『ずぼらヨガ』や『ひとりほぐし』などのベストセラーで知られる、イラストレーターの崎田ミナさん。最新作の『やすらぎスイッチ』では、初めて“心のセルフケア”をテーマに、身体心理学者や心療内科医など、心の専門家に取材した方法を厳選。ストレスが生まれる心のしくみや、ストレスからくる不調を自分で和らげる方法を、マンガでわかりやすく図解しています。気持ちが揺らぎがちという崎田さん自身が試して、心のやすらぎにつながると感じた方法から、まずは“自分の心の安全地帯”を守るワザを紹介します。
第2回 プレッシャーで凝った肩首に極上の脱力! 「ゆるふわ筋弛緩法」
第3回 我慢しすぎ、心配しすぎに ホッとゆるんで休まる「温めテク」
ストレスや感情の揺れに敏感なほうだという、イラストレーターで漫画家の崎田ミナさん。過去には10年ほど、うつ病を患っていた経験があり、そのころは仕事もできない、本も読めない、心も体も思い通りにいかなくて、毎日自分を責め続ける辛い日々だったといいます。
長い時間もがき続け、元気になりたいと始めたヨガとアルバイトで体を動かすうちに、心が変わってくるのを実感。仕事にも打ち込めるようになりました。そこで、ヨガのほかにも、「心がラクになる、休まる方法」を知りたいと思うようになったそうです。
最新刊『やすらぎスイッチ』では、身体心理学者、心療内科医、公認心理師など心の専門家9人に取材し、崎田さんの独自のタッチで「心のしくみ」とともに、心がラクになる方法を図解しています。
「心がラクになる方法には、大きく2つのアプローチ方法がありました。思考パターンや対人関係でストレスが生まれるしくみについて“読む”ことで心を軽くする方法、そしてカチコチになった“体から”心地よくゆるませることで心もほぐして軽くする方法です」
この最新刊から、3回シリーズで、心の「やすらぎスイッチ」のワザを紹介します。第1回は、“自分の心の安全地帯”を守るワザです。
コミュニケーションでのもやもや、不快感の正体は?
家族や友達、職場の同僚や上司など、人とのかかわりの中で、なんとなくもやもやしたり、不快に感じたことはありませんか。それは、「ラインオーバー」されているからかもしれません。

ラインオーバーの「ライン」とは、「自分と他者を区別する、意識的な境界線」のことです。目には見えないけれど、自分が安心できる心の領域と他人の領域を区別する、「心の境界線」のようなものです。その心理的な境界線(ライン)を越えて侵害している/されている状態のことを、心療内科医の鈴木裕介さん(※)は「ラインオーバー」と呼び、人間関係でのストレスを生む大きな要因だと指摘します。

「マウント」もラインオーバー
「ラインオーバー」には、いろいろなケースがあります。どんな状態があるのか、詳しく見てみましょう。まず、他人からの「ラインオーバー」の例としては、「過度な要求」や「マウントをとる」などがあります。いずれも、相手が優位な立場にあり、アンフェアな関係になっているといえます。思い当たることはありませんか。

一方で、相手のためを思ってしたことでも、気づかぬうちに自分が「ラインオーバー」していた、ということもあります。
いずれにしても、この「ラインオーバー」の状態を放置すると、徐々に生きづらくなっていく可能性があるそうです。それは、ラインオーバーによって生まれる「不快な感情」で体の中でストレス反応が起き、それが続くことで知らず知らずのうちにそのダメージが蓄積し、心も体もしんどくなっていくからです。
ラインオーバーを防ぐには?
では、ラインオーバーされない/しないためにはどうすればいいのか。それにはまず、自分の安心領域の境界線を明確にする「自分ライン」を決めることだと、心療内科医の鈴木さんはいいます。
「自分ラインは、自分が感じて、自分が決めることが大事」と鈴木さん。相手の考えを聴いたり尊重して引いたりするものではなく、相手に要求されて変えるものでもないのです。

わざわざ「自分ライン」を引いたりしなくても、自分と他人の境界線は当たり前にあるだろう、と思っている人は多いかもしれません。あまりピンとこないという人は、そもそも自分と他人の境界の意識があいまいだったり、相手との摩擦を避けたいといった気持ちから境界線を引くのが苦手だったりする可能性もあります。
また、ラインオーバーに敏感になることも、自分の心の安心領域を守ることにつながります。相手とのやりとりで「不快感」があったら、それはラインオーバーのサインかもしれません。嫌だからと流さずにいったん注目して、自分がなぜそう感じたのか、感じた事実を客観的に捉えて、考えてみましょう。

この作業をして人との関係を整理していくと、自分がされたくないこと、自分にとって不要なことや不要な人間関係などが見えてきて、守るべき自分の領域がハッキリと見えてくるようになります。
「~しなければ」が増えすぎると疲れる

頑張り屋さんほど、「私が~しなければ」「~すべき」という考えが無意識に働いているかもしれません。こうした「べき思考」は、実は「他人軸」で考えることで起きることが多く、それが増えると疲れてしまいます。

「人の役に立ちたい」という気持ちも素晴らしいのですが、行きすぎてしまうと、本当に自分がしたいことは何なのかがわからなくなったり、疲弊してしまったりする場合もあります。

SNSも、相手が見えないために、ラインオーバーが起きやすい環境です。ここでも、自分ラインを忘れないこと。相手が目の前にいるときと同じように、距離のとり方やかかわり方を考えることが、心の安定を保つためには重要です。

さらに、自分が一緒にいてラクにいられる人を日ごろから意識してみるのも、心穏やかに過ごすためには有効です。頑張らなくても自分らしくいられる人、断っても理解してくれる人、尊重してくれる人など、年齢や関係性など関係なく対等につきあえる人は誰なのか。一方で、ラインオーバーされることが多い相手には近づかないようにする、きちんと断るといった対応も大切です。

そして、ときどき立ち止まって、体が疲れていないか、心がしんどくなっていないかも振り返ってみるようにしましょう。頭では「まだまだ大丈夫」と思っていても、体に疲れが溜まっていることはよくあります。睡眠をとるなど、早めに気づいてケアすることで心に余裕が生まれるかもしれません。
「不快だった過去のやりとりを思い出しては、そのたびにイライラ、もやもやするネガティブな時間を過ごしていました。それを、何年も引きずっていたんです」と崎田さん。それが「鈴木先生のいう『ラインオーバー』によるものだったと腑に落ちてスッキリしました。無駄に悩む時間が減って、気持ちがラクな時間が増えました」(崎田さん)。
最新刊『やすらぎスイッチ』には、ラインオーバーしやすい/されやすい人のチェックリストや、ラインオーバーされたときにストレスを減らす具体的なワークなど、ここで紹介しきれなかった数々の方法を収録していますので、合わせてチェックしてみてください。
第2回は、精神的なプレッシャー、肩や首のこわばりをゆるめたいときにお薦めの、「極上の脱力! いつでもどこでもできる【ゆるふわ筋弛緩法(きんしかんほう)】」を紹介します。
[日経xwoman 2025年5月16日付の記事を転載]
崎田ミナ著/日経BP/1870円(税込み)
