジェクト”でした。

 お花見で集まって楽しく過ごしていた今田素子さん(メディアジーン社長)の社会人の娘さんから「今年、本を100冊読もうと思っているの。千晶ちゃん、何を読めばいいと思う?」と聞かれて。「100冊はすごいね。私たちもやってみようよ!」と“もこさん”(今田さん)と盛り上がってFacebookで公開したら、他に3人が名乗りを上げて一緒にチャレンジすることになったんです。

 「年間100冊読む」と決めたら、面白い変化が起きました。

冊数を制限しなくなると…

 「100冊」という数は一つの象徴であって、プロジェクトの趣旨は「どんどん多読しよう」というもの。結果、読むために手に取る本の冊数を制限しなくなったんです。

「読む本に制限をかけなくなると…気づいたことがあります」
「読む本に制限をかけなくなると…気づいたことがあります」
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 例えば、ピアスを買おうとするとき、グリーンの石がきれいなピアスと、小ぶりの金細工が魅力的なピアスが目の前にあると、「どちらかに決めないと」と真剣に悩んじゃう。でも、よく考えたら、どちらかに絞らなければいけない理由はそれほどなかったりして。

 もちろん高価なものなら我慢も必要になるけれど、本の価格はだいたい2000円足らず。高くても5000円くらいですよね。だったら、欲張って冒険したっていい。「たくさん読む」と決めたらなおさらのこと、ピンと来た本はどんどん買っちゃおう!と思い切れる。そんなふうに「枠を外す」効果が、100冊プロジェクトにはあったんです。つまり、枠なんて広げたもん勝ちなんです。

 選ぶのが大変そう? 私も大変かなと思ったけれど、その心配も無用でした。

 100冊読むと決めた瞬間から、少しでも縁を感じた本は手に取れるようになったんです。特に日頃から信頼している友人知人から薦められた本は、「私のテリトリーじゃないな」と思ったとしてもトライしてみることに。

 “100冊仲間”で建築家の嶋田洋平さんから薦められた『 フェルマーの最終定理 』(サイモン・シン著、青木薫訳、新潮社)との出合いも最高でした。数学はあまり好きではない私は絶対に自ら手に取らない作品だけれど、嶋田さんから「これはね、数学界最大の難問を説くべく、3世紀にわたって積み重ねられた感動のヒューマンドラマなんだよ!」と熱く語られたから、一気に興味が湧いて。

『フェルマーの最終定理』(サイモン・シン著、青木薫訳、新潮社)
『フェルマーの最終定理』(サイモン・シン著、青木薫訳、新潮社)

 誰かに本を薦めてもらうと、本の表紙にかかる帯に書かれた情報以上のガイドをもらえるから、その本とどう向き合ってページをめくったらいいのかが分かるんですよね。結果、初めて挑戦するような本でも安心して読み進められて、そして期待以上の体験を得られる。

 最近読んで一番感動した在米ベトナム系3世の自伝『 地上で僕らはつかの間きらめく 』(オーシャン・ヴオン著、木原善彦訳、新潮社)も、古書流通のバリューブックス取締役の鳥居希さんから薦められて手に取った本です。

『地上で僕らはつかの間きらめく』(オーシャン・ヴオン著、木原善彦訳、新潮社)
『地上で僕らはつかの間きらめく』(オーシャン・ヴオン著、木原善彦訳、新潮社)

 長野にある同社が経営する書店「NABO」を訪問したときに、鳥居さんが本棚にあったこの本を指して「これ、とても面白そうで、すごく読みたい本なの」というから、じゃあ私も読んじゃおうって買ったんです。

 戦争の歴史に翻弄された祖母、母と、少年期からジェンダーの葛藤を抱えた著者の記録を、詩を交えてつづった、とてもとても美しい一冊。

 どこまでが事実でどこからが創作なのか、分からない。でも、それらを分類することは無意味で、むしろ創作の中に真実があるのかもしれないと思わせる作品でした。

 年間100冊プロジェクトを通して、人に本を薦める行動って、相手の世界を気持ちよく広げるんだなと改めて実感できたし、私も人に本を薦める行動を大切にしたいなと思うようになりましたね。

「プロジェクトに挑戦して以来、常に誰かに本を薦めているような気がします」
「プロジェクトに挑戦して以来、常に誰かに本を薦めているような気がします」
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取材・文/宮本恵理子 写真/洞澤佐智子 本写真/スタジオキャスパー