会議、プレゼン、日常会話……。あなたの話はなぜ伝わらないのか。テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作さんは、「自分が理解できていないことを、あたかも知っているかのように話してしまう人が意外に多い」と指摘します。新刊『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(日経BP)から抜粋・再構成する連載の第3回をお届けします。
「この人、本当に理解して話してるのかな……?」
人の話を聞いていて、そう感じたことはありませんか? 会議やプレゼンなどで話を聞いていると、時折「この人、実はちゃんと理解してないな」と思う場面に出くわします。
会議で「新しいマーケティング戦略について説明します」と自信満々に話し始めた同僚が、ちょっと突っ込んだ質問をされると途端に言葉に詰まる。こうした光景を見たことがある人もいるでしょう。
逆に、あなた自身も「知ったかぶり」で説明をしてしまい、聞き手の質問にうまく答えられず、気まずい思いをした経験はないでしょうか。
私たちは、「自分で理解していること」しか伝えられない。このシンプルな事実は、つい見過ごされがちです。多くの人が、内容を十分に理解しないまま話そうとするため、相手に誤解や混乱を与えてしまっています。
人にうまく伝えられない人は、大きく分けて2つのタイプに分類されます。
①伝える技術がないタイプ
頭の中では理解しているけれど、それを整理して伝える力が足りない人です。例えば、専門知識が豊富な研究者が一般の人に向けて話そうとするとき、専門用語ばかりで話が全く伝わらない場合です。
②そもそも内容を理解していないタイプ
自分が理解できていないことを、あたかも知っているかのように話してしまう人です。①より、こちらのほうが問題ですが、こうした「知ったかぶり」は、ビジネスの現場でもよく見られます。
例えば、次のような説明です。「このプロジェクトは、各部門のシナジー効果を最大化し、イノベーションを促進することで、大きなバリューを生み出すことができます」
言葉だけは“それっぽい”のですが、結局 「何をどうするのか?」が全く分かりません。カタカナ語を否定するわけではありません。ただ、その意味を本当に理解しているのか、疑問を生む伝え方です。

世の中の5割ぐらいは「知ったかぶり」でできている
確かに②のように、「受け売り」の知識を「知ったかぶり」で話さなければならない場面も多いでしょう。私たちが話していることは、ほとんどが「受け売り」です。世の中の5割ぐらいは「知ったかぶり」でできています。
しかし、あなたが何かを本気で相手に伝えようとするなら、その基本的な内容を自身がしっかりと理解していることが不可欠です。
先ほどの、それっぽい文章では、「シナジー効果とは何か」「イノベーションとは具体的にどんなことか」 を自分で理解し、具体的な言葉で説明できなければ、相手には全く伝わりません。
特にビジネスの現場においてはそうです。基本的な要素や本質を理解していないと質問には答えられないし、逆に相手に誤解や混乱を与えるだけです。
では、「理解している」とはどういう状態を指すのでしょうか。一般的には、言葉で内容を説明できるだけでなく、相手からの質問にも分かりやすく答えられるレベルまで達していることです。
これに対し、私が考える「理解している」の基準はシンプルです。
まずは、「それを中学生に説明できるかどうか」です。
もし自分の理解力が中学生レベルだったとしても、その説明を理解できるか? また、中学生がすんなりと理解できる言葉で説明できるか? という基準です。
なぜ中学生を基準にするのか。それは、私のような多くの視聴者に情報を伝えるテレビ報道の人間にとって、ニュース原稿を書くときに「中学生に伝わるか」というひとつの基準があるからです。

これは中学生が理解できるレベルにまでかみ砕くことができれば、多くの人にも伝わるという考え方に基づいています。
中学生や高校生は、基本的な日本語の文章を理解し、四則計算(足し算・引き算・掛け算・割り算)ができるレベルの知識を持っています。漢字や数字の意味も分かっていて、ある程度の論理的な思考力も備えています。
そのため、「子どもからお年寄りまでの幅広い層の中で、平均的な理解力を持つ存在」と考えることができます(もちろん、厳密な基準ではありません。放送局や番組の方針によって異なりますし、難しいニュースをすべて簡単にすることはできません)。
しかし、中学生に社会の仕組みや出来事を説明するのは、決して簡単ではありません。実際は、大人に説明するよりもはるかに難しいのです。
大人は社会経験があるため、経済活動やビジネスの仕組みを前提に説明できます。しかし、中学生には、そんな 「大人の常識」は通用しません。そもそもアルバイトも許されていないことが多く、まだ働いた経験がありません。
「経済活動とは何か」 といった基礎的な社会の仕組みも分かっていないことがほとんどです。率直に言って、中学生に物事を説明するのはとても面倒です。
このため、伝えるべき物事を一度、徹底的に分解して、それをゆっくりと再び組み立てる作業が必要になります。この「とことん分解して組み立てる」作業こそが、分かりやすく伝えるときは必須の作業になります。
[日経ビジネス電子版 2025年5月20日付の記事を転載]
豊島晋作(著)、日経BP、1980円(税込み)
