書店員の投票のみで選ばれる本屋大賞
出版不況が続くなか、「売り場からベストセラーをつくる!」という思いを込めて設立された本屋大賞。2026年4月9日、東京・明治記念館で「全国書店員が選んだ いちばん! 売りたい本 2026年本屋大賞」の授賞式が行われた。
本屋大賞実行委員会は全国の有志の書店員で運営され、書店員の投票のみで賞が選ばれる。26年の一次投票は全国490書店から書店員698人、二次投票では345書店から書店員470人が投票した。二次投票では忙しい仕事の合間を縫い、ノミネート作品をすべて読んだ上でベスト3を選び、推薦理由とともに投票。授賞式参加への申し込みは過去最多の700人を超え、会場は抽選で選ばれた書店員をはじめ、出版関係者らでにぎわった。
今年のノミネート作品は『イン・ザ・メガチャーチ』(日経BP/朝井リョウ)、『熟柿』(KADOKAWA/佐藤正午)、『PRIZE─プライズ─』(文藝春秋/村山由佳)、『エピクロスの処方箋』(水鈴社/夏川草介)、『暁星』(双葉社/湊かなえ)、『殺し屋の営業術』(講談社/野宮有)、『ありか』(水鈴社/瀬尾まいこ)、『探偵小石は恋しない』(小学館/森バジル)、『失われた貌』(新潮社/櫻田智也)、『さよならジャバウォック』(双葉社/伊坂幸太郎)の10作品。
『イン・ザ・メガチャーチ』が大賞作品に発表されると、2025年に『カフネ』(講談社)で大賞を受賞した阿部暁子さんから祝福の言葉が寄せられた。阿部さん自身も『イン・ザ・メガチャーチ』のテーマとシンクロする「とある存在に出会って心を奪われて以来、その存在を称えて愛する活動」をしているそうで、「もう、後半は時間を忘れて読みふけった」と話した。
「『イン・ザ・メガチャーチ』を読んで、212ページで『分かる…』、264ページで『身に覚えがある…』と。とても面白く、力のある大作です。
去年、自分がこの本屋大賞に関わって感じたのは、本を選出する書店員さんたちと、読み手である私たちが『心揺さぶる物語に出合いたい』という願いを挟んで、つながり合っているということでした。
今日のこの大ニュースを受けて、『イン・ザ・メガチャーチ』を手に取る人がたくさんいると思います。もし、推し活をしていたら自分のことに思いを馳せるでしょうし、自分が愛とか欲という言葉でふんわり包んでいたものを暴かれたり、突きつけられたり、すごく深く考えさせられたりすると思います。思考が揺さぶられる、心が揺さぶられることこそが物語を読む醍醐味です」(阿部暁子さん)
そして、26年の本屋大賞受賞者である朝井リョウさんが登壇。朝井さんは3回目のノミネートでの受賞となった。
「本屋大賞にノミネートされた『正欲』『生殖記』、そして今回の『イン・ザ・メガチャーチ』は、実は私の中ではある共通のテーマを描いている3作品です。それを一言で言うと『生きる推進力』。生と死が隣同士に並んでいたとしたら生のほうを選び取る理由、きっかけを探りたかったのです。
そして、生きているなかで感じるポジティブな感情よりも共同体の仕組みや構造を考えて小説を書いてきました。私が3作品で書きたかったのは、人間よりも構造や現象だったのかもしれません」
「私も本屋大賞では好きな作品がたくさんあります。読んでいて思うのは、すごく人間が描かれているということです。私は3作品を書きながら、自分は『小説』と呼ばれるものの手前で、いろいろ言葉をこねくり回しているのかと思っていました。3作品が誰かをエンパワーメントできているかというと、自分でもうなずきづらい。こんな感情を紙の上に引きずり出してもいいのか、読者のみなさんに届けるものがこの感情でいいのか、すごく不適切な偏りがあるのではないかと。
一方で、たった1人で書く小説というものは、偏りがあってこそだと思います。今回の本屋大賞は他の文学賞と比べても、それぞれの極端と呼ばれるものが横並びになっています。自分が絶対に書かない作品、絶対に書けない作品が並んでいるから、自分も自分の中の偏りを大切にできるんだと感じました。たくさんの書き手の極端、偏りが詰まった本というものが並ぶ本棚、その本棚が並ぶ書店という場所を守ってくださっているみなさまに改めて感謝を申し上げます」(朝井リョウさん)
時を経て再発見された「発掘本」も受賞
この日は大賞以外にも「翻訳小説部門」「発掘部門」の受賞作品も発表された。
翻訳小説部門の1位に選ばれたのは『空、はてしない青』(講談社/メリッサ・ダ・コスタ著、山本和子訳)。
同作は2018年、ネット上で発表されて話題となり、出版された。若年性アルツハイマーで余命2年と診断された青年が、人生最後の旅をしようとネットで同行者を募ったところ、ちょっと風変わりな女性とキャンピングカーで旅をすることになり……という物語だ。著者のメリッサさんの来日はかなわなかったが、等身大パネルが登場し、ビデオメッセージが寄せられた。
「この物語がレジリエンスや旅、自由への探求を描き、人と人とのつながりや自然への愛、そして何よりも『生』を讃えるこの物語が日本で共感を得られたことに大きな喜びを感じています。私の小説を支持し、広めてくださったすべての書店員のみなさま、出版社に心から感謝しています」(メリッサ・ダ・コスタさん)
そして、翻訳者の山本知子さんも受賞の喜びを述べた。
「私がこの作品の原書を初めて手に取ったとき、実はあまりの分厚さとページ数に少しひるみました。しかし、読んでみると映像が次々と頭に浮かび、まるで映画を見ているようで、気がつくと主人公たちと一緒に旅をしている自分がいました。最後の何章かはもう涙で文字がかすみましたが、読み終わったときには悲しみや切なさよりも、むしろすがすがしい気分に包まれました。
読者からは『翻訳本は苦手だと思っていたけれど、この作品を読んでイメージが変わった』という声もあります。そうした感想を拝読するたびに、私自身もこの小説の魅力を再発見し、翻訳に携われて幸せだと思う日々です。今回の受賞を機に、さらに多くの方がこの作品を読んでくださり、ひいては外国の小説に興味を持ってくださる方が少しでも増えるのであれば、訳者としてこんなにうれしいことはありません」(山本知子さん)
また、「発掘部門の超発掘本!」を受賞したのは原田宗典さんの『旅の短篇集 春夏』(角川文庫)。
原田さんは「20世紀の地層をもう少し深く掘れば、吉行淳之介、三浦哲郎、開高健など、きら星のごとく輝いた短編の名手たちを発掘できたのに」と会場を沸かせ、「旅の短篇集」の「篇」がなぜ竹かんむりなのかについて、吉行淳之介が「篇」の字を使っていたのをまねたのだと話した。
もともと『旅の短篇集 春夏』は城達也さんがパーソナリティーを務めたエフエム東京の「ジェットストリーム」のために書いた作品。
「金曜日の夜はミッドナイト・オデッセイと銘打ち、城さんが3話ずつ小説を朗読してくれました。毎週3話ずつ小説を書くのはけっこう大変でしたが、城さんがあの声で『いつもありがとう。とっても楽しみにしていますよ。すごく面白いです』と言ってくださったおかげで、4年ほど書き続けることができました。みなさんもぜひ、この本は声に出して読んでみてください。
僕には他にも書き残している短篇集がたくさんあります。来年も再来年も発掘していただいて、かまいません」(原田宗典さん)
作家、書店員の熱い思いが交錯した本屋大賞授賞式となった。次回は本屋大賞実行委員会を務める書店員たちの声を紹介する。
取材・文/三浦香代子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集) 写真/稲垣純也





